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【井上真偽】『アリアドネの声』についての解説と感想

本記事では井上真偽さんの小説『アリアドネの声』を紹介します。

アリアドネの声

アリアドネの声

著者:井上真偽

出版社:幻冬舎

ページ数:304ページ

読了日:2023年10月25日

 

井上真偽さんの『アリアドネの声』。

このミステリーがすごい!2024年版』の5位。

アリアドネ」とはギリシア神話に出てくる女性。

英雄テセウスに恋をして、テセウスが怪物の棲む迷宮から、アリアドネに渡された

糸玉を使って脱出する。

その逸話から生まれたのが「アリアドネの糸」。

 

あらすじ

子どもの頃に兄を事故で亡くした高木春生は、

贖罪のために災害救助用の国産ドローンを扱うベンチャー企業に就職する。

業務の一環で訪れた、

会社が参加しているプロジェクトである、

障害者支援都市『WANOKUNI』で大地震に遭遇する。

多くの人間が避難する中、一人の人間が地下五層に取り残されてしまう。

その要救助者は『見えない・聞こえない・話せない』の三つの障害を抱えていて、

街のアイドルとして活動する中川博美だった。

WANOKUNIの全域にわたって建造物が崩落・倒壊し、

地下一層と二層では火災が発生し、

最下層では地下湧水による浸水も始まる。

およそ六時間後には安全地帯への退路も断たれてしまう。

春生は一台のドローンを使って、中川博美を救助しようとするが。

 

登場人物

・高木春生:タラリアの社員。入社三年目。子供の頃に兄を事故で亡くしている。

・花村佳代子:高木春生の新人教育の担当。

・我聞庸一:高木春生の二期上の社員。

・韮沢粟緒:アルトデザインの社員。高木春生の高校時代の同級生。

・韮沢碧:韮沢粟緒の妹。失声症。今年で九歳になる。

・中川博美:見えない・聞こえない・話せないの三つの障害を抱えている。

      令和のヘレン・ケラーと呼ばれている。殿山知事の姪。

・伝田志穂:中川博美の通訳兼介助者。

・火野誠:S市の消防署に勤める消防士長。

・佐伯茉莉:消防士。

・長井禎治:消防司令。

・殿山:知事。

・山口:市長。

・コバッシー:暴露系ユーチューバー。

 

ネタバレなしの感想

はじめて読む井上真偽さんの本。

ストーリーのメインは大地震が起きて地下に取り残された女性を救助する話。

その女性が『見えない・聞こえない・話せない』の三つの障害を抱えている中川博美。

しかも、迫る火災と浸水によって、六時間のタイムリミットがある。

そして高木春生が操縦するドローンによって中川をシェルターに誘導しようとする。

さらに、春生が子供の頃に事故で亡くなった兄の話であったり、

春生の高校時代の同級生の韮沢粟緒と妹、さらに暴露系ユーチューバーも絡んでくる。

 

もともと、amazonで高評価だったので読もうと思ったんだけれど、

私には合わなかったな。

色々な要素があるのは良いんだけれど、私にはかなり散漫な印象にしかならなかった。

決して悪いわけではないんだけれど、そこまで高評価にはならないかな。

二度読み必至の超どんでん返し!らしいけど、私は二度読みしませんでした。

 

 

ネタバレありの感想

完全に愚痴になりますので、読みたくない方はブラウザバックをお薦めします。

 

基本的には災害サスペンスになるんだけれど、

物語が地上にいる高木春生視点なので私には緊迫感をほとんど感じられなかった。

しかも、かなり早い段階でドローンのカメラが壊れたことによって、

あとは点描データからの情報なので余計に緊迫感が無くなってしまった。

もちろんこのカメラが壊れたのは後のミステリー要素に関わってくるわけだけど、

私としてはかなり致命的に感じた。

文章も淡々と事実を書いているので、緊迫感を感じさせない理由かな。

 

中川博美以外にも一応は死傷者や瓦礫の下での救助待ちの人もいるらしいけれど、

この描写が無いので緊迫感そのものがないのも大きい。

 

これに関連して、暴露系ユーチューバーの存在も正直よく分からなくて、

ストーリーに厚みを持たせたいのかもしれないけど、

私には薄っぺらさであるとか描写不足のように感じられた。

停電も含めて住民が不満を持っているのなら、

住民視点で描いてくれた方が良かったかな。

 

ミステリー要素の目が見えない中川博美が照明のスイッチを入れるというのも、

Ⅲ「誘導」のラストで中盤過ぎと遅いのもあるし、

そもそもこの謎にそこまで興味を持てなかったのもあって、

いまいち物語にのめり込めなかった。

一応、韮沢碧が二度目に行方不明なった時だって

中川が要救助者であることは変わらないからな。

最後の中川が目が見えていたのではなく、

碧が一緒にいたというのは衝撃的ではあるけれど、

碧がただの採光窓ではなく、光ダクトに通じる窓から落ちたと言われても、

そうですかとしか思えなかった。

人によるとは思うけれど、描写不足というかとにかく散漫かなと思う。

 

春生が兄の事故死について贖罪の気持ちを持つのも分かるけれど、

これも中川の過去の動画を見て自己解決してるように見えて、

あまり深みは感じることができなかった。

 

また序盤からWANOKUNIプロジェクトや

ドローンの専門用語が結構出てくるのもあって、

物語に全く入っていけなかったのも評価低い理由。

 

ドローンを救助に使っていたり、暴露系ユーチューバーがいたり、

さらには要救助者三重障害者で、主人公は子どもの頃に兄を亡くしていて、

高校生時代の同級生のエピソードも絡んでくる。

さらにはミステリーもあるので、面白いと言いたいけれど、

私にとってはどれも微妙だった。

これならどれか一つを掘り下げて書いてくれた方が私にとっては良いんだけれど、

それじゃ売れないだろうし、書くのも難しいんだろうな。

映像化したら面白いかもしれないけど、それは小説の評価とはまた別の話ですからね。