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【まさきとしか】『あの日、君は何をした』についての解説と感想

本記事ではまさきとしかさんの小説『あの日、君は何をした』を紹介します。
三ツ矢&田所刑事(パスカル)シリーズの一作目である。

あの日、君は何をした

あの日、君は何をした

著者:まさきとしか

出版社:小学館

読了日:2024年2月24日

ページ数:368ページ

満足度:★★☆☆☆

 

まさきとしかさんの『あの日、君は何をした』。

三ツ矢&田所刑事(パスカル)シリーズの第一弾。

あらすじ

北関東の前林市で暮らす主婦の水野いづみは、

夫と娘と息子と平凡ながらも幸せに暮らしていた。

そんないづみの生活は、息子の大樹が連続殺人事件の犯人に間違われて、

事故死したことによって一変してしまう。

大樹が深夜に家を抜け出して、警察から逃げたのは何故なのか?

十五年後、新宿区で若い女性が殺害される事件が発生し、

不倫相手の百井辰彦が行方不明に。

刑事の三ツ矢秀平が捜査を進めるうちに、

無関係に見える二つの事件をつなぐ鍵が明らかになる。

 

登場人物

一部に登場

・水野いづみ:主婦。四十二歳。

・水野克夫:水野いづみの夫。工務店勤務。

・水野沙良:水野いづみの娘。前林一高の三年生で第一志望の大学に合格している。

・水野大樹:水野いづみの息子。中学三年生で第一志望の高校に合格している。

・神崎乙女:前林一高から水野沙良と同じ大学へ入学した女性。

・滝岡鞠香:水野大樹と同じ中学校だった女性。

・村井由樹:水野大樹と同じ中学校だった女性。

・林竜一:女性連続殺人の容疑者で宇都宮警察署から逃走中。

 

二部に登場

・田所岳人:警視庁戸塚警察署刑事組織犯罪対策の新人刑事。

・三ツ矢秀平:警視庁捜査一課殺人犯捜査第5係の刑事。

・百井辰彦:現在は行方不明になっている。広告代理店勤務。三十四歳。

・百井野々子:百井辰彦の妻。ウェブデザイナー。三十歳。

・百井凛太:百井辰彦と野々子の息子。

・百井知恵:百井辰彦の母親。

・百井裕造:百井辰彦の父親。マンションの管理人。

・乾瑤子:百井野々子の母親。『YOYO』の店主。五十四歳。

・小峰朱里:事件の被害者。広告代理店勤務。二十四歳。

・加藤:小峰朱里の同僚で同期入社。

・加瀬明日香:ヨガのインストラクター。

       半年ほど前まで百井辰彦が勤めている広告代理店に勤めていた。

・松本:百井辰彦が住んでいるマンションの一階の住民。コンビニ勤務。

・金城:百井辰彦が住んでいるマンションの一階の住民。

・福永:NPO法人ポラリス』の代表理事。元埼玉県警の警察官。

・草薙雅美:『ポラリス』の事務員。

・佐藤宏太:二〇〇四年三月に失踪した草薙雅美の婚約者。

・池:警視庁戸塚警察署刑事組織犯罪対策の刑事。田所岳人の先輩。

・加賀山:警視庁戸塚警察署地域課の刑事。

・亮:二〇〇四年の乾瑤子の恋人。スポーツクラブで夜勤をしている。

・水野克夫:水野大樹の父親。埼玉県所沢市在住。

・猿渡いづみ:水野大樹の母親。水野克夫と離婚している。

 

ネタバレなしの感想

二部構成になっていて、一部は、「宇都宮女性連続殺人事件」の犯人・林竜一が

警察署のトイレから脱走したところから始まる。

そして宇都宮市から約七十五キロ離れた前林市で深夜に警察が不審人物に

職務質問しようとしたところ、相手が自転車に乗ったまま逃走し、

駐車中のトラックに衝突して死んでしまう。

死んだのは中学生の水野大樹で、

一部は主にこの大樹の母親のいづみの視点で描かれている。

そして二部は十五年後の二〇一九年新宿のアパートで女性が殺害される事件が発生し、

不倫相手である百井辰彦が行方不明になる。

二部は百井辰彦の母親・知恵と妻・野々子、

そして事件を担当する刑事の視点で描かれる。

 

一部は事故死した中学生の大樹が深夜に家を抜け出し、

警察から逃げたのはなぜか?というのが

一応は謎にはなるけれど、事故死した大樹の家族の話がメインになっている。

 

二部は刑事視点で描かれている部分もあるけれど、

正直警察ものとして読むとかなり肩透かしを食らうことになると思う。

また、ミステリーとしては確かに謎があり、

その答えはしっかりと提示されている。

もっとも謎そのものの弱さもあってミステリーとしては、カタルシスを感じなかった。

物語的には親子関係がテーマになっていて、水野大樹といづみ、百井辰彦と知恵、

そして百井野々子と母親の乾瑤子の関係が描かれているので、

こちらを重視して読む分にはそれなりだけど、

基本的にはかなり暗く重い話なので、気軽にはお薦めできない。

ただ、文章はかなり読みやすいのもあって、一気読みはしやすかった。

 

 

ネタバレありの感想

読んだ最初の感想は惜しいというもの。

二〇〇四年の事故と、十五年後の二〇一九年の事件がリンクしているというのは、

面白いけれど、リンクしてると疑う根拠は弱すぎるかな。

三ツ矢秀平は必ずしも直接的にはリンクを疑っているわけではないけれど、

百井辰彦の行方を捜していると十五年前の前林市に

出くわすというのはこじ付けにしか思えなかった。

二〇一九年の事件の犯人が猿渡いづみと判明した後で、

事件の背景を調べて二〇〇四年の方の真相に辿り着くとかの方が自然かなと。

だいたい刑事二人は特に活躍してるとは思えないので、

刑事ものである必然性も実はあまりないのではないかな。

 

三ツ矢秀平の人物像も「母親を殺されている」、「瞬間記憶能力がある」、

「変わり者」というどっかで見たような背景を持った人物で、

あまりうまく人物が描けているとは思えず、私には魅力を感じなかった。

百井野々子も実母と義母への顔があまりにも違いすぎて、

どうも同一人物とは思えないのも違和感があった。

百井知恵も正直あそこまですぐ壊れるものなのかと、

あまり感情移入できなかった。

 

十五年経ってから、十五歳の大樹から手紙が来たのも違和感しかないし、

最後の二〇〇四年の事件・事故の真相もあまりにも唐突すぎて、

あまり面白いとは感じられなかった。

あまりにも脈絡もないから、イヤミスとしても評価しようがない。

一つ一つの要素は面白いものがあるけれど、

それが物語の中でうまく昇華されるとは思えなかった。

 

良かったのは、不謹慎ながら一部の水野いづみと滝岡鞠香の壊れっぷりと、

物語冒頭の女性が十五年後に草薙雅美として登場する点ぐらいかな。