MENU

【五十嵐律人】『六法推理』についての解説と感想

本記事では五十嵐律人さんの小説『六法推理』を紹介します。

無法律シリーズの第一作目です。

六法推理

六法推理

著者:五十嵐律人

出版社:KADOKAWA

ページ数:384ページ

読了日:2024年8月2日

満足度:★★★☆☆

 

五十嵐律人さんの『六法推理』。

無法律シリーズの第一弾。

五篇収録の連作短編集になっている。

 

・六法推理

あらすじ

霞山大学法学部には自主ゼミと呼ばれる課外活動団体があり、

無料法律相談所、通称「無法律」もその一つである。

「無法律」には現在、法学部四年生の古城行成が一人だけ所属している。

そんな「無法律」に、経済学部三年生の戸賀夏倫が住んでいるアパートの怪奇現象に

悩んでおり、その正体を探ってほしいと言ってくる。

 

ネタバレありの感想

表題作。

アパートで嫌がらせをしている犯人と影井未衣が身ごもっていた子供の父親が誰か?

という話。

補聴器や入れ歯、シーシャなど伏線から犯人や真相に辿り着けるようになっていて、

しっかりとしたロジックがあるので読んでいて納得できるものになっている。

戸賀夏倫が探偵役で真相を解き明かして終わりと思いきや、

ラストでは法律から古城行成も乳児の父親を斎藤正と、謎を解き明かしている。

短編ながら多重推理と伏線の使い方も含めて非常に面白かった。

 

・情報刺青

あらすじ

顔写真をアップロードすると、似ている芸能人をランキング形式で表示するという

フェイスサーチと呼ばれるアプリが流行していて、

そのアプリがアップデートで似ているAV女優が表示される機能が追加された。

それが原因でリベンジポルノの被害を受けたという相談を受ける。

 

ネタバレありの感想

ユーチューブとリベンジポルノ、そしてアプリと今時のテーマが描かれている。

暮葉のキャラクターもあり、そこまで悲壮感はないけれど、結構重い話になっている。

暮葉の自作自演による炎上商法と思いきや、

実はリベンジポルノの犯人捜しが目的。

ミステリーとしても、最後に明らかになる暮葉の心情も良かった。

 

・安楽椅子弁護

あらすじ

去年の終焉祭の一ヶ月前に備品を保管している倉庫が火事に遭い、

古城の友人・三船昇は顔に火傷の後遺症が残った。

そして古城と三船は、終焉祭の実行委員会を訴えて一年以上闘い続けてきたが、

ようやく大詰めを迎えつつあった。

 

ネタバレありの感想

昨年の終焉祭前に起きた倉庫の火事の真相。

法律的には本人訴訟をうまく活用して裁判に勝ったのと、

物語的には「無法律」が古城一人になったのが語られている。

リーガル・ミステリーという意味ではもっとも法律が関わってくる話。

古城と三船昇は「卒業事変」では良い関係を気づいているのもあって、

読後感は悪くはない。

 

・親子不知

あらすじ

戸賀が古城に内緒で企画した出張法律相談に、

自身の名前を改名したいという学生からの相談があった。

その学生・鈴木椰子実がバイトをする職場で相談を受け、アドバイスするが、

その相談の数日後、鈴木は自宅アパートの外階段で転落し死亡してしまった。

 

ネタバレありの感想

鈴木椰子実がアパートの外階段で転落死した真相で、古城の兄・錬が初登場している。

堀井千恵の息子の結婚相手が鈴木椰子実というのは分かりやすいし、

ある程度真相は想像しやすかった。

もっとも鈴木が即死だったとしても、また千恵の心の安寧を考えても、

救急車呼んだ方が良いとしか思えなかった。

 

・卒業事変

あらすじ

筆記用具を忘れた古城が期末試験から戻ると、

「無法律」のゼミ室には、顧問の崎島陽介と、

以前は「無法律」に在籍していた法学部三年生の矢野綾芽がいた。

矢野から、四年生が卒業すれば「無法律」は消滅し、

ゼミ室で新しい団体を立ち上げるつもりなので

早めに引き払う準備をするように言われる。

そんな中、戸賀にカンニング疑惑がかけられていることを古城は暮葉から聞く。

 

