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【米澤穂信】『巴里マカロンの謎』についての解説と感想

本記事では米澤穂信さんの小説『巴里マカロンの謎』を紹介します。

小市民シリーズの四作目である。

巴里マカロンの謎

巴里マカロンの謎

著者:米澤穂信

出版社:東京創元社

ページ数:304ページ

読了日:2024年1月6日

 

米澤穂信さんの『巴里マカロンの謎』。

小市民リーズの第四弾で、四篇収録の連作短編集。

小鳩君と小佐内さんの高校一年の二学期から三学期の出来事が描かれている。

このミステリーがすごい!2021年版」19位、

「ミステリが読みたい!2021年版」10位、

「2020「週刊文春」ミステリベスト10」16位、

「2021本格ミステリ・ベスト10」14位になっている。

 

・巴里マカロンの謎

あらすじ

高校一年の九月半ばのある日の放課後、

小鳩常悟朗は小佐内ゆきに誘われて、名古屋に新しくオープンしたお店、

パティスリー・コギ・アネックス・ルリコに、

新作マカロンを食べに行くことになった。

小佐内は秋限定の四種類のマカロンを食べたかったのだが、

ティー&マカロンセットで選べるマカロンは三種類だけのため、

四種類目のマカロンを注文させるために小鳩を誘ったのだった。

訪れたお店で三種類のマカロンを注文し、

手を洗うために席を外した小佐内が戻ってきた時には、

小佐内の皿には、あるはずのない四つ目のマカロンがのっていた。

 

ネタバレありの感想

表題作。

小市民シリーズといえば小佐内さんのスイーツ好きだけど、

謎そのものもスイーツ絡みになっている。

犯人当てそのものよりも、伏線から犯人像を当てるという感じだけど、

私には全く分からなかった。

 

・紐育チーズケーキの謎

あらすじ

十月のある日曜日、小鳩は小佐内に誘われて礼智中学の文化祭を訪れることになった。

お菓子作り同好会の古城コスモスが作るニューヨークチーズケーキを食べた後は、

小鳩は気を利かせて、二人と別れて一人で校内を見てまわることになった。

ところが、グラウンドの真ん中で焚かれていたボンファイヤーの前にいた小佐内に、

走ってきた一年生の男子生徒が衝突して小佐内は吹き飛ばされてしまう。

上階から見ていた小鳩が慌てて駆け付けると、秋桜が呆然と立ち尽くしていた。

小鳩が秋桜に話を聞くと、

小佐内は一年生からCDを受け取ったはずだと難癖をつけられて、

体育会系の二年生の三人組に拉致されたというのだった。

そして、秋桜に「小鳩君を呼んで」と言い残して、

三人組に言われるままついて行ったということだった。

小鳩は、小佐内はCDを受け取り、それをどこかに隠し、

それを推理させるために小鳩を呼んだと推測する。

 

ネタバレありの感想

小佐内がCDをどこに隠したのかという謎。

風船はミスリードで、

正解はボンファイヤーの中に隠したというもの。

ニューヨークチーズケーキの作り方がヒント(伏線)になっているので、

解こうと思えば一応解けるかな、私は分からなかったけれど。

最後の小佐内が登場した時に噛んだのは、笑ってしまった。

 

・伯林あげぱんの謎

あらすじ

年末の終わりが見えてきたある日の放課後、

アンケートの回答を持って新聞部を訪れた小鳩は、部室にいた新聞部の堂島健吾から

少し困っているので相談に乗ってくれないかと頼まれた。

新聞部は、世界の年越しをテーマにベルリーナー・プファンクーヘンという菓子を

取り上げようとしていた。

ドイツでは年末にこの揚げパンをたっぷり用意して、その中にマスタードを詰め、

みんなで食べて誰にマスタード入りが当るか遊ぶゲームがあり、

実際にそのゲームをやってみて、

マスタード入りが当った部員が記事を書くことにしていた。

しかし、揚げパンを食べた四人の中に、

マスタード入りを食べたものは誰もいないとのことだったが。

 

ネタバレありの感想

マスタード入りの揚げパンを食べたのは誰か?だけど、

この話だけは誰か分かって、物語冒頭に意味深な登の仕方をする小佐内。

ただ、誰が食べたのか予想がついても、面白かったし、

四篇の中では一番のお気に入り。

 

・花府シュークリームの謎

あらすじ

三学期に入って小佐内に誘われた小鳩は、甘味処を訪れる。

その時に、秋桜から小佐内に電話があり、

無実なのに停学になったと泣いているという。

名古屋に住む秋桜に会いに行って事情を聴くと、

クラスの何人かがカウントダウン・パーティーを催した際に飲酒したのが発覚して、

先生におまえも飲酒したのだろうと決めつけられて停学にされたのだという。

秋桜が誰が嘘をついたのかを知りたいと言ったので、

小鳩と小佐内は秋桜を助けようとする。

 

ネタバレありの感想

古城秋桜の停学絡みの話だけど、

これも物語冒頭の「オルカ」というミニコミ誌が伏線になっていて、

去年までは三年連続一位の八事のマロニエ・シャンから

栃野みおの「マロ」で分かるようにはなっている。

話としては古城秋桜と田坂瑠璃子が距離を縮めてハッピーエンドになっている。

 

登場人物

・小鳩常悟朗:船戸高校一年。小佐内ゆきと互恵関係を結んでいる。

・小佐内ゆき:船戸高校一年。小鳩常悟朗と互恵関係を結んでいる。

・堂島健吾:船戸高校一年。新聞部員。小鳩常悟朗と小学校が一緒だった。

 

・古城秋桜:礼智中学校三年E組。お菓子作り同好会。

・古城春臣:古城秋桜の父親。パティシエ。パティスリー・コギの経営者。

・田坂瑠璃子:パティシエ。パティスリー・コギ・アネックス・ルリコの店長。

 

・門地譲治:船戸高校一年。新聞部員。

・真木島みどり:船戸高校一年。新聞部員。

・杉幸子:船戸高校一年。新聞部員。

・飯田:船戸高校一年。新聞部だが、準幽霊部員。

・洗馬:船戸高校二年。新聞部員で編集長。バンドでボーカルをやっている。

 

・茅津未月:礼智中学校三年E組。

・佐多七子:礼智中学校三年E組。

・栃野みお:礼智中学校三年E組。

・三本木:礼智中学校の教師で、生徒指導部。

深谷:礼智中学校の教師で、三年E組の担任。

 

総評

本の表紙から『冬季限定~』と思い込んでいたけれど、

実際には小鳩常悟朗と小佐内ゆきの高校一年の二学期から三学期の話になっている。

なので、時系列的には『春期限定いちごタルト事件』と

夏期限定トロピカルパフェ事件』の間に遡っている。

 

有名パティシエの娘の古城秋桜が物語に大きく関わってくるのが今作の特徴で、

四篇中三篇に秋桜が登場している。

『秋季限定栗きんとん事件』は長編で面白かったけれど、

短編集の『巴里マカロンの謎』の方が私の好みであった。

シリーズを重ねたこともあるけれど、

小鳩と小佐内のキャラクターも活き活きしているように見えるし、

ミステリーと伏線のバランスも丁度良い。

特に「伯林あげぱんの謎」は日常の謎ものとしては、かなりの面白さだった。

軽い気持ちで読む小説としてはやはり小市民シリーズは、非常に素晴らしい。