MENU

【阿津川辰海】『午後のチャイムが鳴るまでは』についての解説と感想

本記事では阿津川辰海さんの小説『午後のチャイムが鳴るまでは』を紹介します。

午後のチャイムが鳴るまでは

午後のチャイムが鳴るまでは

著者:阿津川辰海

出版社:実業之日本社

ページ数:384ページ

読了日:2024年1月28日

 

阿津川辰海さんの『午後のチャイムが鳴るまでは』。

九十九ヶ丘高校を舞台にした五篇収録の連作短編集になっている。

 

・第一話 RUN! ラーメン RUN!

あらすじ

九十九ヶ丘高校二年生のユーキとアキラは、

チェーンのラーメン店「麺喰道楽」の明日の九月九日までのサービス券を発掘した。

二人は放課後や夜に用事があるため、

校則で禁止されている昼休みに体育館裏のフェンスから抜け出して、

完全犯罪を成し遂げようとするが。

 

登場人物

・結城:2-B。囲碁・将棋部。通称ユーキ。

・日下部顕:2-C。囲碁・将棋部。通称アキラ。

・生徒会長:2-A。文武両道、眉目秀麗のスーパーマン

 

ネタバレありの感想

ユーキとアキラが昼休みにラーメンを食べに外に行くという完全犯罪を目論むも、

生徒会長に見抜かれてしまうというストーリー。

最初読んでる時はどこらへんがミステリーなのか?と思ったけれど、

倒叙形式というのか犯人側の視点で描かれたものを

探偵役の生徒会長が見破るというもの。

高校生らしい馬鹿馬鹿しい話である程度推理の根拠も予想はしやすいかな、

金がないというのが推理の根拠ってのは私は分からなかったけれど。

会長がユーキのことを下の名前で呼ぶ理由は答えずに終わるというラスト。

 

・第二話 いつになったら入稿完了?

あらすじ

文芸部が文化祭に部誌「九十九文学」の特別号を刊行するため、

徹夜合宿を行うことになった。

合宿の徹夜明け、締め切りが迫る時間になってもイラストレーター担当のペンネーム

「アマリリス」、本名司麗美が来ないことから、

昼休みに「ジェイソン」本名楢沢芽以と「川原さとし」本名川原聡が、

マリリス先輩の家を訪ねることになった。

二人が体育館裏のフェンス穴から潜り抜けようと体育館裏の通路を訪れると、

ジェイソンがアマリリス先輩を見かけるが、

その人影は突然、L字型の角を折れて、足早に歩いて行ってしまった。

ジェイソンが曲がり角に辿り着き、向こう側を見た時にはその姿は既に無かった。

 

登場人物

・楢沢芽以:2-B。文芸部。ペンネームは「ジェイソン」。

・川原聡:二年生。文芸部兼占い研究会。ペンネームは「川原さとし」。

・鈴木一郎:三年生。文芸部。編集長。ペンネームは「二階堂七生子」。

・人見澪:一年生。文芸部。ペンネームは「三毛猫」で「ミケ」と呼ばれている。

・司麗美:三年生。文芸部。美術部は既に引退している。

     イラストレーター担当。ペンネームは「アマリリス」。

・司大樹:一年生。司麗美の弟。美術部。

・青龍亜嵐:二年生。文芸部部長。ペンネームは「青龍亜嵐」。

・北村愛梨:2-B。新聞部。

 

ネタバレありの感想

消失もので、体育館裏の通路から消えたアマリリス先輩の正体探し。

麗美の弟の大樹と思わせておいての、真相は麗美が男装をしていたというオチ。

真相自体は100ページでベリーショートの髪とあるのと、

112ページで司弟も美術部ということで、何となくは察しがついた。

物語としては若さとか熱さがあって好きなんだけれど、ミステリーとしては普通かな。

文芸部部長の青龍亜嵐だけは、なぜか本名が明かされないのは気になったけれど。

 

・第三話 賭博師は恋に舞う

あらすじ

2-Aで男子の間で行われている消しゴムポーカー、

その第二回消しゴムポーカー大会が九月の第二週の木曜日に開催されることになった。

ある生徒がクラスのマドンナ的存在茉莉に告白すると言いだしたことから、

大会の決勝戦で優勝した者が、茉莉に告白する『権利』を得ることになった。

芝は青木と組んでイカサマを企むが。

 

