本記事では米澤穂信さんの小説『冬期限定ボンボンショコラ事件』を紹介します。
小市民シリーズの五作目である。
冬期限定ボンボンショコラ事件
著者:米澤穂信
出版社:東京創元社
ページ数:416ページ
読了日:2024年6月12日
満足度:★★★★☆
米澤穂信さんの『冬期限定ボンボンショコラ事件』。
四季四部作のラストの冬の巻で、長編になっている。
あらすじ
十二月のある日、小市民を志す小鳩常悟朗は小佐内ゆきと一緒に学校からの帰宅時に
轢き逃げに遭い、木良市民病院に搬送された。
小鳩は大怪我を負ってしまい、大学受験が困難になったことを知る。
翌日、小鳩の枕元には同じく小市民を志す小佐内から
「犯人をゆるさない」というメッセージカードが残されていた。
小佐内はどうやら犯人を捜そうとしているらしいが。
登場人物
・小鳩常悟朗:船戸高校三年生。三年前は鷹羽中学三年一組。
・小佐内ゆき:船戸高校三年生。三年前は鷹羽中学三年四組。
・堂島健吾:船戸高校三年生。元新聞部部長。小鳩常悟朗と小学校が一緒だった。
・吉口:船戸高校三年生。堂島健吾と同じクラス。
・戸部:船戸高校三年生。小鳩常悟朗と同じクラスのクラス委員。
・里山:船戸高校三年生。小鳩常悟朗と同じクラスのクラス委員。
・三笠速人:船戸高校の卒業生。高校時代はバドミントン部で、
堂島健吾たちが二年生の頃、唯一県大会まで行った先輩。西中出身。
・和倉:吉良市民病院の脳神経外科の医師。
・宮室:木良市民病院の整形外科の医師。
・馬渕:木良市民病院の理学療法士。
・中田:木良市民病院の看護師。
・ベリーショートの看護師:木良市民病院の看護師。
・山里:木良市民病院の清掃員。
・勝木晶彦:木良警察署交通課の刑事。
三年前の登場人物
・牛尾:鷹羽中学三年一組。バドミントン部のキャプテン。
・日坂祥太郎:鷹羽中学三年一組。バドミントン部。
・藤寺真:鷹羽中学二年五組。バドミントン部。
・岡橋真緒:鷹羽中学三年四組。バドミントン部。
・麻生野瞳:鷹羽中学三年生。父親がコンビニ七ツ屋町店の経営者。
・勝木亜綾:黄葉高校商業科三年A組。鷹羽中学校出身。
・日坂和虎:日坂祥太郎の父親。
・永原匠真:アルバイト。
ネタバレなしの感想
シリーズ三作目の『秋期限定栗きんとん事件』の
直後の冬の出来事を描いているのが本書『冬季限定ボンボンショコラ事件』。
本書は冒頭で小鳩常悟朗が轢き逃げ事件に遭い、病院に搬送され、
右の大腿骨の骨幹部が折れていて、退院まで長くて二ヶ月、
松葉杖が取れるまで半年程度と告げられるシーンから始まる。
この轢き逃げ事件の犯人を小鳩に助けられた小佐内ゆきが捜すことになる。
しかし小説で主に描かれているのは三年前に同じ堤防道路で
轢き逃げ事件にあった日坂祥太郎の話。
この日坂祥太郎が自殺したということを堂島健吾から聞いた小鳩が、
三年前の事件について回想する形になっている。
三年前の事件に小鳩と小佐内が関わっていて、中学時代の二人の活躍だけではなく、
なぜ彼らが小市民を志すようになったのかも分かるようになっている。
三年前の事件が現在の小鳩の轢き逃げ事件にも・・・というストーリーになっている。
シリーズものなので、本書からいきなり読む方は少ないとは思うけれど、
基本的にはシリーズの順番通り読んだ方が良い。
四季四部作のラストに相応しい出来になっている。
ネタバレありの感想
三年前の日坂祥太郎の轢き逃げ事件は、
小鳩常悟朗と小佐内ゆきが中学時代に互恵関係を結んだきっかけで、
『春期限定いちごタルト事件』に繋がるエピソードになっている。
謎解き要素としてはそこまで難しくなくて、
小鳩常悟朗の世話をしているベリーショートの看護師が怪しいのは容易に想像がつく。
そしてその候補になるのが、日坂祥太郎と一緒にいた女性だろうというのも、
そう難しくない。
その女性がエーカンのエーコというのも、
外見特徴は藤寺真が見た「同行者」に一致すると小鳩も認めているので、
それほど難しくない。
(そもそも他に候補になる人物がいないというのが一番大きいけれど。)
もっともエーカンが衛生看護科というのは私には分からなくて、
衛生看護科があることも知らなかったので完全に知識不足だった。
三年前の轢き逃げ事件の犯人に関しては、
麻生野瞳が気づいた時点で私も気づいたけれど、
これに関しては警察がもっと早く気付いてもおかしくなかったかなと思ってしまった。
ただ以上のことよりも、現在の病院での小鳩と小佐内ゆきのメッセージカードと
ボンボンショコラを通したやりとりに見事にやられた。
例えばボンボンショコラに関しては、
「ボンボンショコラは一日ひとつまでです」(86P)とあるように
ボンボンショコラの箱の仕掛けの伏線が張られている。
また水に関しても何度も強調されているので、かなり違和感を覚えたけれど、
その意味までは考えることできなかった。
改めて読むと
「乾いた花に水をあげろと、小佐内さんは言う。
それで遅まきながら、ぼくは自分がいったいどういう立場に置かれているのか、
ようやく気付いた。」(270P)とあるように、しっかりと示唆されているので
分かる人には分かるようになっている。
(私は分からなかったけれど。)
どんでん返しは無いけれど、相変わらずのロジカルさで読んでいてスッキリするし、
それでいて中学生時代の小鳩と小佐内のキャラも活き活きとしているので面白かった。
ラストからすると二人とも京都の大学を目指しそうなので、
シリーズが続く可能性もありそう。