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【米澤穂信】『秋期限定栗きんとん事件』についての解説と感想

本記事では米澤穂信さんの小説『秋期限定栗きんとん事件』を紹介します。

小市民シリーズの三作目である。

秋期限定栗きんとん事件

秋期限定栗きんとん事件

著者:米澤穂信

出版社:東京創元社

ページ数:上巻:254ページ

     下巻:242ページ

読了日:上巻:2023年12月30日

    下巻:2024年1月1日

 

米澤穂信さんの『秋期限定栗きんとん事件』。

小市民シリーズの第三弾で、上下巻で構成されたシリーズ初の長編になっている。

小鳩君と小佐内さんの高校二年の秋から三年の秋の一年間の出来事が描かれている。

このミステリーがすごい!2010年版」10位。

 

あらすじ

小佐内ゆきが誘拐された、

高校二年の夏休みの「夏期限定トロピカルカフェ事件」をきっかけに

互恵関係を解消した小鳩常悟朗と小佐内ゆきの二人。

その直後の二学期、小鳩はクラスメイトの仲丸十希子から手紙で呼び出され、

放課後の教室で告白され、交際をはじめる。

二人は文化祭を巡ったり、お正月には揃って初詣するなど、デートを楽しんでいた。

しかし、小鳩は「バス内で降車ボタンを押し間違え、

次のバスで降りるのは老婆か女子高生か?」や「仲丸の兄の部屋に泥棒が侵入するも

何も盗まれたものがなかったのはなぜか?」など、

仲丸そっちのけで謎解きを繰り広げてしまう。

 

一方、小佐内は新聞部の一年生・瓜野高彦に告白され付き合うことになった。

瓜野は新聞部が発行する『月報船戸』が学内の決まった話題しか取り上げないことに

不満を抱いていて、学外の話題を取り上げるべきだと訴えていたが、

部長の堂島健吾に反対され続けていた。

そして、コラムという形で学外の話題を書けることになり、

木良市内で発生している連続放火事件を取り上げることになった。

連続放火の法則性を発見していた瓜野は、自らの手で犯人を捕まえようとする。

小鳩は連続放火事件で小佐内が誘拐された時に使われた車が燃やされたことから、

事件と新聞部内の動きに小佐内の影を感じ、事件に関わっていくが。

 

登場人物

・小鳩常悟朗:船戸高校二年B組→三年生。

・小佐内ゆき:船戸高校二年C組→三年生。

・堂島健吾:船戸高校二年生→三年生。新聞部部長→三年の四月に部長を退いて退部。

      小鳩常悟朗と小学校が一緒だった。

・瓜野高彦:船戸高校一年C組→船戸高校二年生。新聞部→新聞部部長。

・仲丸十希子:船戸高校二年B組→三年生。

・門地譲治:船戸高校二年生→三年生。新聞部。

・岸完太:船戸高校一年生→船戸高校二年生。新聞部→二年進級時に退部。

・五日市公也:船戸高校一年生→船戸高校二年生。新聞部。

・氷谷優人:船戸高校一年C組→船戸高校二年生。

      瓜野高彦とは中学校の時に塾が同じで、高校入学後は同じクラスに。

・里村:船戸高校一年C組→船戸高校二年生。園芸部。

・吉口:船戸高校二年生→三年E組。

   『春期限定いちごタルト事件』の「羊の着ぐるみ」に登場。

・新田高義:船戸高校の生徒指導部の教師→水上高校。

 

ネタバレなしの感想

前作の『夏期限定トロピカルパフェ事件』のラストで

互恵関係を解消した小鳩常悟朗と小佐内ゆき。

本作『秋季限定栗きんとん事件』は前作の直後からはじまるので、

当然ながら前作を読んでからの方がいいだろう。

小鳩も小佐内も物語冒頭であっさりと恋人ができたところから話ははじまり、

物語は小鳩の視点と、小佐内の恋人・瓜野高彦の視点で進行していく。

メインストーリーは新聞部の瓜野が追うことになる木良市内で起きる連続放火事件。

当然ながら、瓜野の恋人である小佐内は陰に陽に関わっていくことになる。

一方で小鳩は恋人である仲丸十希子と健全な高校生にして

小市民的生活を送ることになるわけだけど、

そこは小鳩なので、小市民になることができずに知恵働きをしてしまい、

仲丸との関係もある事情もあり・・・という展開になっている。

 

本作は過去に読んだこともあって、事件の真相は覚えていたけれど、

問題なく楽しむことができた。

今までだと小鳩と小佐内のコンビで、彼らの特異性が分かった気になっていたけれど、

それぞれ違う人物と絡むことによって、彼らの特異性がより鮮明になっている。

前二作読んで面白いと感じた方なら読むことをお薦めします。

 

 

ネタバレありの感想

まずストーリーのメインである木良市内の連続放火事件に関しては、

氷谷優人であるのは何となく覚えていた。

現実問題として小佐内が犯人であるという可能性は低いし、

消去法的に考えても氷谷以外は犯人候補になりそうなのは、あまりいないかな。

あとは新聞部にいた岸と門地ぐらいだろう。

で、事件の真相としては放火犯は『月報船戸』の記事を見て

次の犯行現場を決めているということで、瓜野の思い込みというのか

共通点はなかったにも関わらず作り上げてしまったと。

犯人である氷谷の「友達が大騒ぎするのが面白かった」というのは、

瓜野にとっては小佐内と別れる時に言われたことも含めて踏んだり蹴ったりのラスト。

瓜野は主人公ではないけれど、瓜野視点で物語が描かれているので、

多少複雑な心境になる。

 

あとは小鳩と仲丸の関係は最初は良く感じたけれど、

小鳩が知恵働きをして、会話でも先回りするのを見てると、

小鳩が嫌われるのもハッキリと分かった。

なので小鳩と小佐内がラストで付き合うという選択をしたのは当然かな。

小鳩と小佐内のキャラクターは今作でより知ることができたのが良かったし、

ミステリーとしても事件の真相は一捻りしてあるので満足できた。