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【横山秀夫】『ルパンの消息』についての解説と感想

本記事では横山秀夫さんの小説『ルパンの消息』を紹介します。

ルパンの消息

ルパンの消息

著者:横山秀夫

出版社:光文社

ページ数:386ページ

読了日:2023年11月19日

 

横山秀夫さんの『ルパンの消息』。

サントリーミステリー大賞佳作を受賞。

ノベルス刊行にあたり加筆と修正されている。

2008年に映像化されている。

 

あらすじ

忘年会に参加していた警察署の署長の後閑耕造のもとに、

十五年前に自殺として処理された女性教師の墜落死は、

他殺の疑い濃厚との有力情報が届く。

当時、教え子の三人が「ルパン作戦」と称して深夜の学校に忍び込んでいて、

女教師の死に絡んでいるという話だった。

しかし時効までは二十四時間しか残されていないが。

 

 

登場人物

ルパン作戦関係者

・喜多芳夫:十五年前は高校三年生。現在は車のセールスマン。あだ名はキタロー。

・竜見譲二郎:十五年前は高校三年生。現在は地上げ屋。あだ名はジョージ。

・橘宗一:十五年前は高校三年生。現在はホームレス。

 

学校関係者

・嶺舞子:故人。十五年前に自殺と断定された女性。英語教師。あだ名はグラマー。

・相馬弘:十五年前は高校三年生。ジョージの麻雀仲間。妹がいる。

・金古茂吉:十五年前は嘱託の化学教師。通称はハイド茂吉。

・日高鮎美:十五年前は音楽教師。現在はクラブやバーでピアノを弾いている。

・三ツ寺修:十五年前は校長。

・坂東健一:十五年前は体育教師。現在も体育教師。

・藤岡:十五年前は喜多の担任。

・新里:十五年前は教務主任。

・太田ケイ:十五年前は高校三年生。喜多と同じクラス。

      二年生の時に喜多と付き合っていた。三ツ寺修の姪。

 

警察関係者

・後閑耕造:所轄の署長。

・時沢剛:所轄の刑事課長。

・新田敏夫:所轄の刑事。

・曲輪幸二:所轄の刑事。

・簗瀬次作:所轄の鑑識。

・秋間幸子:所轄の婦警。

・藤原巌:警視庁の刑事部長。

・溝呂木義人:警視庁捜査第一課強行犯捜査第四係の係長。

・寺尾貢:警視庁捜査第一課強行犯捜査第四係の刑事。溝呂木班のナンバー2。

・大友稔:警視庁捜査第一課強行犯捜査第四係の刑事。溝呂木班のサブキャップ。

・今井:警視庁捜査第一課強行犯捜査第四係の刑事。溝呂木班の中堅。

・谷川勇治:警視庁捜査第一課強行犯捜査第四係の刑事。溝呂木班。

 

・国領香澄:記者。

・粕川陽一:地検の検事。

・喜多和代:喜多芳夫の妻。

・喜多絵美:喜多芳夫の娘。

 

・内海一矢:喫茶ルパンのマスター。通称サンオクさん。三億事件の最後の容疑者。

      喜多たちが通う高校の第一期卒業生。

 

ネタバレなしの感想

横山秀夫さんの処女作を改稿した作品で、

文庫化にあたって、さらなる加筆と修正が行われている。

 

まず自殺として処理された女教師の自殺が実は他殺濃厚で、

その女教師の死に「ルパン作戦」と称して

学校に忍び込んでいた三人組が関わっていたというタレコミが

あったところから物語は始まる。

さらには十五年前の事件なので時効まで残された時間は二十四時間という

イムリミットもある。

十五年前の事件ということもあって、

「ルパン作戦」を実行した喜多芳夫たちの供述を中心に物語は展開していく。

 

話そのものはとにかく面白かった。

横山さんの作品で高校生が主人公なのはかなり珍しいんじゃないかな。

物語の肝は当然、女教師の嶺舞子の死の真相なんだけれど、

序盤の喜多たちが期末テストを校長室から盗み出す「ルパン作戦」の話から、

かなり物語に入りこめた。

 

正直、粗削りの部分も結構あるかなと思うけど、

反面、物語そのものはかなり分厚いものになって、多くの要素が詰め込まれていて、

読んだ後の満足感はかなりのものがあった。

かなりおすすめの一冊。

 

 

ネタバレありの感想

最初は期待していなかったけれど、かなり面白かった。

まずは喜多たちが行った「ルパン作戦」も厳密にいえば

犯罪だし悪いことなんだけど、ここはそれほど抵抗なく読めた。

嶺舞子の事件に関しても金庫に死体があったことから、

喜多たちは当時から殺人事件と分かっていて、

真相解明のために自分たちで調べていたと。

それを時効直前の十五年後に警察が喜多たちから話を聞いて、

真相を解明していくというのは、展開としてもうまいなと。

これにさらに三億円事件まで絡んでくるんだから、

かなりの要素が詰め込まれているし、分厚いストーリーになっている。

 

事件の被害者である舞子にも秘密があって、

レズビアンで他の女性との関係が事件の原因なんだけど、

これは読んでいて何となく察するものはあったかな。

ディスコであったり、舞子の大学時代の友人の聴取など、

分かりやすい伏線は張られているので。

加害者である日高鮎美は舞子との関係があって、さらに橘宗一との関係もある。

橘は憮然病が、いつ起きたかが伏線というかポイントなんだろうけど、

こちらは読んでいて全く気付かなかった。

ただ単にそういうキャラクターなのかなとしか思えなかった。

 

喜多の「閃光」の話で校長室で橘が古い金庫の方から開けたのは、

不自然なのは分かったけれど、

それが事件にどう関わってくるかまでは分からなかった。

 

舞子の死体発見後の竜見譲二郎と相馬弘の麻雀の通しも、

伏線にはなってるのもわからなかったな。

(もっともこっちは実際には相馬ではなく、三ツ寺校長だけど。)

確かに竜見の台詞は不自然ではあるんだけど。

 

三ツ寺校長は大学の体操部出身でダンベルが机に置いてあったり、

さらには太田ケイが実の娘であるというのも示唆されているので、

事件に関わってくるのも納得かな。

 

最初から怪しさ全開のハイド茂吉は何も事件に関わってないのか?と思いきや、

日高鮎美の件で下種っぷりを見せるので、ある意味では期待を裏切らない。

 

真犯人のサンオクさんこと内海一矢だけど、

三億円事件の犯人が真犯人なんて出来すぎだとは思うけれど、

舞子殺しの犯人が夜の学校にいることを考えたら、それなりの理由がいるからな。

 

ラストの相馬の妹である秋間幸子の登場と幸子が

事件の解明に大きな役割を果たすのは、非常に良かった。

特に幸子と喜多のラストシーンは泣ける。

そしてラストで後閑が国領香澄に事件概要を教えるので

読後感は素晴らしくなっている。

 

若干詰め込みすぎかなとは思うけれど、消化不良ではないし、間違いなく面白い。

かなり楽しめた一冊でした。