あなたが殺したのは誰
著者:まさきとしか出版社:小学館
ページ数:528ページ
読了日:2024年6月8日
満足度:★★★☆☆
まさきとしかさんの『あなたが殺したのは誰』。
三ツ矢&田所刑事(パスカル)シリーズの第三弾。
あらすじ
中野区のマンションの一室で若い女性が頭部を殴打され、
意識不明の状態で発見される。
被害者・永澤美衣紗はシングルマザーで、
生後十ヵ月の娘・しずくは連れ去られ行方不明に。
現場には「私は人殺しです。五十嵐善男」と書かれた便箋が残されていた。
田所岳斗は、再び三ツ矢秀平とペアを組んで捜査をすることになった。
一方、一九九三年の北海道鐘尻島、
「リンリン村」と呼ばれる巨大リゾート開発が予定されていたが、その開発が頓挫。
島の老舗料亭の息子・小寺陽介は将来に不安を感じていた。
主な登場人物
・三ツ矢秀平:警視庁捜査一課殺人犯捜査第五係。瞬間記憶能力を持つ。
陰では「パスカル」「ミッチー」と呼ばれている。
・田所岳斗:戸塚警察署の刑事。三十歳。
・切越:三ツ矢秀平の上司。警視庁捜査一課殺人犯捜査第五係の係長。
・長澤美衣紗:事件の被害者。23歳。
・長澤しずく:生後十ヶ月。
・長澤美也子:長澤美衣紗の母親。
・菊畑聖人:長澤美衣紗の元夫。母親が所長を務める税理士事務所勤務。
・五十嵐善男:八王子強盗殺人事件の被害者。
・田川好江:五十嵐善男の長女。
・光部治:ナカスギデリの配達員。37歳。
・山根孝介:クラブバリアスのホスト。源氏名は「月矢」。
鐘尻島(肩書は1993年のもの。)
・小寺陽介:高校二年生。
・小寺忠信:小寺陽介の父親。帰楽亭の若大将。
・小寺則子:小寺忠信の妻。
・常盤恭司:ビストロときわの経営者。
・常盤由香里:常盤恭司の妻。
・常盤結唯:常盤由香里の娘。小学四年生。
・殿川辰馬:小寺陽介の友達。高校二年生。
・殿川宏:殿川辰馬の父親。建築会社経営。
・石橋純世:アトリエカフェかもめのオーナー。
・熊見勇吉:高速船の船長。
・勝又誠:高速船の操縦士。
ネタバレなしの感想
三ツ矢秀平と田所岳斗のコンビが活躍するパスカルシリーズの三作目である本書は、
一部「彼を殺したのは誰」、二部「彼女を殺したのは誰」、
三部「あなたが殺したのは誰」の三部構成になっている。
また2020年代の現在パートと1990年代の過去パートが交互に描かれている。
現在パートは、マンションの一室で頭から血を流している女性が発見され、
部屋にいたはずの乳児が姿を消していた。
そして部屋には「私は人殺しです。五十嵐善男」と書かれてた紙が落ちていた。
五十嵐善男は二ヶ月前に起きた強盗殺人事件の被害者だった。
この事件をシリーズお馴染みの三ツ矢秀平と田所岳斗のコンビが捜査する。
一方で、過去パートは1993年の北海道鐘尻島が舞台で、
島では「リンリン村」と呼ばれる巨大リゾート開発が予定されていたが、
その開発が頓挫し、バブルに翻弄される離島の人々が描かれている。
当然過去と現在は関係しているわけだが、
当然ながらその関連性は、容易には分からないようになっている。
犯人捜しのミステリー要素ももちろんもあるけれど、
それよりも事件の背景で、なぜ事件が起きたのかに主眼が置かれている。
過去パートはバブル崩壊からはじまるので全体的に陰鬱としていて、
特に常盤由香里視点の話は、親子関係や夫婦関係などが関わってきて、
読んでいてかなり暗く落ち込んでくるものになっている。
前二作と比べると小説としての完成度は確実に上がっていて、
内容的に読んで爽快感やカタルシスを得ることはできるものではないけれど、
小説としては決して悪くはなかった。
なおシリーズものではあるけれど、本作から読んでも特段支障はない。
ネタバレありの感想
バブル崩壊後の北海道鐘尻島での話は、
常盤由香里の壊れっぷりや嫌味っぷりも含めて話としては読みごたえがあった。
もっとも今となっては日本全体も鐘尻島と似たようなもので、
身につまされる部分もあって、読んでいて若干落ち込んでしまった。
三ツ矢秀平と田所岳斗のコンビはシリーズ三作目なので良くも悪くも安定している。
現在パートの事件現場に残された便箋の五十嵐善男に関しては、
展開上仕方ないとはいえ、最後の最後に登場して小寺則子殺害事件に関わるので、
ミステリー小説としてはがっかり。
ついでに言うと、熊見勇吉が常盤恭司を殺したのもちょっと無理やり感が強かった。
小説冒頭から読者の興味を引く要素の五十嵐と、
事件の元凶ともいうべき熊見がしっかりと描かれていないのは小説としてはいまいち。
また長澤美衣紗が常盤結唯の実の娘ではなかったというのは必要だったのか。
常盤恭司と小寺則子は駆け落ちではなかった、
小寺陽介が見た常盤結唯と大学生の件は強姦ではなかった
結唯が友達に恭司の離婚届のエピソードを話した時に勝又次男が聞いていたなど
偶然と勘違いが物語のテーマになっているのは分かるけれど、
最後の最後まで勘違いが必要だったのか。
もっとも実の娘じゃないから、余計読後感は悪くなるので、
それが狙いなら作者の術中に見事に嵌っている。
とは言え、前二作のツッコミどころ満載と比べると、満足感は高いものになっている。
ラストからすると岳斗が警視庁に異動してシリーズは続く感じになっている。