【荒木あかね】『ちぎれた鎖と光の切れ端』についての解説と感想

本記事では荒木あかねさんの小説『ちぎれた鎖と光の切れ端』を紹介します。

ちぎれた鎖と光の切れ端

ちぎれた鎖と光の切れ端

著者:荒木あかね

出版社:講談社

ページ数:464ページ(単行本)

読了日:2024年6月19日

満足度:★★★★☆

 

荒木あかねさんの『ちぎれた鎖と光の切れ端』。

このミステリーがすごい!2024年版」10位。

 

あらすじ

島原湾の孤島・徒島の海上コテージに集まった八人の男女。

その内の一人である樋藤清嗣は、先輩の無念を晴らすために、

自分以外の客を全員殺すつもりでいたが、計画を実行する間際になって、

「本当にこいつらは殺されるほど、ひどいやつらなのか?」という疑問を抱き、

その殺意は鈍り始める。

そして島に滞在初日の夜、

参加者の一人が舌を切り取られた死体となって発見される。

樋藤が衝撃を受けていると、連続して第二、第三の殺人事件が起きてしまう。

しかも、被害者は「前の殺人の第一発見者」で「舌を切り取られて」殺されていた。

 

登場人物

・樋藤清嗣:大学生。引っ越し屋でバイトしている。

・伊志田千晶:医療事務。

・浦井啓司:区役所職員。

・加蘭結子:人気商売をしている。綽名は蘭子。

・竹内隼介:サラリーマン。

・大石有:引っ越し屋。樋藤清嗣とは同い年で、伊志田千晶たちよりは一学年下。

・橋本亮馬:ニートみたいなフリーター。

・九城健太郎:徒島海上コテージの管理人。

 

ネタバレなしの感想

本書は二部構成になっていて、

第一部の物語の舞台は島原湾の孤島で、クローズドサークルものになっている。

島に渡った八人のうちの一人である樋藤清嗣は、全員を毒殺するつもりだったが、

何者かが樋藤に先駆けて殺人を犯していく。

しかも、前の殺人の第一発見者が次に殺されていくというものになっている。

 

樋藤は当初は、全員を殺した後に犯行声明文をネットに

アップロードする予定だったために、

犯行声明が公開されるまでに犯人を見つけだすという強い動機を持っているので

殺人県が発生後は、探偵役になる。

また樋藤は、当初は他の人間を殺そうとしていたということで

純粋な探偵役とは異なっていて、他の人間たちの過去の行いを当初から

把握しているというのが特徴になっている。

 

第一部に関してはクローズサークルということもあり、本格ミステリー要素が強く、

登場人物たちをしっかりと把握する前に殺人事件が起きて物語がどんどん進んでいく。

裏を返せばかなりテンポよく物語が進んでいくことになるので、

読みやすさも含めてかなり良かった。

 

第二部に関しては、当然第一部と関係することになっているけれど、

もし読む予定であるなら事前に情報を入れずに読むことをお薦めする。

出来れば二部構成であることも、知らないで読んだ方が良いと思うけれど、

本書を読むとハッキリ書いてあるし、本の紹介が難しいので明記した。

本格ミステリー要素だけではなく、

事件の背景になるものや、読後感も含めて個人的にはかなり面白かった。

初めて荒木あかねさんの本を読んだけれど、かなり面白かったので、

デビュー作も読んでみようと思う。

皆さんも気になったら是非読んでみてください。

 

 

ネタバレありの感想

本を読み始めた当初は、本格ミステリーものにありがちな

登場人物のキャラクター把握に時間がかかって、

本書を読んだことをちょっと後悔してしまった。

もっとも殺人事件が起きて樋藤清嗣と九城健太郎と伊志田千晶で事件を

調べる段階になると、物語に引き込まれていてどんどん読み進める感じになった。

で、事件の犯人に関しては、入り江で九城健太郎と出会ったシーンで怪しいと感じた。

というのもコテージの桟橋の方ではないところから現れるというのは、

あまりにも不自然すぎるということで。

あとは九城が喫煙者を把握しているのは、船での喫煙シーンが伏線になっていて、

冒頭に登場した「清白丸」の漁師=九城という分かりやすいポイントだったかな。

 

第一部ラストの九城の推理シーンは流石に無理がありすぎたけれど、

樋藤の推理シーンとラストは一気に読ませるものがあった。

 

第二部は一転して主人公が横島真莉愛という女性に、

そして物語の舞台も大阪に変わる。

真莉愛の爪を噛む癖から九城健太郎(偽者の方)の妹であることは容易に

想像がつく。

 

第二部もいきなり真莉愛がバラバラ死体を見つけるところまでは良かったが、

中盤では多少の中弛みを感じてしまった。

そのあとはテンポよく物語が進んでいくけれど、

新田如子の推理は凄いというよりも、若干のご都合主義的に感じてしまった。

あと真莉愛は真莉愛で、かなり癖が強く、他人との距離感がおかしく感じるので、

あまり共感できなかった部分もある。

「一度トラブルがあったら即絶交。」(331P)とあるように、

対人関係があまりうまくないタイプなんだろうけれど、それにしても極端すぎる。

 

病院で横島和美が樋藤を殺そうとするも、真莉愛たちに阻止されて、

自殺しようとするも救助マットに助けられるのは、

紀田洋平の自殺未遂のエピソードが伏線になっているのも含めて良かった。

樋藤が目を覚し、樋藤が横島和美と拘置所で会話することによって、

タイトルの『ちぎれた鎖と光の切れ端』の意味が分かるようになっている。

 

樋藤の考え方の全てに納得するわけではないけれども、

分かる部分もあるし、メッセージ性をうまく小説に反映させているかなと。

「所有物」であるとか他者との関係性、

これは真莉愛や新田という女性と組織や他者との関係性の描き方からも分かる。

 

第一部では、(偽の)九城の殺人の方法がかなりの偶然というか

行き当たりばったりに思えるし、

樋藤が(偽の)九城の指の骨を食いちぎる

(そもそも人間の指の骨を食いちぎれるのか?)のはかなり強引な展開に思えた。

第二部では、交換殺人事件で九城があっさり騙されていることや、

新田の推理が神がかりすぎていることなどツッコミどころはあるけれど、

本格ミステリーとその背景を描こうとしているのは好感を持てた。

また一気に読ませるものがあったので、個人的にはかなり面白かった。

 

第一部がアガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』、

第二部がアガサ・クリスティーの『ABC殺人事件の』のオマージュになっている。