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【伊坂幸太郎】『ホワイトラビット』についての解説と感想

本記事では伊坂幸太郎さんの小説『ホワイトラビット』を紹介します。

ホワイトラビット

ホワイトラビット

著者:伊坂幸太郎

出版社:新潮社

ページ数:368ページ

読了日:2023年8月28日

 

伊坂幸太郎さんの『ホワイトラビット』。

 

あらすじ

誘拐グループに所属する兎田孝則の新妻・綿子が誘拐された。

兎田は綿子を誘拐した誘拐グループのリーダー稲葉に

コンサルタントのオリオオリオを連れてくるよう要求される。

バッグに入れたGPS発信機でオリオオリオがいる家を探しあてた兎田は

一戸建ての家に侵入するが、中には母親と息子、そして父親がいたのだが。

 

登場人物

・黒澤:空き巣兼探偵。

・中村:空き巣。今村からは「親分」と呼ばれている。

・今村:空き巣。中村と一緒に仕事をしている。

・兎田孝則:誘拐グループの仕入れ担当、指定された人間を連れ去ってくる役割。

・兎田綿子:兎田孝則の新妻。

・猪田勝:兎田孝則の部下でペアを組んでいる。

・折尾豊:誘拐グループのコンサルタント。オリオオリオと呼ばれている。

・稲葉:誘拐ビジネスを事業とするグループの創業者。

・佐藤勇介:無職。

・勇介の母親:佐藤勇介の母親。

・夏之目:宮城県警察本部特殊捜査班SITの課長。

・夏之目愛華:故人。夏之目の娘。七年前に交通事故で亡くなっている。

・春日部:宮城県警察本部特殊捜査班SITの課長代理。

・大島:宮城県警察本部特殊捜査班SITの若手隊員。

 

ネタバレなしの感想

『フィッシュストーリー』の「ポテチ」に登場した黒澤、今村などが登場していて

黒澤は主人公の一人という位置づけになっている。

新妻を誘拐された兎田孝則やSITの夏之目や春日部、

そして黒澤などの群像劇になっている。

ただ、彼らだけの視点ではなく作者の視点というのか語りが時折入ってくるのが

本作の特徴になっていて、これが独特で面白い。

おそらくヴィクトル・ユゴー

レ・ミゼラブル』へのオマージュになってるようだけれど、

レ・ミゼラブル』を読んだことが無いのでこれに関しては何とも言えない。

ただ、読んでいたら、もしかしてもっと楽しめたのかもしれないのかなとは思う。

 

正直かなり不思議な小説だったというのが本音。

いわゆる物語性は弱いし、視点がかなり変わることもだし、

状況が一瞬によって変わることもあって読みにくさもあるんだけれど、

それでも読んだ後はなんだかんだで満足感は得られるかな。

 

兎田は誘拐犯で黒澤や今村は空き巣で反社会的な人間が多く登場するけれど、

コメディタッチに描いているので暗さや重さはそれほどない。

また伊坂作品の特徴であるキャラクター同士の掛け合いも今作でも十分楽しめる。

特に「ポテチ」に登場した黒澤や今村が好きだし、

「ポテチ」には確か名前だけが登場した中村が登場したのも良かった。

 

ただ、物語に整合性を求める場合は結構欠点というか粗はあるんじゃないかと思う。

しかし、ラストまで含めれば読後感は良いので私の中では結構印象深い一冊になった。

 

 

ネタバレありの感想

いわゆるミステリーというか物語に整合性を求める場合は

最後の方はあまり納得できないんじゃないかな。

籠城事件のオチそのものは読んでいても、かなり無理があるとは思うけれど、

物語そのものは綺麗に収斂したという印象の方が強いかな。

佐藤親子も結局は折尾の死に関して罪には問われるけれど、

覚悟を決めて人生をやり直すみたいだし、

夏之目は過去に犯した罪を告白すると。

最後まで読んで冒頭の『レ・ミゼラブル』の引用を読むと

なるほどと納得できるかな。

 

伊坂作品の特徴の一つである登場人物たちの掛け合いの面白さは流石の一言。

特に中村と今村は特にいいキャラしているし、

黒澤と兎田と佐藤親子が話してるのも最高に楽しめた。

 

伏線の張り方使い方も伊坂作品の特徴だけれど、

これも相変わらずうまかった。

序盤に出てきた岩と間違えてオリオンを射った話が

最後の綿子と兎田のシーンで出てきたり、

中村が制服やヘルメットを揃えていたのが使われたりと。

 

本題ともいえる物語の部分だけれど、見事に騙された。

時間軸がズレているんだけれど、

この時間軸がズレているのも作中に出てくる

ベテルギウスの話がヒントというのか伏線になっている。

もっとも、これも最後の最後に明かされるというわけでもなく、

結構前に明かされるわけだけれど。

 

誘拐グループの兎田や、黒澤や今村なども空き巣だし、

夏之目も人を殺してるわけだから、

本来ならもっと暗かったり読んでて陰鬱な気分になってもおかしくはないんだけど、

本作に限らず伊坂作品の特徴かなと。

特に今作はメタ的なことも書かれているのもあって、かなり軽い感じにはなってる。

 

黒澤がオリオオリオに入れ替わったことを考えたら小説だからこその驚きで

楽しめる一冊になってるんじゃないかな。

映像化したら結構陳腐な作品になってしまう気がするかな。

 

206ページの夏之目愛華が言った

「はい、生まれました。はい、いろいろありました。はい、死にました。」は

妙に印象に残った。