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【伊坂幸太郎】『サブマリン』についての解説と感想

本記事では伊坂幸太郎さんの小説『サブマリン』を紹介します。

陣内シリーズ二作目である。

サブマリン

サブマリン

著者:伊坂幸太郎

出版社:講談社

ページ数:352ページ

読了日:2023年11月6日

 

伊坂幸太郎さんの『サブマリン』。

陣内シリーズの第二弾で、長編になっている。

 

あらすじ

家庭裁判所調査官の武藤は異動先で主任になった陣内と同じ「組」になる。

ネット脅迫者を脅迫した事件で試験観察中の小山田俊は、

ネット脅迫で実際に小学校で事件を起こす可能性のある「本物」の話を武藤にする。

また、十九歳の棚岡佑真が無免許で速度超過で歩道に突っ込み、

ジョギング中の中年男性を殺してしまう事件が起きる。

武藤は棚岡のことを担当することになり、

棚岡の両親が交通事故で亡くなっているだけではなく、

小学生の頃に暴走した車の事故で友人を亡くしてることを知るが。

 

登場人物

・陣内:家裁調査官。主任。

・武藤:家裁調査官。陣内と同じ組。妻と息子と娘がいる。

・木更津安奈:家裁調査官。陣内と武藤と同じ組。

・棚岡佑真:無免許運転で人身事故を起こし、被害者を死なせてしまった少年。

      四歳の時に両親を交通事故で亡くしている。

      陣内からは「棚ボタ」と呼ばれている。十九歳。

・棚岡清:棚岡佑真の伯父。両親が亡くなった棚岡佑真を育てた。

     私立大学の薬学部教授。

・小山田俊:試験観察中の少年。十五歳。

・永瀬:陣内の友人。視覚障碍者。パーカーという盲導犬を飼っている。

・優子:永瀬の妻。

・田村守:棚岡佑真の小学生時代の同級生。浪人生。

・栄太郎:故人。十年前に交通事故で死亡。棚岡佑真と田村守の小学生時代の友達。

・若林:十年前に交通事故を起こした青年。二十九歳。

 

ネタバレなしの感想

『チルドレン』の続編で、『チルドレン』の「チルドレンⅡ」から約十三年後。

前作を読んでいなくても問題ないけれど、

主要な登場人物は前作から引き続いて登場しているので、

前作を読んでからの方が無難かな。

 

前作同様に家裁調査官の話で変わり者の陣内と、

それに振り回される武藤のコンビの活躍が描かれている。

物語としては無免許運転事故を起こした棚岡佑真が、

両親や友達を自動車事故で亡くしていたりと、

前作と比べるとかなり現実的というか、やりきれない話になっている。

また、「ネットの犯行予告の真偽を見破れる」と言い出す

十五歳のパソコン少年の小山田俊にも巻き込まれていく。

 

かなり現実的で重苦しい部分もあるけれど、

トリックスター的存在の陣内の存在もあってエンターテインメント小説になっていて、

読後感も素晴らしくなっている。

『チルドレン』よりはテーマは重いけれど、そこまで身構える必要もないかなと思う。

前作が面白かったのなら読んでみるのをお薦めします。

 

あと舞台が東京に変わっていたのにちょっとだけ驚いた。

 

 

ネタバレありの感想

私はかなり面白かった。

正直テーマとしてはありきたりというかそこまで特別ではないかなと、

ただ、それをうまく面白く小説にしているのは流石。

 

一番の読みどころはやはり陣内という登場人物で、

一歩間違えると、ただの嫌な人になる可能性もあるけど、

ちゃんと憎めない人物になっている。

くだらない部分では強情というか子供ぽい一方で、

漫画家に粘り強く漫画の続きを依頼していたり、

田村守の野球の試合を見てた(可能性)であったりと要所をしっかり押さえている。

また語り手である武藤もいいキャラをしていて、

小山田俊から貧乏くじを引いちゃうタイプと言われるぐらい。

そして、その小山田俊と武藤のやりとりもかなり良かった。

小山田俊は決して悪い人間ではないけれど、法を守るという意識が低いので、

違法なことを平気でやっているのを見て、

武藤もどうしたらいいのか悩む部分であるとか。

 

最後の永瀬と電車の中でトラブルになった男の登場は、

伏線というには永瀬の電車のトラブルの話自体直前なので、

かなり強引な展開だとは思うけれど、

エンターテインメント小説だと割り切ってしまえば良いかな。

 

あとは小山田俊のネットの犯行予告関連は中盤で終わったのかと思いきや、

最後に棚岡佑真が交通事故を起こして死なせてしまった男に関わってくる。

関わってくるんだけれど、それを武藤は棚岡佑真に言わずに、

ただ、読者は知っているし、武藤の考え方を聞かされる形になっている。

陣内から小山田俊への法律違反をしているけど、いい奴だと言うのは、

強引ではあるんだけど、陣内のキャラならアリかなと思わせる。

 

あとラストの若林への電話みたいな終わらせ方は好きで、心に響くものがある。

エンタメであり、伊坂さんの優しさが感じられる。

 

序盤から木更津安奈や優子が見ていた、

茶店で陣内といたおじさんが漫画家であるのは全く想像できなかったな。

 

強いて良くなかった点を挙げるなら伊坂さんの小説にしては、

構成というか物語の展開の仕方はそこまで良くはなかったかな。

テーマがテーマなので、あまりそこは重視しなかったのかもしれないけど。

それでもかなり面白く読むことができて、満足はできた。