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【東野圭吾】『ナミヤ雑貨店の奇蹟』についての解説と感想

本記事では東野圭吾さんの小説『ナミヤ雑貨店の奇蹟』を紹介します。

ナミヤ雑貨店の奇蹟

ナミヤ雑貨店の奇蹟

著者:東野圭吾

出版社:KADOKAWA

ページ数:416ページ

読了日:2024年7月29日

満足度:★★★★★

 

東野圭吾さんの『ナミヤ雑貨店の奇蹟』。

山田涼介さん主演で映画化されている。

 

・第一章 回答は牛乳箱に

あらすじ

悪事を働き、逃走中の敦也と翔太と幸平は、逃走に使った盗難車が故障で動かなくり、

下見に来た時に見つけたあばら家で夜を明かすことにした。

しかい、人が住まないあばら家なのにもかかわらず、

真夜中に一通の手紙が投げ込まれた。

それは自分の夢と恋人とのどちらを選ぶべきか、

という内容の相談が書かれた手紙であった。

このあばら家は、昔、あらゆる悩みの相談に乗るという店主がいる

「ナミヤ雑貨店」という店だったのだ。

敦也は放っておこうと言うが、

翔太と幸平はこんな機会でないと人の相談に乗れないと返事を書く事になったが。

 

登場人物

・敦也:三人のリーダー的存在。

・翔太:小柄で、顔に少年っぽさが残っている。

・幸平:大きな身体をしている。

・月のウサギ:ナミヤ雑貨店への相談者。あるスポーツのオリンピック代表候補。

 

ネタバレありの感想

正直、第一章だけを読んだらかなり酷くて、敦也たちはあまりにも子どもぽいのと、

敦也たちが最初は不思議な状況を把握できなかったということもあるとはいえ、

『月のウサギ』との手紙のやりとりもかなり酷く、都合良い展開になっている。

 

・第二章 夜更けにハーモニカを

あらすじ

音楽の世界でプロとして活躍したいと願う松岡克郎は、このまま夢を追いかけるか、

それとも諦めて実家の魚屋を継ぐべきかを悩んでいた。

克郎は「ナミヤ雑貨店」に相談の手紙を投げ入れるが。

 

登場人物

・松岡克郎:ミュージシャンを目指している。

      『魚屋アーティスト』の名前でナミヤ雑貨店へ手紙を出すことに。

・松岡健夫:松岡克郎の父親。『魚松』という魚屋を経営している。

・松岡加奈子:松岡克郎の母親。

・松岡栄美子:松岡克郎の妹。

・セリ:丸光園に入園してきた少女。

タツ:セリの妹。

 

ネタバレありの感想

第二章は相談者の松岡克郎の視点から物語が語られることになるけれど、

ここからかなり面白くなってくる。

克郎視点であることと、第一章により手紙の書き手がナミヤ雑貨店の店主ではなく、

敦也たちであることが分かっているので、手紙の内容が罵倒する内容であっても、

ある程度は受け入れられることができるようになっている。

そして最後の手紙も自然に受け入れることができるし、

敦也たちは乱暴な面がありつつも、優しい面があることが分かるようになっている。

 

・第三章 シビックで朝まで

あらすじ

貴之は父親の雄治が経営する「ナミヤ雑貨店」を訪れ、

店を畳んで同居をしようと持ち掛ける。

しかし雄治は悩み相談に答える事を生きがいにしており、

その話に聞く耳を持とうとしなかった。

だが突然、雄治が潮時だと言って店を畳んで貴之と同居すると言い出すが。

 

登場人物

・浪矢貴之:事務機器の会社勤務。。

・浪矢雄治:浪矢貴之の父親。『ナミヤ雑貨店』の店主。

・浪矢芙美子:浪矢貴之の妻。

・浪矢頼子:浪矢貴之の姉。

・浪矢駿吾:浪矢貴之の孫。

 

ネタバレありの感想

ナミヤ雑貨店の店主・浪矢雄治の息子の浪矢貴之視点で描かれていて、

相談に乗っていた雄治に未来からお礼の手紙が送られてくる話。

この話に関しては敦也たちはほとんど関係していなくて、

ほとんどがナミヤ雑貨店の雄治の話になっていて、

相談に乗っていたお礼・感謝の手紙なので、良い話になっている。

192ページの何も書かれてない便箋は最後の伏線になっていて、

敦也たちに関係している。

「回答は牛乳箱に」の「月のウサギ」や、

「夜更けにハーモニカを」のセリも登場している。

 

