【結城真一郎】『難問の多い料理店』についての解説と感想

本記事では結城真一郎さんの小説『#真相をお話しします』を紹介します。

難問の多い料理店

難問の多い料理店

著者:結城真一郎

出版社:集英社

ページ数:352ページ

読了日:2024年8月24日

満足度:★★☆☆☆

 

結城真一郎さんの『難問の多い料理店』。

六篇収録の連作短編集。

 

・転んでもただではない起きないふわ玉豆苗スープ事件

あらすじ

ビーバーイーツの配達員として働く大学生の「僕」は、

注文を受けて向かったゴーストレストランでオーナーと出会う。 

そして「僕」はこの店は「ある手法」で探偵業も担っているらしいと気づいた。

今回の依頼は焼け跡から見つかった焼死体で、

事故なのか事件なのか真相を突き止めてほしいというものだった。

 

登場人物

・「僕」:ビーバーイーツの配達員。大学生。

・オーナー:ゴーストレストランのオーナーシェフ

・梶原涼馬:大学生。

・梶原:依頼者。梶原涼馬の父親。

・諸見里優月:焼け跡から焼死体で見つかった女性。梶原涼馬の元恋人。

・芹沢朱音:梶原涼馬の恋人。大学生。

・目崎:謎の女に関する証言をした主婦。

 

ネタバレありの感想

火災現場で「ざまあみろ」言い、燃え上がるアパートに向かっていった女性と

焼け跡から見つかった焼死体の謎。

事件の真相としては梶原涼馬の自作自演で、

諸見里優月のスマホに公衆電話から着信があったこと、諸見里優月の服装、

梶原涼馬のコンタクトなど真相としてはかなり分かりやすい。

ただどんでん返し要素があって、梶原涼馬の父親が強請りのネタとして

事件の真相を知りたがったというもの。

 

・おしどり夫婦のガリバタチキンスープ事件

あらすじ

今回の依頼は、

車に撥ねられて亡くなった夫の指が二本欠けていることに気付いた妻から

指が二本欠損していた理由を知りたいというものだった。

 

登場人物

・「私」:ビーバーイーツの配達員。四十代半ばの中年男性。

・咲江:「私」の妻。

・オーナー:ゴーストレストランのオーナーシェフ

・指宿大志郎:故人。大手ハウスメーカーの社員。

・指宿頼子:依頼者。指宿大志郎の妻。

・東堂凜々花:『Club LoveMaze』のキャバクラ嬢

 

ネタバレありの感想

交通事故で亡くなった夫の指が二本欠けていた謎。

指宿大志郎が事故時に指を持参してない時点である程度真相は予想できてしまう。

東堂凜々花が指輪を盗み、追い詰められた指宿大志郎が自ら指を

切り落としたというもの。

気になるのはオーナーの「依頼者には全て返しておくから」という

意味深な台詞ぐらい。

特にどんでん返しもなく、

半年もあったら流石に気付かれるだろうとしか思えないし、

頼子に見つかった場合指や指輪についてどう説明する気だったのかなど

いまいち釈然としなかった。

 

・ままならぬ世のオニオントマトスープ事件

あらすじ

今回の依頼は、空き巣未遂事件で犯人は捕まったが、

取り押さえられた直後に「嵌められた」という言葉を漏らしていたが、

裏で誰かが糸を引いていないか全貌を明らかにしてほしいというものだった。

 

登場人物

・「私」:ビーバーイーツの配達員。シングルマザー。

・大翔:「私」の息子。小学三年生。

・オーナー:ゴーストレストランのオーナーシェフ

・守屋琴美:空き巣に入られた部屋の住人。引きこもり状態。

・守屋俊平:依頼者。守屋琴美の兄。外資投資銀行勤務。

・宮原楓子:『丸の縁OL・マルミちゃん』の本名。守屋琴美の中高時代の同級生。

 

