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【荻原浩】『砂の王国(上)』についての解説と感想

本記事では荻原浩さんの小説『砂の王国(上)』を紹介します。

砂の王国

砂の王国(上)

著者:荻原浩

出版社:講談社

読了日:2024年2月3日

ページ数:上巻496ページ

満足度:★★★★☆

 

荻原浩さんの『砂の王国』。

『砂の王国』は三章で構成されていて、

上巻には第一章と第二章の前半が収録されている。

 

あらすじ

大手証券会社に勤めていた山崎遼一はマンションの家賃が重圧となり、

消費者金融の取り立てから逃げ回ることに疲れて都心のマンションを捨てて、

ネットカフェに寝泊まりするようになった。

親しくなった青年タジマに現金を盗まれてしまい、ネットカフェにもいられなくなり、

路上で暮らし始め、全財産は三円になってしまった。

三円からの逆襲を誓った山崎は、性格の悪い占い師の錦織龍斎と

長身美形のホームレス仲村健三と公園で出会う。

 

登場人物

第一章 祈るべきは、我らの真下に登場

・山崎遼一:ホームレス。以前は興和証券に勤めていた。

      半年近くマルチ商法の会社に勤務していた。

・仲村健三:山崎遼一が住み始めた公園に以前からいたホームレス。

      身長は190センチ以上ある。

・錦織龍斎:山崎遼一が住み始めた公園近くの路上で開業している占い師。

      本名は西木で、錦織龍斎はペンネーム。

・美奈子:山崎遼一の元妻。

・タジマ:ネットカフェで山崎遼一が出会った二十歳の青年。

     山崎遼一から現金四十万円や携帯電話を盗んで姿を消した。

 

第二章 我が名を皆、大地と呼ぶに登場

・山崎遼一:大地の会の事務局長。木島礼次を名乗っている。

・仲村健三:大地の会の教祖。大城を名乗っている。沖縄の多良間島生まれ。

・錦織龍斎:大地の会の師範代。小山内を名乗っている。

・坪井和子:スーパーマーケットのフルタイムのパート。

      夫を癌で亡くしている。五十二歳。

・飯村卓人:ブログの「甘えん坊将軍DX,」の開設者。青年部の初代の会員。

      元ウェブデザイナー(見習い)。

・吉岡雅恵:坪井和子の知り合い。

・佐々木晴美:夫は私立総合病院の院長。五十六歳。

・斉藤麻弓:小鉢を八十万円で落札した女性。

・清水和也:ドレッドヘア。KAZZ名義でブログを書いている。

 

ネタバレなしの感想

大手証券会社勤務からホームレスに転落した山崎遼一が、

公園で出会った占い師の錦織龍斎と長身美形のホームレス仲村健三と組んで

新興宗教団体を作るのがメインストーリーで三章構成になっている。

一章がホームレス編、二章が宗教団体を立ち上げて運営していく話になっている。

上巻には二章の途中までが収録されている。

 

あらすじとして山崎が宗教団体を立ち上げるのは分かっているので、

一章のストーリーはある程度想像できるだろうけど、それでも私は一章が面白かった。

山崎がホームレスになった経緯やホームレスになった後の心情が描かれているけれど、

特にホームレスになった後の心情は分かるものがあってよかった。

落ちていく人間の様と失ってはじめて気づく有難みが丹念に描かれていて、

一章は大きな物語ではないけれど、面白く読むことができる。

ただ落ちていくだけではなく、そこから這い上がろうとする物語でもあるので

読んでいて暗くはならないはず。

上下巻なので気軽にはお勧めできないけれど、私は結構楽しめました。

 

 

ネタバレありの感想

とにかく私には第一章が面白すぎた。

下巻の解説にもあるけれど、吾妻ひでおさんの『失踪日記』を思い出した。

ホームレス生活いうのは実際になれば大変だというのは分かるけれど、

読む分には妙な面白さもあるのも事実でかなり楽しかった。

失踪日記』は90年前後の話で、

まだ景気が良かった時代で食べ物にも恵まれていたけれど、

本書は2000年代後半で景気が悪い時代ということもあって、

食べ物の調達も仲村健三という

独特な存在感を発揮する人物頼みになっているのも面白い。

後になって、山崎遼一が仲村を宗教団体の教祖に祭り上げる根拠にもなっている。

 

お金も1円単位に汲々としているのはリアルだし、

ホームレスの山崎が占い師の錦織龍斎を手伝ってサクラとしてお金を稼ぐというのも、

かなり現実的だと思うし、

宗教団体を立ち上げるヒントや龍斎を仲間に加える動機にもなっている。

傘を売ってお金を稼ごうとしたり、

そこから現実的な方法でホームレス脱出をしようと考えていたところなどが良かった。

正月を路上で迎えてアルミ鍋で雑煮を食べている描写なども印象に残った。

最後の最後で競馬で大金を得るというのはかなりのご都合主義かもしれないけど、

そこは受け入れるしかないだろう。

もっともそこまでの山崎の心理描写というか心の変遷があるので、

普通に就職するのではなく宗教団体を立ち上げるという選択は納得できた。

 

第一章のラストで宗教団体を立ち上げる話は結構簡素化されているのと、

龍斎と仲村は山崎と対等な関係とはいえないので多少盛り上がりに欠けるかな。

 

第二章は坪井和子や飯村卓人視点も交えながら進行していくが、

山崎と龍斎が組んでインチキ占いの変化形で勧誘する描写であったり、

山崎が仲村をうまくプロデュースして仲村を教祖に仕立てあげている。

小鉢が八十万円はやりすぎかなとも思うけど、

オークション形式であることを考えたら許容範囲かな。

飯村卓人のブログ描写は小説として読むと、ちょっとどうかと思うけれど、

時代背景を考えたらネット描写は無視できないか。

というところで上巻終了。