登場人物

・芝:2-A。女子に振られること十六連敗中。

・江田:2-A。

・マサ:2-A。賭場の実質的支配者。通称「元締めのマサ」。

・青木:2-A。芝の親友。

・羽根田:2-A。愛称は「タカ」。実家は中華料理屋「羽根田飯店」。

・土間:2-A。

・馬場:2-A。学年二位の秀才。

・今本:2-A。軽音部。

・古森:2-A。

茅ヶ崎:2-A。

・船井:2-A。

・剛田:2-A。

・上坂:2-A。

 

ネタバレありの感想

高校生らしい馬鹿馬鹿しくも熱い話で好きなんだけれど、

謎解きとしては私には難しすぎた。

消しゴムを使ったポーカーゲームなんだけど、

青木が匂いを利用してイカサマをしているのは予想できても、

どういう手段なのかとそれ以外は全く分からなかった。

それでもマサのキャラもあって話としては十分楽しめた。

 

・第四話 占いの館へおいで

あらすじ

斎藤茉莉は昼休みに友達のアリサとエミと三人で教室で昼食をとっていた。

いつもは和やかだが、今日はちょっと雰囲気が違っていて、

アリサのからかいがエミの気に障ったらしかった。

するとエミが適当な文章から色々推論を広げて、

アリサをビックリさせると言いだした。

なので、茉莉が昨日「占い研究会」の部室の前で聞いた

『星占いでも仕方がない。木曜日ならなおさらだ。』というフレーズを

三人で推論することになったが。

 

登場人物

・斎藤茉莉:2-A。占い研究会。

・アリサ:2-A。茉莉の友達。

・エミ:2-A。茉莉の友達。兄がいる。

・ナオ:2-A。斎藤茉莉の彼氏。ミステリーマニア。

 

ネタバレありの感想

「星占いでも仕方がない。木曜日ならなおさらだ」という言葉から推論していく話で、

最初は面白そうと思ったけれど、結論は全く納得できなかった。

「替え玉受験」が真相というのも納得できないけれど、

ナオがこれを分かったというのも含めてミステリーとしてはいまいちかな、

他愛もない学生時代の会話というは好きではあるんだけれど。

斎藤茉莉は二卵性の双子で兄がいて、兄は今朝キモくて囲碁・将棋部とあるので、

兄が第一話に登場したユーキ(結城)であることは予想できる。

一方で第三話で出てきた茉莉とマサが付き合っているというのは、

芝の思い込みなのかと疑問を残して第四話は終了。

 

・第五話 過去からの挑戦

あらすじ

九十九ヶ丘高校の体育教師で生徒指導担当の森山進は、十七年前の九月九日、

今日と同じ日付に不可解な状況下で天文台から姿を消した浅川千景を思い出していた。

 

登場人物

・森山進:九十九ヶ丘高校の体育教師で生徒指導担当。

     九十九ヶ丘高校を二〇〇五年度卒業。

     浅川千景に誘われて天文部に入部した。

・久保田:九十九ヶ丘高校の国語教師で現代文を教えている。

・三森:九十九ヶ丘高校の事務職員。

・浅川千景:十七年前屋上の天文台から姿を消した女子高生。天文部。

・宇内ユズル:天文部。森山進と浅川千景の後輩。

 

ネタバレありの感想

第一話からちょこちょこ名前だけ登場していた教師の森山進が

関わった十七年前の消失事件の謎と、

第一話から第四話までの事件の裏側で何が起きていたかが語られている。

 

十七年前の事件は一時間空けて二度起こっていたというのは分かるけど、

十一時五十分と十二時五十分の一時間の違いは無理がある気がするな。

あと十七年といっても高校生から三十四歳であれば分かるだろうと、

それに苗字は変わっても名前は変わってないわけだし。

事件の裏側で活躍していた第一話の生徒会長、第二話の文芸部部長の青龍亜嵐、

第三話の2-Aのマサ、第四話の斎藤茉莉の彼氏のナオは同一人物で、

第五話で明らかになる菅原正直である。

さらには第一話から第五話までは全部同じ日の

九月九日の事件であったことが明らかになる。

 

総評

高校を舞台にした青春日常系ミステリー。

なので人が死んだりもしないし、シリアスな感じは全くはない。

どころか基本的には良い意味で馬鹿馬鹿しい話が多く、

そこにミステリーを絡めている感じになっている。

ミステリーそのものとしては特筆するものがあるとは思わないけれど、

ライトな感じに仕上がっているので

若い読者でミステリー初心者向けとしてに最適かもしれない。

五篇収録されているし、話そのものは青春らしく馬鹿馬鹿しい話が多いので、

気軽に読んで楽しめる一冊になっている。