ネタバレありの感想

謎の言葉を残して捕まった空き巣未遂事件の話。

『マルミちゃん』に粘着していた守屋琴美が『アバズレくん』で、

その守屋琴美を『マルミちゃん』が嵌めた結果、空き巣が入ったというのが真相。

これも話としては分かりやすく、どんでん返しも無かった。

SNSのリスクを事件そのものと主人公の『私』を重ねて描いてあるが、

特に目新しさは感じなかった。

 

・異常値レベルの具だくさんユッケジャンスープ事件

あらすじ

今回の依頼は、届いた紙袋に注文していないマフラーが入っていたことと、

十回連続で同じ配達員が来たことの謎を解いてほしいというものだった。

 

登場人物

・「俺」:ビーバーイーツの配達員。フリーライター

・オーナー:ゴーストレストランのオーナーシェフ

・林田:『ハヤシダ』の店主。

 

ネタバレありの感想

十回連続で来る配達員と紙袋に入っていたマフラーの謎。

依頼内容は「俺」のでっち上げで、

「俺」がライターであることや林田に接触していることから真相は

かなり分かりやすい。

ラストは「俺」が駅のホームで押されて電車にぶつかって死亡。

物語自体は、

ゴーストレストランのオーナーシェフ絡みということで雰囲気は悪くない。

 

・悪霊退散手羽サムゲタン風スープ事件

あらすじ

今回の依頼は、かつて孤独死があったというマンションの住人不在の部屋に

立て続けに置き配が届いたというもので、

何らかの納得する説明が欲しいというものだった。

 

登場人物

・「俺」:ビーバーイーツの配達員。

     『ソイカウボーイ』というコンビを組んでいる芸人。

・オーナー:ゴーストレストランのオーナーシェフ

・東田:依頼者。『パレス五反田』の二〇四号室の住人。

・山根:『パレス五反田』の四〇三号室の住人。

・堺:「俺」の相方で『ソイカウボーイ』というコンビを組んでいる。

 

ネタバレありの感想

住人不在の部屋に置き配が立て続けに届けられる謎。

オートロックを設置させるために二〇二号室の住人が仕組んだというもので、

これは読んでいるとある程度想像できた。

ただ四〇三号室の件は大家が犯人で四〇四号室の住人を追い出すためというのは、

分からなかった。

 

・知らぬが仏のワンタンコチュジャンスープ事件

あらすじ

今回の依頼は、マンションの一室から住人が忽然と姿を消した謎で、

依頼主はビーバーイーツの配達員だった。

 

登場人物

・「僕」:ビーバーイーツの配達員。依頼者。

・オーナー:ゴーストレストランのオーナーシェフ

・梶原:失踪中の男性。『クレセント六本木』に住んでいた。

 

ネタバレありの感想

マンションの部屋から住人が突然消えた謎。

「転んでもただではない起きないふわ玉豆苗スープ事件」に登場した

「僕」が再び語り手になっている。

謎の真相は梶原の元妻が依頼人で、

梶原をバラバラにして配達バッグに入れて持ちだしたというもの。

他の話も絡んできたり、ダークなオチも決して悪くはないけれど、

「真実ではなく解釈にすぎない」は余計な感があった。

 

総評

本作はウーバーイーツ(作中ではビーバーイーツ)の配達員が助手的存在で、

ゴーストレストランのオーナーが安楽椅子探偵のように事件を解き明かす形に

なっている。

事件自体もSNSやビーバーイーツが絡んでくる時事ネタが扱われている。

 

物語冒頭で謎が提示され、

作中に提示されている伏線から事件の真相が分かるという意味では

かなりフェアだけれど、面白いか?と問われたら、答えに困ってしまう内容。

基本的にはオチが読めてしまい、どんでん返し要素もないか少ないので、

そのオチを超えるほどの何かがあるか?と問われたら、私には無かった。

 

本書にはミステリアスなオーナーシェフ、各篇に登場する謎、

語り手であるビーバーイーツの配達員の人生などの要素があるけれど、

それがうまくまとまっているとは私には思えなかった。

気軽に読む本ということでは悪くないけれど、正直あまりおすすめはしにくい。