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【荻原浩】『砂の王国(下)』についての解説と感想

本記事では荻原浩さんの小説『砂の王国(下)』を紹介します。

砂の王国

砂の王国(下)

著者:荻原浩

出版社:講談社

読了日:2024年2月6日

ページ数:下巻496ページ

満足度:★★★★☆

 

荻原浩さんの『砂の王国』。

『砂の王国』は三章で構成されていて、

下巻には第二章の後半と第三章が収録されている。

 

あらすじ

元証券マンでホームレスの山崎遼一が占い師の錦織龍斎と

長身美形のホームレス青年・仲村健三と立ち上げた「大地の会」は、

山崎遼一の設計図通りに発展していく。

それどころか会員たちの熱狂は思惑を超えて膨れ上がっていく。

 

登場人物

第二章 我が名を皆、大地と呼ぶ(承前)に登場

・山崎遼一:大地の会の事務局長。木島礼次を名乗っている。

・仲村健三:大地の会の教祖。大城健人を名乗っている。沖縄の多良間島生まれ。

・錦織龍斎:大地の会の師範代。小山内を名乗っている。

・坪井和子:スーパーマーケットのフルタイムのパート。

      夫を癌で亡くしている。五十二歳。

・飯村卓人:BI開発セミナーの講師。ブログの「甘えん坊将軍DX,」の開設者。

      青年部の初代の会員。元ウェブデザイナー(見習い)。

・佐々木晴美:夫は私立総合病院の院長。五十六歳。

・斉藤麻弓:小鉢を八十万円で落札した女性。

・清水和也:KAZZ。青年部の大学生。

・盛岡辰夫:盛岡酒店の店主。商店会会長。

・盛岡妙子:盛岡辰夫の妻。

・パコ:アズールスカイの代表。ミュージシャン。

・モンタロー:エコ・レイヴのスーパーオーガナイザー。本名は本多。

 

第三章 我らの後に時は続く

・山崎遼一:大地の会の事務局長。木島礼次を名乗っている。

      母親が神玉教の信者だった。

・仲村健三:大地の会の教祖。大城健人を名乗っている。沖縄の多良間島生まれ。

・錦織龍斎:大地の会の師範代。小山内を名乗っている。

・飯村卓人:青年部会員第一号。IT広報チームのチーフを自称している。二十三歳。

・清水和也:KAZZ。青年部。メディケーション・プログラムのインストラクター。

・光岡:取り立て屋。

・佐々木晴美:婦人部。夫は私立総合病院の院長。五十六歳。

・坪井和子:婦人部。

・吉岡雅恵:婦人部。

・斉藤麻弓:婦人部。ヒーリング体操のインストラクター。

      銀座のクラブのシャンティ」に勤めている。源氏名はカオリ。

・阪本:大地の会のIT広報室のチーフ。一流大学の工学部卒。

・パル:大城に憧れ、KAZZを慕っている十九歳の少年。

・吉江香椰:女優。三十二歳。本名は加藤香椰。

・松田栄司:元サッカー日本代表

・藤原宗輔:衆議院議員。日本維新党の党首。

・堀越:藤原宗輔の秘書。

・小林美奈子:山崎遼一の妻。

       山崎遼一とは別居中で正式な離婚の手続きはしていない。

 

ネタバレなしの感想

第二章は商店街との問題のような新興宗教をめぐる現実的な問題と、

上巻のラストで青年部のKAZZ・清水和也から誘われて、

エコ・レイヴに参加することになった「大地の会」が描かれている。

山崎遼一、仲村健三、錦織龍斎の三人で揃って初めての遠征に臨むも、

ステージではロクに喋れずに終わってしまう。

しかし、気を取り直してもう一度ステージに教祖が上がると・・・

というストーリーになっている。

おそらく映画化でもすれば、ハイライトにでもなりそうだけど、

いざ映像化したらしたで陳腐なものになってしまうかな。

 

第三章はここでは書かないけれど、雰囲気もラストも私には良かった。

第三章に関しては、

正直かなり急展開でもう少し丁寧に描かれていればとは思う部分もあるけれど、

上下巻通して物凄く楽しめた。

 

 

ネタバレありの感想

第二章の商店街の問題は新興宗教団体と周囲の摩擦をうまく処理していて、

小説としてもかなり丁寧に描かれている。

エコ・レイヴは一度は失敗するも、山崎遼一が仲村健三と錦織龍斎に呼びかけて

もう一度挑戦するのは胸を打つものがある。

 

第三章はそれまでと一変して急にサスペンス的になって

「大地の会」自体が崩壊に向かっていくのかと思いきや、

追放されるのは山崎だけという展開。

山崎がプロデューサーで振付師だったはずが、

仲村と龍斎が山崎とは違う考えを持ったために、

彼らは山崎を追放して独立独歩でやっていくことを選択し、

追放された山崎は「大地の会」の監視の目を恐れて

逃亡生活を続けているというラスト。

 

そもそも仲村や龍斎とは特別な信頼関係があったわけではないので、

彼らが山崎を追放するという展開も私は受け入れやすかった。

仲村は最後の最後でどういう人間かが語られるけれど、

それまでは断片的な情報が語られるに過ぎなかったし

龍斎は山崎のやり方に異を唱えることも多かったし、

境遇や年齢からしても山崎追放は自然かなと。

 

かっこ悪く描かれていた飯村卓人が「大地の会」のやり方を完全に見破って、

龍斎や山崎をやりこめるところはスッキリするし、

その後も一人で戦うのも悪くはない。

もっとも最後に「僕らの新しい教団の名前は」となるので、

KAZZも含めて宗教を捨てられないというのはスッキリはしないかな。

 

山崎が最後の最後に神様の言う通りで道を決めるのはユーモアがあって好きだし、

一方で山崎自身には

「ここでは諦めるほど、いまの私はやわじゃなかった。さぁ、次へ行こう。」と

言わせているように決して悪い終わり方ではないと思う。

ただ、大地の塔を壊すのや「大地の会」の壊滅エンドも

見たかったのは見たかったかな。

そうするとさらに分量が多くなるのと、

かなり雰囲気が変わってしまうとは思うけれど。

山崎の妻の美奈子や吉江香椰のエピソードは消化不良な感じはするけど、

全体としては非常に良かった。