本記事では東野圭吾さんの小説『宿命』を紹介します。

宿命
著者:東野圭吾
出版社:講談社
ページ数:378ページ
読了日:2024年6月16日
満足度:★★★★☆
東野圭吾さんの『宿命』。
2004年にWOWOWでドラマ化された。
あらすじ
日本でも屈指の電気機器メーカーであるUR電産の社長・須貝正清が
真仙寺墓所で何者かにボウガンから発射されたと思われる毒矢で殺された。
ボウガンと毒矢はUR電産の前社長・瓜生直明の遺品であった。
そのボウガンと毒矢を入手できる者として、
犯人は身内の人間ではないかと考えられた。
この事件の捜査にあたることになった島津警察署の刑事・和倉勇作は、
驚くべき人たちと再会することになる。
一人は、学生時代の宿敵とも呼べる相手・瓜生晃彦。
もう一人は、心ならずも別れなければならなかった初恋の女性・瓜生美佐子。
美沙子は、あろうことか勇作の宿敵である晃彦の妻になっていたのである。
登場人物
・和倉勇作:島津警察署の刑事。巡査部長。
・瓜生晃彦:統和医科大の脳神経外科の医者。和倉勇作の小中高の同級生。
・瓜生美佐子:瓜生晃彦の妻。旧姓は江島。
・瓜生直明:故人。UR電産の前社長。父親は瓜生和晃で、UR電産の元社長。
・瓜生亜耶子:瓜生直明の後妻。
・瓜生弘昌:瓜生直明と亜耶子の子供。瓜生晃彦の義弟。大学生。
・瓜生園子:瓜生直明と亜耶子の子供。瓜生晃彦の義妹。高校生。
・内田澄江:瓜生家の家政婦。
・水元和美:忙しくなると手伝いに来る瓜生家の家政婦。
・須貝正清:事件の被害者。UR電産の社長。父親は須貝忠清で、UR電産の元社長。
・須貝行恵:須貝正清の妻。
・須貝俊和:須貝正清の息子。UR電産の社員。
・尾藤高久:須貝正清の秘書。前は瓜生直明の秘書をしていた。
・松村顕治:UR電産常務。瓜生派。
・中里:UR電産専務。
・池本:UR電産の開発企画室の室長。
・紺野:県警本部捜査一課の刑事。主任捜査官。警視。
・西方:県警本部捜査一課の刑事。キャップ。警部。
・織田:県警本部捜査一課の刑事。警部補。
・渡辺:刑事。警部補。
・和倉興司:故人。和倉勇作の父親。元島津警察署の刑事。
・日野早苗:故人。和倉勇作がレンガ病院で出会った女性。通称「サナエ」。
・江島壮介:瓜生美佐子の父親。三ツ井電気工事勤務。
・江島波江:瓜生美佐子の母親。
・鈴木:統和医科大の学生。
・上原雅成:故人。上原脳神経外科病院(現在は上原病院)の院長。
・上原伸一:上原病院の院長。上原雅成の娘婿。
・上原晴美:上原伸一の妻。上原雅成の娘。
・山上鴻三:上原雅成の大学時代の友人。
・片平:古書商。
ネタバレなしの感想
1990年に刊行された本書『宿命』は間違いなく、
東野圭吾さんの中でのターニングポイント的な存在で、
それまでのトリック重視から人間重視になっている作品である。
UR電産の社長・須貝正清殺しは起こるけれど、
物語としては子供時代からの宿敵である和倉勇作と瓜生晃彦の宿命が
大きなテーマになっている。
さらにそこに、勇作が子供時代にレンガ病院で出会い、
そして病院の窓から転落死した女性・サナエ。
浪人生時代に付き合っていて、
今は晃彦の妻になった瓜生美佐子などの宿命が描かれている。
見えない『糸』に操られた登場人物たちを描き、
ラストの一行に向かって全てが隅々まで計算されている。
90年代の東野さんの作品はハイレベルのものが多いとは思っていたけれど、
『宿命』を読んで改めてその面白さを再認識した。
人間を描くと同時に、かなり緻密な計算がされているのが分かるし、
ボウガンを使った殺害方法や犯人探しの謎解きの面白さも十分あるので、
ミステリー作品としても十分楽しめるようになっている。
ネタバレありの感想
冒頭で描かれているサナエ、瓜生美佐子の言う『糸』の存在、
そして須貝正清殺しという三つの謎、これらが収斂していく様は見事の一言。
ミステリー的な話でいえば須貝正清殺しに関しても、
最初は和倉勇作と美沙子が瓜生晃彦を疑うというミスリードがありながらも、
瓜生弘昌(と瓜生園子)が逮捕される。
しかし、そこから松村顕治と内田澄江の犯行ということが明らかになる。
(松村の犯行を見破るのは勇作ではなく、勇作と組んでいた織田というのも、
悪くなくて、主人公の勇作を超人にしていないのが良い。)
ただ松村の犯行の裏側には晃彦も関わっていて、
毒矢にすりかえたということを勇作が見破ることになる。
なので美沙子が見た裏門から去っていった人物や接着剤など、
張られていた伏線はしっかり回収されている。
ただ物語的には殺人事件そのものよりも、
見えない糸に操られた宿命ともいえるものの方が読みごたえがあった。
勇作と晃彦、レンガ病院のサナエの事件、
美佐江の父親や松村顕治が須貝正清を殺した動機など、
電脳式心動操作方法の研究によって生じた物語とそれに翻弄される人間がよかった。
ツッコミどころとしては、
勇作と晃彦の関係性を考えるとどこで鰻が大嫌いと知ったのか気になる。
(学校の給食で鰻って出る?)
美沙子が晃彦に惹かれているとは思えないので、なぜ結婚したのかがよくわからない。
おそらく今だともっと長くなるのかもしれないけど、
これぐらいの長さで綺麗にまとまっている方が個人的には好き。
