【東野圭吾】『パラレルワールド・ラブストーリー』についての解説と感想

本記事では東野圭吾さんの小説『パラレルワールド・ラブストーリー』を紹介します。

パラレルワールド・ラブストーリー

パラレルワールド・ラブストーリー

著者:東野圭吾

出版社:講談社

ページ数:450ページ

読了日:2024年11月28日

満足度:★★★☆☆

 

東野圭吾さんの『パラレルワールド・ラブストーリー』。

玉森裕太さん主演で映画化されている。

 

あらすじ

敦賀崇史には三輪智彦という中学時代からの親友がおり、

智彦は片足が不自由だったせいか、今までに彼女と呼べる人がいなかったが、

ある日、智彦は崇史に「恋人を紹介したい」と告げる。

崇史は親友のはじめての恋人に喜ぶが、

智彦が連れて来た津野麻由子という女性の顔を見て愕然とする。

麻由子は崇史がかって一目惚れした女性だったからだ。

崇史は強烈な嫉妬に苦しむようになる。

 

ネタバレなしの感想

一目惚れした女性への想いと親友との友情の間で揺れながら翻弄されていく

主人公・敦賀崇史を描いている『パラレルワールド・ラブスートーリー』。

序章と十章で構成されていて、

その一つの章の中で二つの物語が並行して描かれている。

 

序章の山手線と京浜東北線の田端、品川間が同じ方向に、

しかも同じ駅に止まりながら進んでいくというのは物語の導入としては、

出色のものになっていて、かなり印象深いものになっている。

 

殺人事件も起きず、序盤は特に大きなミステリー要素もなく、

タイトル通りの恋愛小説にようになっている。

私は本書を昔読んでいて、ストーリーそのものはある程度覚えていたけれど、

仮に知らなくても敦賀崇史や三輪智彦の仕事からある程度の真相は類推できる。

ただラストに至るまでの過程がしっかりと描かれているので、

最後は結構胸にくるものがあった。

もし読むのであれば、あまり情報を入れずに読むことをお薦めする。

 

 

主な登場人物(ネタバレ要素あり)

敦賀崇史:SCENEでは、総合コンピューターメーカーのバイテック社の

      MAC技科専門学校のリアリティ工学研究室の視聴覚認識システム研究班。

      無印ではリアリティシステム開発部。

・三輪智彦:敦賀崇史の中学時代からの親友。

      SCENEではリアリティ工学研究室の記憶パッケージ班。

      無印ではロサンゼルス本社。

・津野麻由子:SCENEでは三輪智彦の恋人で、記憶パッケージ班。

       無印では敦賀崇史の恋人で、脳機能研究班。

 

・桐山景子:敦賀崇史と同期入社。リアリティシステム開発部。

・小山内:MAC技科専門学校の教官。

・須藤:SCENEでは敦賀崇史の上司。

    無印ではMAC技科専門学校の教官。

・篠崎伍郎:SCENEではリアリティ工学研究室の記憶パッケージ班。

    無印ではMAC技科専門学校を退学していて、行方不明。

・直井雅美:篠崎伍郎の恋人。専門学校生。

・夏江:敦賀崇史とテニスサークルで一緒だった女性。

 

ネタバレありの感想

同じ章の中に何も書かれてない話(以下無印と表記)と、

SCENEと表記された話があるが、

無印は記憶改変後でSCENEは記憶改変前になっている。

なのでストーリーそのものは、タイトルのパラレルワールド・並行世界ではなく、

過去(記憶改変前)と現在(記憶改変後)の話になっていて、時系列が違っている。

 

物語の構成としては過去と現在の二つの世界が進行していくもので、

(物語冒頭の山手線と京浜東北線の話が伏線になっている。)

現在では敦賀崇史が親友・三輪智彦のことを

探していくにつれて過去の記憶が蘇ってきて、

過去では崇史が智彦の彼女である津野麻由子を好きになるという恋愛が描かれている。

 

恋愛小説としては、崇史がそこまで麻由子に惚れて、固執する理由が分からないのと、

麻由子の態度も曖昧な感じで理解も共感もできなかった。

おそらく両者とも物語冒頭の電車で一目惚れしていたんだろうし、

麻由子は智彦との肉体関係がないけれど、

崇史相手には(一応)記憶改変前も改変後も肉体関係があることから、

崇史のことを選んでいるんだろう。

恋愛としては悲惨なのが智彦で恋人であった麻由子を失い、

親友である崇史にも裏切られてしまう。

そして最後には篠崎伍郎を救うのと、崇史と麻由子のためにも、

友彦自身の身体を使って事故の再現実験を行い、

スリープ状態になってしまうというオチ。

 

正直崇史よりも友彦の方が主人公らしさはあって、

友彦を裏切った崇史と麻由子の幸せを願う器の大きさと、

篠崎を救おうとする自己犠牲の精神というものがある。

なので友彦の崇史への手紙は胸に来るものがあった。

 

「LAST SCENE」のラストだけ読むと、崇史は逃げてるようにしか思えないけれど、

記憶改変後は崇史も友彦のことを思い出そうと行動するわけだから、

崇史が語り手であるのは納得はできるし、

無印ラストをラストだと思えば読後感は決して悪くないどころか、

こちらをラストだと思えば読後感は良い。

 

序盤で敦賀崇史が脳の話をする時点でSFものという予想が

できてしまうのがちょっと惜しい。

一方で中盤からはサスペンス的な緊迫感もあって読みごたえはあった。

 

SCENEでは一人称が「俺」で、

無印(記憶改変後)では一人称が「崇史」になっていて、

無印(記憶改変後)では津野麻由子たちに観察されているのが示唆されている。