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【米澤穂信】『愚者のエンドロール』についての解説と感想

本記事では米澤穂信さんの小説『愚者のエンドロール』を紹介します。

古典部シリーズの二作目である。

愚者のエンドロール

愚者のエンドロール

著者:米澤穂信

出版社:KADOKAWA

ページ数:256ページ

読了日:2023年8月23日

 

米澤穂信さんの『愚者のエンドロール』。

古典部シリーズの第二弾である。

氷菓』のタイトルでアニメ化と漫画化がされている。

 

あらすじ

夏休みも終盤のある日、

古典部のメンバーは文集『氷菓』のデザインを相談するために学校に集まっていた。

編集会議が終わった後、

千反田えるに二年F組が制作した映画の試写会に誘われて

古典部のメンバー全員で映画を見ることに。

その映画は仮称『ミステリー』で、

内容は楢窪地区の廃村の取材をするというもので事件が起きるが、

結末が描かれぬまま尻切れとんぼで終わっていた。

その理由は脚本家の体調不良のためであった。

古典部は二年F組の入須冬実から映画の犯人を当てる『探偵役』を依頼されるが、

折木奉太郎は安請け合いを嫌がる。

そこで入須は折衷案として二年F組の『探偵役』志願者の話を聞いて

意見を述べるオブザーバー的な役割を依頼し、

奉太郎含めた古典部のメンバーは協力することになった。

 

登場人物

折木奉太郎:神山高校一年B組。「やらなくてもいいことなら、やらない。

       やらなければいけないことなら手短に」の省エネ主義者。

千反田える:神山高校一年A組。古典部部長。

福部里志:神山高校一年。奉太郎の旧友。手芸部古典部員。総務委員会。

      データベースを自認している。ホームジストに憧れている。

伊原摩耶花:神山高校一年。漫画研究会と図書委員会。

       奉太郎とは小学生以来の付き合いで、九年間クラスが一緒だった。

・入須冬実:神山高校二年F組。渾名は女帝。

・本郷真由:神山高校二年F組。映画の脚本家。

・江波倉子:神山高校二年F組。映画製作には関わっていない。

・中城順哉:神山高校二年F組。撮影班で助監督。

・羽場智博:神山高校二年F組。小道具班。

・沢木口美崎:神山高校二年F組。広報班。

 

ネタバレ無しの感想

前作『氷菓』の直後である夏休みの終盤を描いている。

前作が日常の謎であったのに対して今作では二年F組が文化祭のクラス展示のために

自主制作したミステリー映画の結末を推理するという話。

二年F組の『探偵役』の志願者の話を聞きながら物語は展開していく。

 

前作と比較してもミステリー要素は確実に強くなっていて、

殺人事件以外の高校生にとっての謎という意味でもよく考えられている。

米澤さんの特徴だと思うけれど、

ミステリー要素としてはとにかくフェアに描かれているので、安心して楽しめる。

 

謎解き絡みの話はネタバレありの感想に書くけれど、

今回改めて読んで驚いたのが結構キャラクターの心情が描かれていること。

特に主人公の折木奉太郎の心情の変化はうまく表現されている。

今更だけど古典部シリーズが人気なのはこういうところも含めてなんだろうな。

 

 

ネタバレありの感想

二年F組の『探偵役』三人と古典部のやりとりが一番好きかな。

三人それぞれのキャラクターとミステリーに対する考え方、

それにツッコミを入れていく古典部の面々。

メタ的な要素も織り交ぜながらの会話。

 

入須と会話したことによって『探偵役』を引き受けた

奉太郎によって導き出される叙述トリック

完成した映画を見た後からのどんでん返しは物語的には面白いけれど、

奉太郎的には結構きついものがある。

ミステリーとしてはザイルとドイルの時代に叙述トリックがないのとか

フェアなんだろうけど。

 

あと入須は高校二年生とは思えないキャラだよな。

高校二年生で貫録ありすぎるよなというのが率直な感想。

一方で本郷真由は学生らしいかな。

奉太郎と本郷を見てるとやっぱりこのシリーズは

青春ミステリーなんだろうと実感する。

 

気になった点を書いておくと、

完成した映画を見た後に千反田も指摘しているけれど、

本郷にトリックを聞けばいいってのはその通りで、

入須に言われた時点で奉太郎たちがそのことを考えなかったのは

ちょっと理解できなかった。

奉太郎や伊原はかなり洞察力もあって、

奉太郎は省エネ主義者ならなおさらかな。

鬱状態と入須は言っていたけれど、

鬱状態と聞いて本郷が考えていたトリックを喋れないと

みんなが思うってのはちょっと想像しにくいよな。

 

116ページの、

途中でかすれていて「中村青」までしか読めないが設計士の名前まで載っている。

とあるのは綾辻行人さんの『十角館の殺人』で登場した「中村青司」かな。