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【荒木あかね】『此の世の果ての殺人』についての解説と感想

本記事では荒木あかねさんの小説『ちぎれた鎖と光の切れ端』を紹介します。

此の世の果ての殺人

此の世の果ての殺人

著者:荒木あかね

出版社:講談社

ページ数:368ページ(単行本)

読了日:2024年6月27日

満足度:★★★☆☆

 

荒木あかねさんの『此の世の果ての殺人』。

荒木あかねさんのデビュー作品であり、江戸川乱歩賞受賞作品。

このミステリーがすごい!2023年版」11位。

 

あらすじ

小惑星「テロス」が熊本県北東部の阿蘇郡に衝突することが発表され、

世界は大混乱に陥り、日本からも多くの人々が消えた。

そんなパニックをよそに衝突地点から近い大宰府で、

ハルはある夢を叶えるために、

淡々とひとり太宰府で自動車学校の教官・イサガワから

自動車の教習を受け続けていた。

そして年末、教習車のトランクを開けると、滅多刺しにされた女性の死体を発見する。

ハルはイサガワとともに、地球最後の謎解きを始める。

 

登場人物

・ハル:大宰府自動車学校に通っている女性。名前は小春。

    小惑星衝突公表以前は印刷会社の営業職。23歳。

・イサガワ:大宰府自動車学校の教官。以前は警察官だった。

 

・了道暁人:8年前の了道事件の犯人。

・了道光:了道暁人の弟。23歳。

・七菜子:中学一年生。

 

・セイゴ:ハルの弟。名前は成吾。17歳。

イチムラハジメ:福岡の統合調整官。名前は市村。

         小惑星衝突公表以前は広島県警本部で捜査二課長。

・銀島栄二:博多北署の少年課少年事件捜査係の刑事。巡査部長。

・高梨祐一:事件の被害者。フリーター。17歳。

・立浪純也:事件の被害者。承南高等学校の学生。17歳。

・日隅美枝子:事件の被害者。二日市法律事務所の弁護士。

・伴田尚美:伴田整形外科の医者。

・長川:伴田整形外科の患者。

・中野イツキ:いじめの被害者。

・笠木眞理子:立浪純也の母親。糸島市の市立小学校の教師。

・内田ヒトミ:息子のヨウジが笠木眞理子の勤めていた私立小学校に通っていた。

・檜山エイコ:福岡残留村の村長。元衆議院議員

・倉松:福岡残留村の男性。檜山エイコの元同級生。

・ユリナ:福岡残留村の女の子。中学一年生。

・ヨシロウ:福岡残留村の男の子。小学三年生。

 

ネタバレなしの感想

翌年三月に小惑星が衝突し人類が滅びる年の暮に刺殺体が発見され、

似た手口の殺人事件が近隣で起きていることを知ったハルとイサガワの二人が、

警察に代わり事件の真相を迫っていくのがメインストーリーになっている。

終末を迎える世界を舞台にしたミステリーで、

ハルとイサガワという女性同士のバデイ小説になっている。

世界が終末に向かうという時期になぜ人を殺すのかというのが大きな謎として、

さらには被害者同士の繋がりであったり、殺され方などの謎が描かれている。

ミステリーとしてはそこまでの驚きはないけれど、

終末という設定が活かされているのと、

殺人事件が起きた後はテンポよく進む物語といい、物語に没入して読むことができた。

終末ものではあるけれど、読後感も決して悪くなかった。

 

 

ネタバレありの感想

物語としては、終末の世界で運転免許取得にいそしむハルとイサガワという

シュールさ。

刑務所から脱獄してきた了道暁人とその弟・了道光の兄弟、

そして成吾に助けられた七菜子と仲間が増えていく熱い展開。

伴田整形外科の屋上で電波を目当てにしている人たち、

笠木眞理子と内田ヒトミ、

そして福岡残留村など終末の世界が活かされている話などは、

非常に楽しむ読むことができた。

 

ミステリーとしては事件の被害者がいじめの関係者であることや、

成吾がいじめの加害者や裁判沙汰寸前までいったことは(31P)に書かれているので、

そこに成吾が関係していることはかなり早い段階で想像はできた。

ただ成吾が犯人と思わせておいての、関係者の中では最初の被害者で、

中野イツキを助けようとして市村に襲われて死んだというのが真相というのは、

物語の展開としては非常に巧かった。

 

市村が事件の犯人であることはパトカーのフロントバンパーが大きくへこんでいる

(226P)で予想はできたけれど、タクシーとパトカーを見間違えるのだけは、

正直あんまり納得ができなかった。

ただ事件当時は街明かりを失った夜空なので、

一応は見間違える理屈は考えられている。

 

事件の真犯人である市村はどうしようもない動機で人を殺していて、

しかも女子供と老人と、

身体の不自由な人ばっかり狙っているという救いようのない存在(324P)に

なっている。

当然読んでいて気分がいいものではないけれど、終末という設定なので、

犯人の動機も含めてある程度の納得はできた。

 

光が死んだのは残念だけど、銀島栄二が市村と残ったり、

暁人と七菜子が中国を目指し、内田ヒトミを福岡残留村に送り届け、

ハルとイサガワが南阿蘇付近で望遠鏡で星を眺めるラストは悪くなかった。

 

序盤の右(ライト)が明かり(ライト)が緊迫するラストに使われるなど

伏線の使い方や、ラストの畳みかける展開などは非常に素晴らしかった。

難点としては、序盤は世界設定の説明も含めて少し退屈だったこと。