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【横山秀夫】『クライマーズ・ハイ』についての解説と感想

本記事では横山秀夫さんの小説『クライマーズ・ハイ』を紹介します。

クライマーズ・ハイ

クライマーズ・ハイ

著者:横山秀夫

出版社:文藝春秋

ページ数:480ページ

読了日:2024年3月4日

満足度:★★★★★

 

横山秀夫さんの『クライマーズ・ハイ』。

2005年12月にNHKでテレビドラマ化と2008年に映画化されている。

このミステリーがすごい!2004年版」国内編7位。

 

あらすじ

群馬県の地元紙「北関東新聞」の本社詰め遊軍記者の悠木和雅は、

同僚の販売局の安西耿一郎に誘われて、谷川岳の衝立山を登攀する予定であった。

しかし、退社寸前に県警キャップの佐山から「ジャンボ機が消えた」と連絡が入る。

日航123便は長野・群馬県境に墜落した模様との情報が入り、

悠木は粕谷編集局長から日航123便の全権デスクに任命されることになった。

さらには、共に山に登る予定だった安西が病院に運ばれたらしいと知らされる。

 

登場人物

北関東新聞関係者

・悠木和雅:日航全権デスク。編集局。本社詰め遊軍記者。「登ろう会」のメンバー。

・安西耿一郎:販売局。途中入社。社内に「登ろう会」を作った。

・佐山達哉:県警キャップ。

・川島:県警サブキャップ。

・神沢:県警担当記者。

・森脇:県警担当記者。

・粕谷:編集局長。

・追村:編集局次長。綽名は「調停屋」「ノミの心臓」。

・依田千鶴子:編集庶務。二十七歳。     

・亀嶋:整理部長。綽名は「カクさん」。

・吉井:整理部。

・市場:整理部。

・山田:地方部デスク。

・玉置昭彦:前橋支局の記者。群大工学部出身。

・守屋:政治部長。等々力と同期。

・岸:政治部デスク。悠木和雅の同期。中一と小六の娘がいる。

・青木:政治部。

・等々力:社会部長。

・田沢:社会部デスク。悠木和雅の同期。

・伊東康男:販売局長。

浮田:広告局長。

・暮坂:広告部長。

・宮田:広告局。「登ろう会」のメンバー。

・稲岡:読者投稿欄『こころ』担当。

・久慈:総務局。悠木和雅の同期。

・遠野:写真部。

・鈴本:写真副部長。

・茂呂:出版局長。

貝塚:出版局次長。

・白川:社長。交通事故で脊髄を損傷し、車椅子生活。

・飯倉:専務。綽名は「インテリやくざ」。

・高木真奈美:白川の秘書。三ヶ月前まで住宅供給公社の職員だった。

 

・悠木弓子:悠木和雅の妻。

・悠木淳:悠木和雅の息子。十三歳。

・悠木由香:悠木和雅の長女。小学四年生。

 

・安西小百合:安西耿一郎の妻。

・安西燐太郎:安西耿一郎の息子。中学一年生。

 

・望月亮太:故人。元北関東新聞の記者。

      悠木の下に配属されていた時に赤信号の交差点に進入し、

      十トントラックと激突して交通事故で死亡。

望月彩子:望月亮太の従姉妹。県立大学の大学生。二十歳。

 

・末次:安西の山仲間。

・遠藤貢:故人。十三年前に衝立岩で亡くなっている。安西のザイルパートナー。

・藤浪鼎:運輸省航空事故調査委員会の首席調査官。

・志摩川:県警の刑事。本部の鑑識課長。

 

ネタバレなしの感想

日本航空123便墜落事故を題材にしていて、

作者の横山秀夫さんが事故当時新聞記者であったこともあり、

主人公の悠木和雅は新聞記者で日航全権デスクとして事故に関わることになる。

このミステリーがすごい!」にはランクインしているけれど、

ミステリー要素はほとんどないと言っていいと思うので、

ミステリーを期待して読むものではないと思う。

完全なヒューマンドラマで、親と子、個人と組織、

報道の理想と現実などが描かれている。

 

実際にあった事故が題材になっているのもあって、

当時の雰囲気や新聞社の人間たちの価値観が分かるのもあって良かった。

私も流石に生まれてはいないので実際には経験してないけれど、

物語冒頭のグリコ森永事件の終結宣言や「三光汽船」の経営破綻など、

1985年がどういう時代だったのかも分かるようになっているし、

群馬の新聞なので福田赳夫中曽根康弘に配慮しているのとか、

連合赤軍事件や大久保清事件のような大きな事件が記者にとって

どういう意味があったのかがわかる。

そういう意味ではノンフィクション的な要素もあって、

それがよりリアリティーを感じさせることになっている。

 

以前一度読んだことがあったけれど、今回改めて読んで非常に面白く読めた。

読んでない方は読んで損はしないと思う。

 

 

ネタバレありの感想

群馬と長野どちらに落ちたのか?や

事故原因については結局特ダネにすることはできないのは、

実際の事故を題材にしていることを考えれば何となくは予想はついたけれど、

それをうまく話としてはまとめている印象になっている。

確信の持てない事故原因を遺族を思い出して記事にしない決断をしながらも、

それを後悔していたりと綺麗ごとにしていないのが良い。

 

佐山達哉の現場雑感が記事にならなかったのは、

「大久保連赤」世代による潰しであったり、

次に現場雑感の連載を始めるも一面には載らなかったのは、

当時の自衛隊がどういう位置づけであったかなどリアリティーを感じて良かった。

 

反面小説としては123便の事故関係では、カタルシスを感じにくいのも事実だけれど、

そこを悠木和雅の母親と息子の話や望月亮太と従姉妹の彩子を絡めて、

物語にうまく仕立て上げている。

 

色んな要素が詰め込まれているけれど、

それほど散漫になることもなく、しっかりと物語としては成立しているかなと思う。

 

悠木の母親の話はどうしようもなく重く暗いし、

途中までは伊東康男もとても嫌な人物でしかないのが、

悠木に伊東の子供の頃のことを言わせて伊東の印象を一気に変えるのもうまいし、

横山さんの人間性の現れなのかなと思う。

これは暮坂の件も同じで、途中まではどうしようもない人間にしか見えないのが、

「記者病」として描写することによって印象が変わる。

 

地方紙ってもちろん今でもあるんだろうけど、今はまた全然違うだろうし、

依田千鶴子のように時代性が分かるのも含めて非常に良かった。

ラストに1985年からの十七年間を語るのも、

また悠木親子の関係性も含めて素晴らしい一冊。