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【伊坂幸太郎】『オーデュボンの祈り』についての解説と感想

本記事では伊坂幸太郎さんの小説『オーデュボンの祈り』を紹介します。

オーデュボンの祈り

オーデュボンの祈り

著者:伊坂幸太郎

出版社:新潮社

ページ数:464ページ

読了日:2024年2月9日

満足度:★★★★☆

 

伊坂幸太郎さんの『オーデュボンの祈り』。

伊坂幸太郎さんのデビュー作。

2000年の第五回新潮ミステリー倶楽部賞受賞。

 

あらすじ

伊藤はコンビニで強盗を試みるも失敗し、逃走していたが、

気がつくと見知らぬ島にいた。

その島は、荻島といって江戸時代以来外界から鎖国をしているという。

荻島には嘘しか言わない画家や、島の法律として殺人を許された男、

人語を操り、未来が見えるカカシなどがいた。

また、「ここには大事なものが、はじめから、消えている。だから誰もがからっぽだ」

という昔から島に伝わっている言葉もあった。

しかし伊藤が島を訪れた翌日、カカシは無残にもバラバラにされて、

頭部を持ち去られて殺されていた。

伊藤は未来を見通せるはずのカカシは、なぜ自分の死を阻止できなかったのかという

疑問を持つ。

 

登場人物

・伊藤:コンビニ強盗に失敗して、逃走中だったが、荻島に連れてこられた。

    元システムエンジニア

・静香:伊藤の元恋人。システムエンジニア。趣味はアルトサクソフォンを吹くこと。

・城山:警察官。伊藤の中学生時代の同級生。

・祖母:故人。伊藤の祖母。

 

荻島の住民

・優牛:未来が見えて、喋るカカシ。1855年生まれ。

・日比野:伊藤に荻島を案内した男。開店休業状態のペンキ屋。

・園山:嘘しか言わない元画家。妻は五年前に殺されている。

・曽根川:伊藤より三週間前に荻島にやってきた中年男性。

・轟:荻島と外を行き来できる男性。熊みたいな風体をしている。

・若葉:地面に横たわって心臓の音を聞いている少女。

・ウサギ:体重が300キロぐらいある女性。市場にいる。

・旦那:ウサギの夫。昼間は市場でウサギの世話をしている。

・峯:故人。ウサギの祖母。

・草薙:郵便局員

・百合:草薙の妻。手を握ってあげる仕事をしている。

・桜:島の法律として殺人を許された男。

・佳代子:日比野が惚れている女性。

・希世子:佳代子と双子の女性。

・小山田:刑事。日比野の幼なじみ。

・田中:足に障害がある男性。

・安田:佳代子を付け回している男性。

・笹岡:安田の仲間。

 

・禄二郎:案山子を作った江戸時代の男性。

・徳之助:禄二郎の友人。

・お雅:禄二郎の妻。

支倉常長:荻島をヨーロッパとの交流所にした人物。

・ジョン・ジェームズ・オーデュボン:『アメリカの鳥』という

     自分で書いた鳥の図鑑を出版した人物。

 

ネタバレなしの感想

伊坂幸太郎さんの本は結構読んできたけれど、

デビュー作の『オーデュボンの祈り』は今回はじめて読んだ。

(もしかしたら、以前読んだことがあるかもしれないけど記憶は一切ない。)

設定だけは知っていて、喋るカカシであるとか島の話であることは知っていた。

 

荻島にいる未来を知ることができるカカシが殺されて、

未来を知ることができるのになぜカカシは殺されたのか?というのが

ストーリーのメインになっている。

そこから、さらに事件が起きて、色々な謎が提示されてという形で

ストーリーは展開していく。

もっとも、私は読んでいる時はミステリーというよりは

不思議な世界の物語として読んだのもあって、ミステリー感はそれほど無かった。

もっとも、カカシが殺された謎も含めてしっかり答えは提示はされるので、

ミステリーとして読んでも満足できるだろう。

また、現在、過去、伊藤の祖母、島の外の仙台など複数の視点で描かれていて、

結末に向けて収斂していく形式になっている。

 

本書の魅力は喋るカカシだけではなく、

嘘しか言わない画家や詩集を読む人殺しの男や地面に耳をつけて音を聞く少女など

おかしな人物ばかり登場することだろう。

この設定だけでもかなり奇抜なことが分かるだろうけれど、

奇抜なものを読者に違和感なく読ませるのは流石の一言。

450ページを超えるのもあって、途中で若干中だるみした感もあるけれど、

後半の展開はかなりのものでかなり満足できる一冊になっている。

 

 

ネタバレありの感想

ストーリーのメインはカカシ殺しの謎ではあるんだけど、

おかしな登場人物のおかしな言動などもあって、

中盤は物語の焦点がちょっと曖昧に感じた。

一方で後半の伏線の回収は鮮やかすぎて、

デビュー作でここまで完成度が高いのは驚異的だと思う。

登場人物たちがおかしな人たちだらけなのもあって、

どの言動が不自然なのか?を感じなかったこともあって、素直に驚いた。

 

カカシの優牛が未来を見ることができたからこそ、

ある意味では完全犯罪をやりきったわけだけど、

これは優牛がカカシであるからこそ成立する物語になっている。

優牛の未来を見るというのはかなり特別な能力ではあるけれど、

反面カカシなので本人は身動きできないというのが活かされている。

 

島に欠けているものは音楽というのも含めて最後には色んなものが、

キッチリカッチリはまるのはかなりの爽快感がある。

優牛の頭部が無くなっていたのや轟の家の地下室の謎、

若葉が地面に耳をあてて心臓の音を聞いている理由が明らかになった時は、

素直に感動した。

小さいところでいえば日比野の祖先が徳之助か?というのも良かった。

伊坂さんの作品には音楽がよく出てくるイメージがあるけれど、

一作目から重要な要素になっていたのは印象深い。

 

城山が桜に殺されるのだけは何となく想像できたけれど、

あとは全く予想できなかったのもあって、素直に驚きの方が上回った。

伊坂ワールド全開で、伊坂節も要所要所に出てきて、

田中も日比野も優牛も園山も温かみがあるキャラクターで、

最後は優しい気持ちになれるし、読後感は非常に素晴らしかった。