・第四章 黙禱はビートルズ

あらすじ

和久浩介は父の会社の借金のため、一家で夜逃げすることになった。

夜逃げすることに納得できなかった浩介は、

「ナミヤ雑貨店」に相談の手紙を投げ入れるが。

 

登場人物

・和久浩介:中学二年生。

      『ポール・レノン』の名前でナミヤ雑貨店へ手紙を出すことに。

・和久貞行:和久浩介の父親。会社の経営者。

・和久紀美子:和久浩介の母親。

・原口恵理子:『Bar Fab4』のママ。

・武藤晴美:オフィス・リトルドッグ代表取締役

 

ネタバレありの感想

再びナミヤ雑貨店の相談者視点で、浪矢雄治に真剣な悩みを初めてした人物の話。

和久一家は夜逃げに際して、一時的に感情のすれ違いがあり、

父親と母親が心中するけれど、そのことを知った浩介は両親の心中を察し、

雄治にお礼の手紙を書くという話。

和久浩介が『丸光園』に住むことになるのは、

状況的には若干不自然な気がするけれど、『丸光園』を出すためには仕方ないのかな。

 

・第五章 空の上から祈りを

あらすじ

夜明けまであと一時間となった時、新たな手紙が「ナミヤ雑貨店」に投函される。

迷える子犬と名乗る十九歳の女性から、OLを辞めて水商売に専念しようと思うが、

どのようにすれば穏便な形で辞められるかというものだった。

最初は安易に金を稼ごうとする女性を罵倒するかのような内容の返事を書いていた

三人だったが、何回か手紙のやり取りをした後で、迷える子犬が

詳しい事情を告げると三人の考えは一変することになる。

 

登場人物

・敦也:三人のリーダー的存在。失業中。

・翔太:家電量販店をクビになり、コンビニのバイトをしている。

・幸平:自動車修理工場で働いていたが、倒産したため、無職。

・武藤春美:昼はOL、夜はホステスをしている。

      『迷える子犬』の名前でナミヤ雑貨店へ手紙を出すことに。

・田村秀代:武藤晴美の大叔母。

・北沢静子:田村家の斜め向かいの家に住む女性。体育大学の四年生。

      武藤晴美の三歳上。

・皆月良和:丸光園の館長。

・皆月暁子:故人。皆月良和の姉。丸光園を作った女性で、初代館長。

・藤川博:プロの木彫職人。武藤晴美が丸光園で一緒だった四つ上の男性。

・外島:株式会社リトルドッグの専務。

・苅谷:丸光園の副館長。

 

ネタバレありの感想

『迷える子犬』が丸光園の出身者ということが分かったので、

彼女を救おうとする敦也たち、それが結果として丸光園を救うという話。

未来から過去へアドバイスをするというのは、この手の話ではありがちで、

それが敦也たちに所縁のある丸光園を救うというのも王道。

ナミヤ雑貨店の浪矢雄治と丸光園の関係であったり、

以前の話で悩み相談した人物たちも登場することで綺麗にまとまっている。

シビックで朝まで」にも登場した何も書かれていない便箋への

浪矢雄治の答えがラストに書かれている。

 

総評

過去に投函された手紙が現在(過去から見ると未来に届く)という

ファンタジーストーリー。

過去に何度か読んだこともあり再読になるが、第一章だけ読むとかなり稚拙で、

登場人物たちの言動も軽く、ご都合主義的な展開でちょっと驚いた。

しかし第二章からは語り手が変わることもあり、物語としても非常に面白かった。

 

本書の特徴は物語の構成が非常に巧みなことで、

一篇一篇だけならただの良い話で終わるものを、繋がりを持たせることによって、

特別なものにしている。

殺人事件が起きないこと、基本的には良い人しか登場しない小説なので、

物足りなさを感じるかもしれないけど、

個人的には最近だとこの路線の東野さんの方が好み。

(と言っても単行本が出たのが2012年発売なので既に10年以上前の作品だけれど。)

心温まる本が読みたい方にはお勧めの一冊。