本記事では東野圭吾さんの小説『秘密』を紹介します。
秘密
著者:東野圭吾
出版社:文藝春秋社
ページ数:464ページ
読了日:2025年8月22日
満足度:★☆☆☆☆
東野圭吾さんの『秘密』。
広末涼子さん主演で映画化されている。
「このミステリーがすごい!1999年版」9位。
あらすじ
自動車部品メーカーの生産工場で働く杉田平介の妻・直子と
小学校五年生の娘・藻奈美は、
親戚の告別式のためにスキーバスを利用して長野に向かっていた。
しかし、二人を乗せたバスが運転手の居眠り運転により崖から転落してしまい、
妻の直子は亡くなってしまう。
娘の藻奈美は外傷はないものの、
脳に影響があり意識が戻らない可能性が高いとのことだった。
しかし直子の葬儀の夜に藻奈美は意識を取り戻すが、
意識を取り戻した藻奈美は、「私は直子なの」と父・平介に告げる。
娘・藻奈美の体に宿っていたのは死んだはずの妻・直子の意識だった。
娘の体を持つ妻と夫との切なく奇妙な「秘密」の生活が始まる
主な登場人物
・杉田平介:自動車部品メーカー『ビグッド』の生産工場の班長。
物語開始時は三十九歳。
・杉田直子:杉田平介の妻。
・杉田藻奈美:杉田平介と杉田直子の娘。物語開始時は小学五年生。
・橋本多恵子:杉田藻奈美の担任教師。
・笠原三郎:杉田直子の父親。
・笠原容子:杉田直子の姉。
・梶川幸広:大黒交通のバスの運転手。
・梶川征子:梶川幸広の後妻。田端製作所の準社員。
・梶川逸美:梶川征子の娘。初登場時は中学二年生。
・根岸典子:梶川幸広の前妻。ラーメン屋『熊吉』の経営者。
・根岸文也:根岸典子の息子。初登場時は北星大学の三年生。
・藤崎和郎:事故で双子の娘を二人亡くしている。印刷会社の経営者。
・松野浩三:時計屋の店主。
・相馬春樹:杉田直子の先輩。初登場時は高校二年生。テニス部。
ネタバレなしの感想
本書『秘密』は、スキーバスの転落事故に遭い、妻・直子は死亡、
娘・藻奈美は奇跡的に助かる。
しかし目を覚ました藻奈美の体には、直子の意識が宿っていた。
「娘の体に入った妻」と暮らすことになった夫・平介の
夫婦なのか親子なのか、奇妙な二人の関係が描かれている。
娘の体に母親の意識が入るというSF的な設定ということで、
東野さんの作品でいえば『分身』や『変身』を思い出させるも、
具体的になぜそうなったか?は特に描かれておらず、
本書はかなりファンタジー的な設定になっている。
話としては夫・平介と娘の肉体に宿った妻・直子という複雑な関係性をメインにして、
さらにスキーバスの運転手を巡る事故原因をミステリー要素に、
物語は展開していくことになる。
東野圭吾さんの本は数多く読んできて、
特に代表作・有名作はほとんど読んでいると思うけれど、
東野さんの出世作ともいえる本書だけは一回も読んだことなかった。
読まなかった理由は一応あって、
娘の体に妻の意識(魂)が宿るという設定に惹かれなかったので。
そして今回読んだ感想としては、とにかく合わなかった。
おそらく娘の体に妻の意識が宿るという設定が受けてヒットしたと思うけれど、
個人的にはこの設定を特にうまく活かせているとは思えず、
ミステリーとしてのバス運転手の話もとってつけたような感があって、
本書がなぜここまで評価が高いのかが理解できなかった。
個人的にはおすすめはしないけれど、世間的には評価はかなり一冊になっている。
ネタバレありの感想
否定的な意見しか書かないので、本書を好きな方はブラウザバックをお願いします。
まず体は別として娘の藻奈美を失っている以上は
杉田平介と直子が娘・藻奈美を失った感情がもっと描かれていないとおかしいのに、
ほとんど描かれていないのはいかがなものかと思う。
そして娘の体に母親の意識が宿るというものだが、
正直この設定で何が描きたかったのか、伝えたかったのが私には全く分からなかった。
セックス(性的な部分)を描きたかったのかもしれないけれど、
そもそも体自体が娘である以上は、読んでいても気持ち悪さしかなかった。
しかも直子も直子で、小学六年生の体で手とか口を使うとか言い出すのも、
ちょっとありえないかなと。
私の読み方の問題もあるのかもしれないけれど、
平介の心情というのもあまりうまく描けているとは思えず、
高校生になった直子への嫉妬は読んでいて結構きつかった。
直子は若い肉体になって、
中学受験や高校受験など先を見据えて人生をやり直しているとしか思えないので、
平介だけではなく直子の心情というのも中々理解が難しい。
最終的には藻奈美が復活して直子の意識が消えて無くなるわけだけれど、
実際には直子の演技で藻奈美は復活していなかったというオチ。
これはテディベアのぬいぐるみの中に入れた指輪から
平介が真相に気づくというもの。
平介は直子の心情を理解して納得したみたいだけれど、
個人的にはこれはこれで、物凄くむごいことを直子がしているとしか思えなかった。
またバスの運転手に対しても、
なぜ杉田平介が興味や関心を持つのかがしっかりと描かれているとは思えず。
運転手・梶川幸広の前妻である根岸典子は、事故の原因を知っていたにも関わらず、
お葬式にも行かないなど、かなりの人でなしとか思えない。
ほとんどの登場人物に共感しづらい作品だった。