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【今村昌弘】『魔眼の匣の殺人』についての解説と感想

本記事では今村昌弘さんの小説『魔眼の匣の殺人』を紹介します。

屍人荘の殺人シリーズの二作目である。

魔眼の匣の殺人

魔眼の匣の殺人

著者:今村昌弘

出版社:東京創元社

ページ数:432ページ

読了日:2023年4月9日

 

今村昌弘さんの『魔眼の匣の殺人』。

このミステリーがすごい!2020年度版」3位、

週刊文春ミステリーベスト10」3位、「2020本格ミステリ・ベスト10」2位である。

 

あらすじ

葉村譲と剣崎比留子は『月刊アトランティス』の記事から

W県の班目機関の実験施設に向かう。

予言者が住むという『魔眼の匣』を訪れた葉村達は

「あと二日のうちに、この地で四人が死ぬ」と告げられる。

直後に施設と外界を結ぶ唯一の橋が燃えて脱出不可能に。

翌日、実際に一人が死に予言通りになるが。

 

登場人物

・葉村譲:神紅大学経済学部一回生。ミステリ愛好会会長。

・剣崎比留子:神紅大学文学部二回生。ミステリ愛好会会員。

・十色真理絵:高校二年生。未来を見通す絵を描く予知能力者。

・茎沢忍:高校一年生。十色の後輩、オカルト好き。

・王寺貴士:容姿端麗で物腰柔らかな会社員。

・朱鷺野秋子:真っ赤な出で立ちの元好見の住人。

・師々田厳雄:気難しい社会学教授。

・師々田純:厳雄の息子。小学生。

・臼井頼太:『月刊アトランティス』記者。

・神服奉子:サキミに仕える好見の住人。

・サキミ:未来を見通す予言者。

明智恭介:元ミステリ愛好会会長。

(2ページから引用)

 

ネタバレなしの感想

公式にも書かれてるので書くけれど、

今作は予言によってクローズドサークルが完成する。

前作のアレと比較すると若干弱いけれど、

オカルト的な要素もあるので楽しめた。

本格推理もののネタバレなし感想は本当に難しい。

 

 

ネタバレありの感想

前作は事件そのものはシンプルだったのと比べると、

今作は交換殺人に予言や呪いなどかなり詰め込んでいる。

かなり複雑になっている印象がある。

 

今作は予言によってクローズドサークルが生まれる。

が、かなり無理がある展開に思えるかな。

好見の住人が橋を焼くのがあまりにご都合主義展開にしか思えない。

神服の言ってることを参考にするなら、

好見の住人は数日前から好見から離れていて、

神服が家に帰る時間まで待って橋に火をつけたらしい。

葉村たちが好見の家を訪問した時はどこにいたのか?

葉村たちと王寺、そして朱鷺野たちが出会った時に

立ち入り禁止のフェンスについての描写があることから道は一つしかないんだろう。

そうすると朱鷺野たちより後から住人たちが来たのであれば

葉村たちが真雁にいたことは推測できるよね。

もっとも真雁への道は葉村たちには見つけられなかったので、

住人たちは他の人間が真雁には行かないと思ったのか?

しかも、神服が真雁にいた時に橋を焼いてるのも見てもかなり杜撰だと思う。

 

ちなみに剣崎の主張の村人たちが手を出せない状況で死んでもらう必要があるってのも

かなり苦しいと思う。

二日間で四人死ぬというだけで、

どういう形で死ぬか分からない以上リスクだけじゃないかと。

実際、臼井は地震によって石垣の下敷きになったわけで、

もしかしたら電話が繋がって橋がそのままなら助かった可能性はあるでしょう。

もちろん臼井が即死してた可能性もあるけど。

事故で四人が死んだ場合、

橋を焼いたことや電話の件はかなり問題になるんじゃないかな。

住人たちのサキミの予言への認識が十色勤と一緒なのか

どうかは分からないので何とも言えないけど、

ちょっとご都合主義的だよなと。

 

十色真理絵殺しに関して。

葉村がクローズドサークルでは互いを監視するのはストレスフルで

無理だとメタな発言をするのでメタなことを書かせてもらうと、

十色真理絵だけ一人違う場所にいる方が事件は起きやすいとしか思えなかったな。

相互監視で事件を起こすなら可能性として高いのは毒じゃないかと思うけど、

これは直前にサキミが毒殺未遂事件が起こってるからみんな警戒するだろうからな。

真理絵からスケッチブックを取り上げて部屋に籠ってもらうってのは

どういう意味や効果があったのか。

論理的なはずの師々田がこれを主張するのもよくわからない。

216ページで師々田は逆説的に考えてと言ってたけど、

それ言い出したらなんでもアリになっちゃうような。

 

犯人の王寺。

バイクに乗らないのでわからないけど、

財布をバイクに置きっぱなしにするものなんだろうか?

また王寺の犯行動機も色々論理の飛躍がありすぎてちょっと納得できなかった。

もっともネズミにしろ赤い花にしろ十色殺害にしろ

王寺にしかできなかったのは理解できたが。

 

本物のサキミは真理絵のことをどう見てたんだろうか?

十色勤のノートによれば隔世遺伝のことが書かれてるわけで、

サキミだってこのことは知ってそうだし、

真理絵に起きた能力のことを全く知らなかったのかどうか。

祖母がサキミじゃない前提で読んでる時はいいけど、

祖母がサキミだと分かった上で読み返すとちょっと違和感はあるかな。

 

あと班目機関はサキミを真雁に置いて行けと言ったのはなぜなんだろうか?

その割には超能力研究自体には拘ってたらしいし。

また十色勤は本名で生活してて班目機関の解体を知ってたのなら、

(これは十色真理絵の名前と偽のサキミの話から事実だろう)

岡町を真雁に迎えに行かなかった理由が謎すぎる。

岡町がサキミに負けたというのを認めたくないのはわかるとして、

十色勤がただただ酷すぎるとしか思えない。

「女性のことを勉強すべきでしょう」と若き岡町に言われてたけど、

これでは女性とか関係ないよな、十色勤。

 

前作だと明智、今作だと真理絵と魅力的なキャラが死んでいくんだよな。

色々文句ばっか書いたけれど、

何だかんだで物語に引き込まれて楽しめたのは間違いないです。