【浅倉秋成】『俺ではない炎上』についての解説と感想

本記事では浅倉秋成さんの小説『俺ではない炎上』を紹介します。

俺ではない炎上

俺ではない炎上

著者:浅倉秋成

出版社:双葉社

ページ数:429ページ(単行本)

読了日:2024年2月12日

満足度:★★★☆☆

 

浅倉秋成さんの『俺ではない炎上』。

このミステリーがすごい!』2023年版国内編19位。

 

あらすじ

Twitterに遺体の写真付きで殺人をほのめかしている投稿が、

リツイートをきっかけに拡散する。

アカウント主は大手住宅販売会社の営業部長の山縣泰介と判明する。

インターネットに疎い山縣は人違いだと当初は楽観視していたが、

そのアカウントは十年前に作られており、

山縣泰介本人としか思えない投稿が残されていた。

やがて山縣の自宅の物置から別の遺体も見つかり、

誰からも信じてもらえない状況に追い込まれた山縣は逃亡を余儀なくされる。

逃亡を続けながらも、事件の真相を探ろうとする。

 

登場人物

・山縣泰介:大帝ハウス大善支社の営業部長。五十四歳。

・山縣芙由子:山縣泰介の妻。化粧品通販のコールセンターでパートをしている。

       大帝ハウス町田支店で事務員をやっていた時に

       泰介と社内恋愛の末結婚した。

・山縣夏実:山縣泰介の娘。小学五年生。

 

・住吉初羽馬:学園大の三年生。サークル「PAS」のリーダー。

       アカウント名は『すみしょー』。

・サクラ:学園大の二年生。アカウント名は『サクラ(んぼ)』。

    「ネットでの出会いを考えるシンポジウム」というイベントの参加者。

 

・堀健比古:大善署刑事課の刑事。巡査長。

・六浦:県警捜査一課の刑事。堀健比古とは同じ署で働いた経験がある。巡査長。

    学園大の理系出身。

・野井:山縣泰介の部下。大帝ハウス大善支社の戸建て住宅部門の課長。

・青江:シーケンLIVEの営業担当。

・マチ子:スナック「しずく」の店主。三十歳の息子がいる。

・江波戸琢哉:山縣夏実のクラスメイト。「えばたん」と呼ばれている。夢は建築士

・塩見:医薬品メーカー勤務。以前は大帝ハウス勤務で山縣泰介の部下だった。

・篠田美沙:事件の被害者。万葉町第二公園の公衆トイレで見つかる。

      大学生。二十一歳。

・石川恵:事件の被害者。山縣泰介の自宅の倉庫から見つかる。

     大学生。

・砂倉紗英:女子大生。

・木沢:大善署の刑事。大善署で最も取り調べが巧いと謳われている。

 

ネタバレなしの感想

ある日突然、「女子大生殺害犯」とされた男、

既に実名と顔写真がネットに晒されていて大炎上している。

事実無根だが、誰にも信じてもらえない状況のため逃亡しながらも、

事件の真相を探ろうとする。

物語は、SNSで女子大生殺害犯に仕立てられた山縣泰介、その娘の山縣夏実、

炎上のきっかけとなったリツイートをした大学生の住吉初羽馬、

そして事件を担当する大善署の刑事の堀健比古の視点で進行していく。

メインストーリーは当然ながら逃亡することになった山縣泰介で、

緊迫感ある逃亡劇と反撃が描かれている。

またネットを利用したなりすましによる冤罪だけでなく、

歪んだ正義感や無責任な発言などネットの問題も描かれているのも特徴になっている。

スリルあふれる逃亡劇とロジカルなミステリーの融合になっていて、

さらには社会派的な要素もありの一冊になっている。

 

 

ネタバレありの感想

ネットが炎上して山縣泰介の周辺が物騒になってきて、死体が発見されて、

泰介が逃亡を余儀なくされる流れは、テンポもよく、

自然な流れで物語にひきこまれていった。

また多少やりすぎかなとは思うけれど、逃亡劇もスリルがあって非常に良かった。

今の時代はほとんどの人がスマホを持っていて、

多くのことがリアルタイムで知ることが可能な時代なので、

ここらへんの描写も非常にうまかった。

この逃亡シーンは、映画の『逃亡者』を思い出した。

 

ミステリーとしては叙述もので、山縣夏実のパートだけは十年前の話になっていて、

住吉初羽馬のパートに出てくるサクラ(んぼ)の正体が、

実は山縣夏実であるというオチ。

また、事件の真相としては山縣夏美パートに登場した江波戸拓哉(えばたん)が

真犯人になっている。

 

以下気になったのは、

158ページの「小学生の娘がいるって情報が出てたけど、

本人の年齢考えたらあり得ないような気がする。」

というのだけは妙に印象には残っていた。

ただ、一方で四十過ぎで子供ができるっていうのも

今はそこまで珍しくないよなと思ったのも事実。

 

あとはオチを知った後でちょっと読み返してみると、

106ページで芙由子が「娘は塾に通わせているので、塾にいる時間です。」

と言っているけれど、

大学生の夏実が塾に通うというのはどうも納得はしにくいかな。

バイトなら通うという表現はしないような気がするし、

資格試験の学校は塾とは表現しない気がするしな。

 

あとは

293ページでサクラ(実際には山縣夏実)の台詞で、

「このままだとほんの小さな子供の手によって、山縣泰介が殺されてしまう」

とあって、読者に山縣夏実を犯人だと思わせようとしたいんだろうけど、

実際の犯人である二十歳か二十一歳の男性(江波戸拓哉)を

子供とは言わないだろうと。

江波戸は身長百五十八センチと男性としては低いけれど、

だからといって子供とは言わないよなと。

スリードしたいのは分かるけれど、若干無理があるかなとは思う。

ここらへんがいまいちスッキリはしなかったので、

どうしても評価は辛くなってしまう。

叙述トリックとしては、そこまで出来が良いとは思えないので、

妙な捻りをしない方が良かったかな。

 

山縣泰介も自身を省みて、変わろうとするラストは良かった。