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【伊坂幸太郎】『陽気なギャングが地球を回す』についての解説と感想

本記事では伊坂幸太郎さんの小説『陽気なギャングが地球を回す』を紹介します。
陽気なギャングシリーズの一作目である。

陽気なギャングが地球を回す

陽気なギャングが地球を回す

著者:伊坂幸太郎

出版社:祥伝社

ページ数:400ページ

読了日:2024年3月1日

満足度:★★★☆☆

 

伊坂幸太郎さんの『陽気なギャングが地球を回す』。

陽気なギャングシリーズの第一弾である。

大沢たかおさん主演で2006年に映画化されている。

また漫画化もされている。

 

あらすじ

どんな嘘も見抜く特殊能力の持ち主・成瀬、

立て板に水の演説で聴衆を煙に巻く・響野、

コンマ一秒単位で正確な体内時計を持っている雪子、

若き天才スリ・久遠。

この四人の天才たちは百発百中の銀行強盗だったはずが、

銀行強盗に成功して逃走中に、

同じく逃走中の現金輸送襲撃犯に横取りされてしまった。

そこで彼らは奪還に動こうとするが、仲間の息子に不穏な影が迫り、

そして死体も出現する事態に。

 

登場人物

・成瀬:嘘を見抜く名人。銀行強盗のリーダー。三十七歳。

    普段は市役所勤務で係長。離婚歴がある。

・響野:演説の達人。普段は喫茶店の店長。成瀬とは高校時代からの友人。

・久遠:天才スリ。二十歳。普段はバイトをしている。

・雪子:精確な体内時計を持つ女。普段は派遣社員だが、今は契約が切れている。

・タダシ:成瀬の息子。自閉症。十歳。

・祥子:響野の妻。響野と共に喫茶店を経営している。三十代半ば。

・慎一:雪子の息子。中学生。

・地道:雪子の元夫で慎一の父親。雪子より十歳年上。

・田中:合鍵作りや盗聴の職人。百キロ以上ある。

    右足が不自由で引き摺って歩くことしかできない。

    学生時代に十代の若者からリンチを受けた過去を持つため、

    若い男に会うことをひどく嫌っている。

・薫:慎一のクラスメイト。生まれつき足が悪く、松葉杖をついている。

・神崎:現金輸送車ジャックのリーダー。

・林:現金輸送車ジャックの運転手。

 

ネタバレなしの感想

四人組の銀行強盗の話で、四人それぞれが特殊能力を持っているのが特徴。

その銀行強盗の四人・成瀬、響野、雪子、久遠の視点で物語は描かれていて、

四章構成になっている。

銀行強盗の話であっても、基本的には重さや暗さは一切感じさせず、

軽妙洒脱になっている。

伊坂さんの本は重いテーマであっても軽いタッチで描かれるのも

特徴だとは思うけれど、本作は完全なエンターテインメントに振り切っている。

銀行強盗をすることに抵抗や躊躇いを見せない、

一方でポリシーは基本的には相手を傷つけたくないというものなので、

そこまで血生臭い話にもなっていない。

リアリティよりも娯楽性を重視で、会話も含めてテンポよく進んでいくのも特徴。

また伊坂作品の舞台といえば仙台が多いけれど、

本作は横浜が舞台になっている。

 

以前一度読んだことはあって、

響野のキャラクターはかなり印象に残っていたけれど、

今回読んでもかなり印象に残るキャラクターになっている。

雄弁で蘊蓄好きで、響野を中心にする掛け合いはやはり面白く、

特に響野の妻の祥子や久遠との掛け合いは良かった。

また久遠も動物好きで独特な魅力があるキャラクターになっていて、

印象に残りやすくなっている。

ストーリーは良くも悪くも普通で捻りや驚きはほとんどない。

登場人物たちの掛け合いを楽しめるかどうかによって評価は大きく変わりそうだけど、

私は楽しむことができた。

 

 

ネタバレありの感想

まず響野、久遠、祥子はキャラクターが立っているけれど、

反面、成瀬と雪子はそれほど特徴あるキャラクターにはなってはいないかな。

ストーリー展開上、必要だから配置されている感じになっている。

 

ストーリーは『オーデュボンの祈り』と『ラッシュライフ』と比較すると、

本当に普通で予想通りの展開になっていた。

また伏線は前二作と比較すると分かりやすいぐらい分かりやすいものになっていて、

ストーリー展開上、

おそらくこう使われるだろうなというものが想像しやすくなっていた。

具体的にいえば冒頭の偽者の警察官であったり、

『グルーシェニカー』などは、かなり分かりやすかった。

また雪子の不自然さなども非常に分かりやすいので、そこまで意外性はなかった。

ただ冒頭の銀行強盗の打ち合わせの時の祥子が雪子から頼まれていたというだけは、

分からなかった。

 

娯楽作品としては十分楽しめたけれど、

驚きは少ないのでストーリーはどうしても印象には残りにくいのも事実。

 

響野、久遠、祥子、特に響野の蘊蓄と雄弁を好きになれるかどうかが、

本作の評価を大きく左右しそう。

私は特に響野はかなり好きでお気に入りで、愛すべきキャラクターだと思えたので、

十分すぎるほど楽しめた。

自閉症のタダシの使い方は若干あざとい感じはしたけれど、私は好きかな。

ラストも銀行強盗をするという終わり方で、

彼らの世界がそのまま続いてるという終わり方も良かった。

 

小ネタ

ラッシュライフ』の233ページの河原崎が塚本から聞く

横浜で起きた映画館の爆破未遂事件が本書で描かれていて、

これが成瀬たち四人の出会いの事件になっている。