ネタバレありの感想

戸賀にかけられたカンニング疑惑の真相。

古城がかつて関わった法律相談も関わってきて、さらには暮葉も再登場する。

短編ながらちょっと複雑で、

矢野真弓による不正行為の告発と、

それを利用して戸賀が暮葉を守ろうとしたというもの。

主人公の古城が四年生なのでこれで終わりと思わせておいて、

院生になり戸賀と矢野綾芽「無法律」も続くというラストになっている。

 

登場人物

・古城行成:霞山大学法学部四年生。無料法律相談所、通称「無法律」の代表。

・戸加夏倫:霞山大学経済学部三年生。愛子ハイツ102号室。

 

「六法推理」に登場

・影井未衣:故人。亡くなった当時は霞山大学経済学部の二年生で、

      古城行成の一つ上の学年。

・斎藤正:愛子ハイツの管理人で愛子ハイツ101号室の住人。

・雛野怜奈:愛子ハイツ103号室の住人。霞山大学の院生。

・谷隆之:愛子ハイツ201号室の住人。霞山大学の院生。

・丹治信人:愛子ハイツ202号室の住人。霞山大学の院生。

・有坂潤:愛子ハイツ203号室の住人。霞山大学の院生。

 

「情報刺青」に登場

・小暮葉菜:霞山大学経済学部三年生。通称「暮葉」。

      ユーチューバーで「エコノミスト」というチャンネルで活動している。

      「卒業事変」にも登場。

・キヨ:霞山大学経済学部三年生。「エコノミスト」のメンバー。

・サタケ:霞山大学経済学部四年生。「エコノミスト」のメンバー。

・セゴドン:霞山大学経済学部四年生。「エコノミスト」のメンバー。

・柴崎諒志:通称「リョウ」。読者モデル。

 

「安楽椅子弁護」に登場

・三船昇:霞山大学理学部数学科四年生。古城行成とは高校が一緒だった。

     昨年の終焉祭の実行委員だった。「卒業事変」にも登場。

・足立千佳:霞山大学文学部四年生。昨年の終焉祭の実行委員だった。

・清崎壮:昨年の終焉祭の実行委員長。

・相馬:「レジスト法律事務所」の代表弁護士。

 

「親子不知」に登場

・鈴木椰子実:霞山大学看護学科三年生。

・堀井千恵:株式会社ビーファニチャー代表取締役

・堀井彰:霞山大学医学部四年生。

・古城錬:古城行成の兄。地検特捜部の検察官。「卒業事変」にも登場。

 

「卒業事変」に登場

・崎島陽介:「無法律」の顧問。霞山大学准教授。

・矢野綾芽:霞山大学法学部三年生。昨年度までは「無法律」に所属していた。

・矢野真弓:矢野綾芽の姉。霞山大学経済学部の山根航大教授の助手。

・山根航大:霞山大学経済学部教授。経済学史の担当。

 

総評

法曹一家に育った法律マシーン・古城行成が自称助手の戸賀夏倫とコンビを組んで

大学の自主サークル「無法律」に持ち込まれた事件を解決する『六法推理』。

青春リーガル・ミステリーと謳われているだけあって、

法律も絡んでくるミステリーになっている。

とは言え主人公は弁護士でもなく学生であるし、

法律の知識が無くても読んでいればしっかりと説明されているので、

特に肩肘を張る必要もなく気軽に読むことができる。

 

法律の知識をもとにロジック中心に考える古城と、

経済学部生なので法律には素人ながらも洞察力や推理力に優れた戸賀のコンビは、

明確に探偵役と助手役に別れているわけではなく、

二人とも探偵役になることもある多重解決ミステリーになっている。

またテーマになるものもリベンジポルノ流出、毒親への対処といった

今時の問題になっているし、問題解決を通して主人公の古城の成長が描かれている。

 

難点としては地味に重い話や読後感が良くない話が多いので、

そこを気にしないのであれば青春ミステリーやリーガルミステリーとしては、

十分楽しめるものになってる。