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【伊坂幸太郎】『重力ピエロ』についての解説と感想

本記事では伊坂幸太郎さんの小説『重力ピエロ』を紹介します。

重力ピエロ

重力ピエロ

著者:伊坂幸太郎

出版社:新潮社

ページ数:485ページ

読了日:2024年3月7日

満足度:★★★☆☆

 

伊坂幸太郎さんの『重力ピエロ』。

このミステリーがすごい!2004年版」3位。

2009年に加瀬亮さんと岡田将生さん主演で映画化されている。

 

あらすじ

和泉と春の兄弟と優しい父と美しい母の家族には、過去に辛い出来事があった。

和泉と春が大人になった頃、仙台市内で連続放火事件が発生する。

春は和泉の会社が放火に遭うかもしれないので、気をつけた方がいいと

忠告すると、春の言う通り和泉の会社は放火の被害に遭う。

和泉は春になぜ会社が放火に遭うことが分かったのかと聞くと、

放火事件にはルールがあり、連続放火の現場近くには、

謎のグラフィティアートが必ずあるのだと春は答えた。

和泉と春、そして父は、連続放火事件に興味を持ち謎解きの乗り出す。

グラフィティアートと遺伝子のルールの奇妙なリンク、

謎を解き明かした時に、その先にある圧倒的な真実とは。

 

登場人物

・和泉:ジーン・コーポレーションの社員。

・春:和泉の弟。

           市内で落書きを消す仕事をしている。

   パブロ・ピカソが死んだのと同じ日の一九七三年四月八日生まれ。

・父:和泉と春の父親。春とは血が繋がっていない。癌により入院中。

・母:故人。和泉と春の母親。結婚前はモデルをしていた。

   五年前に病気で亡くなっている。

・郷田順子:日本文化会館管理団体の職員。

・黒澤:副業で探偵をやっている男性。

   『ラッシュライフ』や『フィッシュストーリー』にも登場している。

・葛城将一:自営業と称しているが売春斡旋を行っている男性。四十四歳。

・高木:ジーン・コーポレーションの社員。和泉の同期。

・英雄:ジーン・コーポレーションの社員。和泉の同期。無類の読書家

・仁:ジーン・コーポレーションの社長。

 

ネタバレなしの感想

和泉と春、そして癌を患っている父と亡くなった母の家族の物語。

母が強姦に襲われた結果生まれたのが春で、普通ならかなり重く暗くなるものを、

伊坂さん独特の文体で重さや暗さをあまり感じさせないように描いている。

『本当に深刻なことは、陽気に伝えるべきなんだよ』という作中にある台詞通りの

作風になっている。

物語はこの春の兄の和泉視点で進行していき、

仙台市内で発生している連続放火事件の謎を解き明かすというものになっている。

なので当然ミステリー小説に分類されるんだろうけれど、

正直ミステリー要素としては、そこまで凄いと唸るようなものでないと思う。

和泉と春、父、母の家族の話で、

春を中心とした家族のエピソードが描かれているので、

読み終わった後は、この家族のことを好きになること間違いなしの一冊。

 

もし『ラッシュライフ』を読んでいなくて、

ラッシュライフ』を読む気があるならば、

ラッシュライフ』→『重力ピエロ』の順番で読むことをお薦めする。

 

 

ネタバレありの感想

面白いことは間違いないんだけど、

ミステリー要素や伏線の意外性は全くと言っていいほどなかった。

春が放火犯であるのもそうだし、葛城将一が春の実の父親であるのも、

郷田順子の正体が夏子であるのも、ものすごく分かりやすかった。

またラストの春の行為を和泉が許すというのも想像はしやすかった。

このミステリーとしての意外性の無さや

小説としての仕掛けの無さが気にならないほど文章が美しいのと

和泉や春、父、母が魅力あるので小説としては十分すぎるほど

印象に残るようになっている。

もっとも文庫本で485ページと分量は多いのと、

連続放火事件というのもフックとしては弱いのは若干気になった。

あとDNAからアミノ酸の話は難しすぎたのもあったし、凝りすぎかな。

 

和泉と春、それに父の会話はかなりよくて、

ウィットに富んでいて、三者の関係性も含めて非常に良かった。

また郷田順子と和泉の会話は文学に疎い私には分からない部分も多かったけれど、

それでも楽しめた。

ラッシュライフ』の黒澤の存在感も妙にあって、

和泉と黒澤の会話も良かったけれど、

これは『ラッシュライフ』を読んでいないと分からない部分があるのが難点かな。

 

春が葛城将一を殺したことと、

その春を和泉が許すのというのは、スンナリ受け入れることができた。

むしろ和泉が春を許さなかった場合は、あまりにも救いがない話になってしまうかな。

 

一番気に入ったのは台詞は父の『春は俺の子だよ。俺の次男で、おまえの弟だ。

俺たちは最強の家族だ』かな。

 

小ネタ

ラッシュライフ』に登場した黒澤の台詞で、

172ページで「ラッシュばかりの人生を行く人々を、羨ましがっていたんだ。

俺はそこから弾かれたからな」

178ページでは「空き巣の家に、空き巣が入る話だ。」

430ページでは和泉に「カウンセラーに向いていますよ、きっと」と言われると

「前にも言われたことがある」とあるが、

ラッシュライフ』を読んでいると、元ネタが理解できて楽しめるようになっている。

また346ページから登場する痩身の男性は『オーデュボンの祈り』に登場した伊藤。