【東野圭吾】『沈黙のパレード』についての解説と感想

本記事では東野圭吾さんの小説『沈黙のパレード』を紹介します。
ガリレオシリーズの九作目である。

沈黙のパレード

沈黙のパレード

著者:東野圭吾

出版社:文藝春秋

ページ数:496ページ

読了日:2024年2月27日

満足度:★★★☆☆

 

東野圭吾さんの『沈黙のパレード』。

ガリレオシリーズの第九弾。

福山雅治さん主演で映画化されている。

 

あらすじ

静岡県のゴミ屋敷の焼け跡から二体の遺体が発見された。

一体は屋敷の主の蓮沼芳恵で、

もう一体は、三年前に東京都菊野市で行方不明になった女性・並木佐織と判明する。

蓮沼芳恵の息子の蓮沼寛一は、二十三年前の少女殺害事件の被告で、

完全黙秘を貫いた末に無罪判決を勝ち取っていた。

二十三年前の事件で蓮沼を逮捕した草薙俊平が、今回の事件も担当することになり、

蓮沼を逮捕するも今回も黙秘を貫いたことにより処分保留で釈放される。

蓮沼は菊野市に舞い戻り、遺族たちを挑発するのだった。

菊野市のパレード当日に蓮沼が死亡するが、

殺害する動機のある全員にはアリバイがあった。

一方、菊野市にはアメリカから帰国した湯川学が研究拠点を置いていた。

 

登場人物

・湯川学:帝都大学物理学教授。帝都大学金属材料研究所磁気物理学研究部門主幹。

・草薙俊平:警視庁捜査一課の刑事。係長。警部。

・内海薫:警視庁捜査一課の刑事。巡査部長。草薙の後輩。

・間宮:警視庁捜査一課の刑事。管理官。草薙たちの上司。

・岸谷:警視庁捜査一課の刑事。主任。警部補。草薙の後輩。

・多々良:警視庁捜査一課の刑事。理事官。

 

・並木祐太郎:『なみきや』の店主。

・並木真智子:並木祐太郎の妻。『なみきや』の接客係兼調理係。

・並木佐織:事件の被害者。三年前から行方不明になっている。並木祐太郎の娘。

・並木夏美:並木佐織の三歳下の妹。大学生。『なみきや』を手伝っている。

・高垣智也:会社員。行方不明になる前の並木佐織の恋人。並木沙織の五歳年上。

・戸島修作:並木祐太郎の小学生時代からの幼なじみ。

      食品加工業者『トジマ屋フーズ』の社長。

・新倉直紀:並木佐織の歌の才能を見つけて育成していた人物。資産家。

・新倉留美:新倉直紀の妻。若い頃は新倉直紀のバンドのボーカルをしていた。

・宮沢麻耶:市内でも有数の大型書店の『宮沢書店』の跡継ぎ娘。

      パレードの実行委員長。チーム菊野のリーダー。町内会の理事。

 

・蓮沼寛一:無職。本橋優奈事件で逮捕、起訴されるも無罪になっている。

      父親は警察官だった。

・蓮沼芳恵:蓮沼寛一の継母。静岡県の蓮沼芳恵の家の焼け跡から見つかる。

      六年ほど前に自然死したと見られている。

 

・本橋優奈:故人。二十三年前の事件の被害者。当時十二歳。

・本橋誠二:故人。六年前に食道がんで亡くなっている。本橋優奈の父親。

・本橋由美子:故人。本橋優奈が行方不明になった一か月後に自殺している。

       本橋優奈の母親。

・沢内幸江:本橋誠二の妹。

 

・増村栄治:蓮沼寛一の元同僚。廃品回収会社勤務。七十歳前後。

・武藤:菊野警察署の刑事。警部補。

・島岡:鑑識課の主任。

・高垣里枝:高垣智也の母親。看護師。

・塚本:会社員。高垣智也の上司。

・森元:自動車修理工場の経営者。町内会の役員。

・上野:蓮沼芳恵の家の地元の警察署の刑事。

 

ネタバレなしの感想

二十三年前の少女殺害事件で無罪となった男が、

三年前に東京菊野市で失踪した若い女性が遺体で見つかった事件でも証拠不十分で、

釈放されてしまう。

この男が町のパレード当日に殺される事件が発生する。

 

遺族や関係者による復讐がストーリーのメインになっていて、

ガリレオシリーズお馴染みのハウダニット(How done it)

どうやって犯行を行ったか?だけでなく、

共犯者の存在を明示した上で、フーダニット(Who done it)誰がそれをやったのか?

の要素もある。

 

前作『禁断の魔術』のラストでアメリカへ旅立った湯川学が帰国し、

菊野市に滞在していて、遺族が経営している『なみき屋』の常連客だったり、

草薙俊平が二十三年前の事件を担当していて、因縁があったりと、

シリーズの登場人物たちが物語にしっかりと関わることになっている。

 

復讐物でさらには、多くの人間が協力し合って犯罪を成し遂げるというのも面白いし、

そこにパレードという舞台を利用するのも含めて非常に良かった。

三年前の沙織の事件だけではなく、

二十三年前の事件も関わってくることによって、

壮大な物語になっているので長編に相応しいものになっている。

ガリレオシリーズ特有の科学要素だけではなく社会派的な要素もあり、

さらにいくつかのひねりも加わっているのが特徴の一冊になっている。

 

 

ネタバレありの感想

気になったのは、

13ページによれば並木佐織の行方不明時に

「何らかの事件に巻き込まれたおそれがある、

ということで警察はかなり大々的な捜索を行った。」とあるが、

佐織が行方不明になる少し前に『なみきや』を出禁になった蓮沼寛一のことを、

並木祐太郎たちは警察に教えていないのか?

58ページで高垣智也は失踪直後には関連づけられなかったと言っているが。

 

湯川学は433ページで蓮沼寛一は沙織殺しの犯人ではないと推理するが、

結局蓮沼が真犯人であったのなら沙織の血痕が付着した制服を所持していたのはなぜ?

 

ひねりを加えることによって、間違いなく驚きは増すけれど、

正直そこまでひねらなくても良かったかなとは思う。

特に新倉留美と沙織の話は蛇足なんじゃないかと思う。

矛盾もだけど、結局真相は何だったのか?が、かなり曖昧になっているのは否めない。

というか真相を明らかにするのではなく、

小説のためにとにかくひねりを加えたかっただけにしか思えない。

しかも、このエピソードによって沙織に軽薄な印象を持ってしまうのもあって、

物語的にもあまり良い方には作用してないかな。

二十三年前の事件の関係者である増村栄治が関わっているという、

それだけでも十分かなと。

 

あとリアリティーに関していうと、

沙織の件に関しては蓮沼を逮捕する前に警察と検察は間違いなく、

起訴できるかどうかを話し合うだろう。

一度無罪になっている人間だとマスコミが騒ぐのは必至だし、

しかも結果起訴できなかったじゃ面子が立たないから。