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【横山秀夫】『半落ち』についての解説と感想

本記事では横山秀夫さんの小説『半落ち』を紹介します。

半落ち

半落ち

著者:横山秀夫

出版社:講談社

ページ数:360ページ

読了日:2024年2月21日

満足度:★★★★★

 

横山秀夫さんの『半落ち』。

このミステリーがすごい!2003年版」1位、

「2002「週刊文春」ミステリベスト10」1位の二冠を達成した。

また映画化とテレビドラマ化もされている。

 

あらすじ

現職警察官の梶聡一郎が病苦の妻・啓子を殺害し、自首してきた。

W県警本部捜査第一課の強行犯指導官の志木和正は、

連続少女暴行事件の捜査を担当していた。

犯人の身柄確保の電話を待っていたが、W県警本部長の加賀美康博から、

梶の取り調べを命じられる。

梶はアルツハイマー病を患う妻・啓子を殺害した動機、経緯について正直に話し、

完落ちで終わると思われた。

しかし、妻を殺してからの空白の二日については頑として語ろうとしなかった。

 

主な登場人物

・梶聡一郎:本部教養課次席。四十九歳。

・梶啓子:故人。梶聡一郎の妻。アルツハイマー病と診断されていた。

・梶俊哉:故人。急性骨髄性白血病により七年前に死亡。享年十三歳。

・島村康子:梶啓子の姉。

 

・志木和正:W県警本部捜査第一課の強行犯指導官。警視。異名は「落としの志木」。

・土倉:W県警本部盗犯特捜係の刑事。

・加賀美康博:W県警本部長。警察庁から出向してきているキャリア組。

・伊予:W県警本部警務部長。警察庁から出向してきているキャリア組。

・笹岡:W県警本部警務課調査官。

・栗田:W県警本部警務課の人事担当の課長補佐。警部。

岩村:W県警本部刑事部長。

・小峰:W中央署の刑事部長。

・山崎:W北署の刑事。警部補。昔、志木和正と五年間組んでいた。

 

・佐瀬銛男:W地検三席検事。一年半前までは東京地検特捜部にいた。

・鈴木:W地検の事務官。

・桑島:W地検次席

・岩国鼎:W地検検事正。元東京地検特捜部長。

・久本:W県警警務部課長。

 

・中尾洋平:『東洋新聞』の記者。

・片桐:『東洋新聞』W支局の首席デスク。

・設楽:『東洋新聞』W支局のサブデスク。

・栗林絵美:『東洋新聞』W支局のオペレーター。

 

・植村学:『藤見法律事務所』の弁護士。W弁護士会所属。

     佐瀬銛男とは司法研修所の同期。

・植村謙一:植村学の兄。

・梶昭介:梶聡一郎の祖父。『特別養護老人ホーム 清々園』にいる。

・藤見泰造:『藤見法律事務所』の経営者。

・藤見範夫:藤見泰造の息子。植村学の司法研修所の一期先輩。

     『藤見法律事務所』の弁護士。

・植村亜紀子:植村学の妻。

・植村真美:植村学の娘。

 

・藤林圭吾:特例判事補。

・藤林澄子:藤林圭吾の妻。

・辻内:裁判長。

 

古賀誠司:M刑務所統括矯正処遇官。

・本橋:M刑務所署長。

・桜井:M刑務所の処遇部門の部長。

・池上一志:ラーメン店勤務。

 

ネタバレなしの感想

半落ち』は以前読んだことがあって、

読むのは今回で二回目か三回目で、オチはある程度覚えていたけれど、

それでも面白かった。

 

物語の中心は梶聡一郎が妻の啓子を殺害してから自首するまでの空白の二日の行動。

梶は自首した後に、動機も経過も素直に供述するが、

殺害後の二日間の行動だけは頑として語ろうとしない。

この謎を中心に、刑事や検察官や記者の視点から物語が描かれている。

群像劇というのもちょっと違って章によって語り手が変わるのと、

時系列に沿って話は進んでいくので読みやすい形になっている。

また、それぞれの語り手にも物語があって、これが物語に深みをもたらしている。

 

謎解きというよりは人間ドラマとして読むのであれば満足できるだろう。

 

 

ネタバレありの感想

序盤の志木和正相手に梶聡一郎が取調室で自供していく場面から

物語にひきこまれていく。

啓子が息子の俊哉の命日を忘れてしまい、

「母親じゃない。もう人間じゃない。死にたいと叫んで。」

殺してくれと梶に頼み、梶が絞め殺した場面は胸を締め付けられる。

自分の子どもが死んだ日を忘れてしまうというのは、

非常に大きいだろうし、

いつまで人間でいられるのかというのは、真に迫る。

 

前半の警察の志木和正、検察官の佐瀬銛男、新聞記者の中尾洋平は、

組織に抗って正義を貫こうとするかっこよさと同時に、

最終的には組織に負けてしまう生々しさになっている。

植村学の章と藤林圭吾の章は梶の話も当然関わってくるんだけれど、

どちらかというと植村と藤林の話に比重が置かれている。

植村は都落ちした弁護士が梶の件を利用するも、

梶と面会するも植村の思惑通りにはいかない。

しかし、不和だと思っていた妻から誕生日プレゼントを貰うという

ラストになっていて、読後感は良い。

藤林は梶と境遇が似ていて、父親がアルツハイマー型老年痴呆で、

介護に苦労している。

それもあって、梶が妻を簡単に殺したことに対して否定的な考えを持っている。

この章のハイライトは藤林が父親の銀行の貸し金庫から手紙を読むところで、

藤林が知らなかった父親の一面を知るところだろう。

 

最後の章は刑務官の古賀誠司で、ここで空白の二日の謎が解き明かされる。

志木が個人として梶のことを気にかけていて、

梶が歌舞伎町で何をしていたか調べている。

その結果は梶が骨髄を提供した池上一志に会いに行ってたということ、

そして池上が刑務所にいる梶と会うのがラストになっている。

 

骨髄移植の関係で梶が自殺をしないで生きることを選択したのは覚えていたけれど、

歌舞伎町に行ったのが骨髄移植した池上に会いに行ったというのは

全く覚えていなかったのもあって、今回も泣いてしまった。

 

妻を殺しながらも、ドナーが現れずに息子を亡くした梶が、

ドナーになれる可能性がある限りは生き続けるのを選択するというのは

私には納得できた。