【伊坂幸太郎】『チルドレン』についての解説と感想

本記事では伊坂幸太郎さんの小説『チルドレン』を紹介します。

陣内シリーズ一作目である。

チルドレン

チルドレン

著者:伊坂幸太郎

出版社:講談社

ページ数:352ページ

読了日:2023年10月21日

 

伊坂幸太郎さんの『チルドレン』。

五篇収録の連作短編集。

陣内シリーズの第一弾。

坂口憲二さん主演で

『CHiLDREN チルドレン』のタイトルでWOWOWでテレビドラマ化され、

後に映画化もされた。

 

・バンク

あらすじ

大学生の鴨居は友人の陣内と閉店間際の銀行を訪れると、そこに銀行強盗が現れる。

二人の強盗は大きめのサングラスと、

口元には塗装工が装着するようなマスクをしていた。

鴨居や陣内を含む四人の客と八人の銀行員がロープで縛られて、

アニメの登場人物のお面をつけられる。

ロープで縛られる直前に陣内が強盗に立ち向かったことにより、

強盗が発砲したことにより、パトカーが駆け付ける。

緊迫する状況の中、盲目の青年・永瀬はトイレに行きたいと言いだし、

鴨居についてきて欲しいとお願いをする。

すると、トイレで永瀬は鴨居に銀行強盗と銀行員はグルだと言い出すが。

 

登場人物

・陣内:大学生。「立ち向かうこと」が基本方針。

・鴨居:大学生。夜の街の路上で演奏している陣内と出会った。

・永瀬:盲目の青年。生まれつき目が見えない。ベスという盲導犬がいる。

 

ネタバレありの感想

陣内と鴨居が銀行強盗に遭遇、永瀬と出会う話。

いきなりの陣内の「立ち向かうこと」が遺憾なく発揮されていて、

陣内のぶっ飛んだキャラクターを堪能できる。

人質にお面をつけさせるのもしっかりした理由があって、

ちょっとしたミステリー要素もあって楽しめた。

陣内も受付窓口にあった三十万円を盗んでいたというオチ。

 

・チルドレン

あらすじ

家裁調査官の武藤は、

マンガ本を万引きして送致されてきた木原志朗という高校生と面接することになった。

志朗は面接に同席した父親を意識しすぎなのか、武藤は個別に面接をはじめた。

個別に話を聞こうとするも、親子揃って何を訊ねても答えてくれなかった。

武藤は志朗に対して再面接をすると言うと、

志朗はなぜか嬉しそうに顔を明るくするが。

 

登場人物

・陣内:家裁調査官。武藤の先輩。三十一歳。

・武藤:家裁調査官。二十八歳。

・木原志朗:高校生。マンガ本を万引きして送致されてきた。十六歳。

・志朗の父親:木原志朗の父親。飲食チェーン店の代表取締役

 

ネタバレありの感想

陣内のぶっ飛んだキャラクターは健在も、話のメインは志朗と父親の話かな。

ジャズを嫌いなはずの父親がなぜかジャズを聴いていたという謎からは、

一気に話にひきこまれていく。

面接に来た志朗の父親は偽者で実際は強盗犯だったんだけど、

その強盗犯の復活に志朗が協力していた。

そのきっかけは陣内が作った名言集の

『所持金を平均しろ。仕切り直してくれよ。人生を仕切り直すんだ』

だったと。

冒頭に強盗の話があったり、伏線もちゃんと張られていて、

さらには陣内のキャラクターも活かされていて、完成度が高い話。

もっともオチの志朗が小説を万引きしてたのは笑えるけれど、

若干蛇足に感じたかな。

 

・レトリーバー

あらすじ

陣内がレンタルビデオ店で働く女の子に交際を申し込むので、

誘われた永瀬と優子。

陣内は交際を申し込むも、見事に断られた。

失恋した陣内は、永瀬と優子を駅前のベンチに残して、

ジュースを買いに行ったまま帰ってこない。

帰ってきた陣内は、今、この場所は時間が止まっていると言いだすが。

 

登場人物

・陣内:大学生。家裁調査官を目指して受験勉強中。二十二歳。

・永瀬:盲目の青年。盲導犬のベスと暮らしている。

・優子:永瀬の恋人。大学生。

 

ネタバレありの感想

大学生時代の陣内と永瀬と優子の話。

最初は他愛のない話かと思いきや、

身代金の受け渡し現場に紛れ込んでいたというオチ。

冒頭で陣内と口論した女子高生や、優子が陣内から渡された使い捨てカメラ、

永瀬が見た映画の身代金受け渡しの場面などが伏線としてしっかり回収されている。

 

・チルドレンⅡ

あらすじ

家事事件担当へ異動した武藤は、離婚の調停を担当することになった。

大和修次と三代子は、お互いに親権を譲らず、

修次は既に二度の離婚を経験していて、

三代子は二回目の離婚の時の浮気相手とのことだった。

一方、三代子は今回も修次が浮気していると決めつけていて、

武藤には、自分自身のプライドのために親権にこだわっているように見えた。

すると、陣内は武藤に大和夫婦を連れて陣内のバンドのライブに来るように言うが。

 

登場人物

・陣内:家裁調査官。三十二歳。パンクバンドのギターをやっている。

・武藤:家裁調査官。家事事件担当へ異動した。二十九歳。

・丸川明:陣内が家裁で担当した少年。

・大和修次:私立大学の理学部教授。四十歳。

・大和三代子:大和修次の妻。専業主婦。三十二歳。

・佐藤:調停委員。元中学校の教師。

・山田:調停委員。

 

ネタバレありの感想

「チルドレン」の約一年後の話。

武藤は家事事件担当へ異動して離婚の調停を担当していて、

それと陣内が担当する少年の丸川明も関係していくと。

大和修次の浮気相手は明の母親であったと。

ただ、それよりもライブで大和が娘を守ったり、

バンドのボーカルが明の父親であったりと、

さらには伏線回収で、

陣内が「俺たちは奇跡を起こすんだ」と言った通りのラスト。

 

・イン

あらすじ

永瀬と優子は、

鴨居から陣内がデパートの屋上でバイトをしていると聞いて

デパートを訪れるが。

 

登場人物

・陣内:大学生。デパートの屋上でバイトしている。

・永瀬:盲目の青年。

・優子:永瀬の恋人。

・鴨居:大学生。

 

ネタバレありの感想

「バンク」から一年後の話。

物語の語り手は永瀬で目が見えないことがうまく活かされている。

当たり前けど、バッグの件も陣内が熊の着ぐるみを着ていたのも、

目が見える場合はそもそも物語にもならないから。

「チルドレンⅡ」で陣内が語っていた、

どうやって父親の顔面を一発殴ったのかが分かるラストになっている。

 

総評

かなり昔に読んだことがある本で、

陣内のぶっ飛んだキャラクターは記憶に残っていたけれど、

それ以外は覚えていなかったのもあって、十分楽しめた。

陣内は根拠なき自信を持っていて、妙な例え話で相手を煙に巻く人物。

語り手は陣内の周囲に人物たちなので、彼らの視点を通して陣内の魅力を堪能できる。

あと意外にミステリー要素もあって、

キャラクターだけではなく物語としても十分楽しめる。

五篇とも面白いけれど、「レトリーバー」の

「今、この場所は時間が止まっている」から始まる陣内の話は非常に好き。