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【東野圭吾】『容疑者Xの献身』についての解説と感想

本記事では東野圭吾さんの小説『容疑者Xの献身』を紹介します。
ガリレオシリーズの三作目である。

容疑者Xの献身

容疑者Xの献身

著者:東野圭吾

出版社:文藝春秋

ページ数:394ページ

読了日:2023年10月5日

 

東野圭吾さんの『容疑者Xの献身』。

ガリレオシリーズ第三弾、そしてシリーズ初の長編

直木賞受賞作品。

本格ミステリ・ベスト10 2006年版』、『このミステリーがすごい!2006版』、

『2005「週刊文春」ミステリベスト10』においてそれぞれ1位を獲得した。

福山雅治さん主演で映画化されている。

 

あらすじ

小さな弁当屋『べんてん亭』で働く花岡靖子は娘の美里とアパートで暮らしていた。

ある日、靖子の元夫である富樫慎二が

二人の居場所を突き止めてアパートにやってきた。

富樫にお金を渡して帰ってもらおうとするも、

靖子と美里は揉み合いの末に富樫を殺してしまう。

呆然とする二人の前に現れたのは隣の部屋の住人である石神であった。

石神は花岡母娘を守るために知恵と力を総動員して、

花岡母娘に災いが訪れるのを阻止しようとする。

 

三月十日に旧江戸川の河川敷で顔が潰され、指紋が焼かれた男性の遺体が発見される。

警察は捜査の結果、男性を富樫と断定し、花岡靖子に目をつける。

しかし、花岡母娘には裏が取りにくいアリバイがあり、捜査は苦戦することに。

警視庁捜査一課の刑事の草薙が友人の湯川のもとを訪れると、

湯川と石神は友人ということが判明する。

湯川は石神のもとを訪れるが、そこで石神が事件へ関与してる疑いをもつことになる。

 

登場人物

・湯川学:帝都大学物理学准教授。理工学部物理学科第十三研究室所属。

     学生時代にバドミントン部に所属していた。

・草薙俊平:警視庁捜査一課の刑事。

      帝都大社会学部出身。大学時代はバドミントン部に所属。

・間宮:警視庁捜査一課の刑事。階級は警部。草薙たちの班長

・岸谷:警視庁捜査一課の刑事。草薙と同じ班に所属する後輩。

・石神哲哉:私立高校の数学教師。高校では柔道部の顧問をしている。

      帝都大理工学部数学科出身。湯川とは大学の同期で友人。

      綽名はダルマ。

・花岡靖子:『べんてん亭』勤務。

      以前は錦糸町のクラブ『まりあん』でホステスをしていた。

・花岡美里:花岡靖子の娘。中学生。バドミントン部。

・富樫慎二:事件の被害者。無職。花岡靖子の元夫。

・米沢:『べんてん亭』の経営者。

・米沢小代子:米沢の妻。

・工藤邦明:印刷会社経営者。花岡靖子が赤坂で働いていた頃からの馴染み客。

・常盤:湯川の下で学んでいる大学院生。

山辺曜子:死体のそばにあった盗難自転車の持ち主。

・杉村園子:『まりあん』のママ。

森岡:石神が勤務する高校の二年三組の生徒。

・缶男:隅田川のホームレス。大量の空き缶を潰していることから石神が

   『缶男』と綽名をつけた。

・技師:隅田川のホームレス。

    工業系の雑誌を読んでいたことから石神は『技師』と呼んでいる。

 

ネタバレなしの感想

ガリレオシリーズ初の長編にして、直木賞受賞作。

東野圭吾さんの小説の中では『容疑者Xの献身』か『白夜行』が

人気のイメージがあるかな。

以前、発売時に一度読んでいて、その時はそこまで面白かった印象は無かったけど、

今回読んでみて結構面白いとは思った。

ガリレオシリーズの特徴である物理要素とかは無いので、

そこが以前読んだ時は面白くなかった印象になったのかなと思う。

物理要素とかオカルト要素を期待しないのであれば十分楽しめるかな。

 

 

ネタバレありの感想

基本的には愚痴やイチャモンになるので読みたくない方は

ブラウザバックしてください。

 

wikipediaによる本格かどうかの論争はちょっとだけわかる部分もある。

(私には本格が何かは分からないけど )

ミステリーとしては結構疑問があるというか、若干アンフェアな気はするかな。

 

疑問点として
・草薙が花岡靖子を疑う根拠がよくわからない
147ページで草薙は靖子と富樫は会う約束をしていたと推理を披露するけど、
そもそもこの約束をどうやってしたのか?が全くないんだよな。
三月五日に富樫は『まりあん』を訪れて靖子のことを色々訊いているのを
草薙たちも把握している。
249ページの杉村園子によれば『べんてん亭』で
靖子が働いていることを喋ったとのこと。
193ページで草薙はハッキリと富樫は殺される直前に靖子を探してたと言うんだから、
そうすると三月五日以後の『べんてん亭』周辺ぐらい聞き込みするんじゃないかな、
であればファミリーレストランの話が出てくるかなと。
もっともここで目撃証言が無かったとしても、
それは偶然なので石神の天才性は薄れてしまうし、
ミステリー小説としては厳しいものになるかな。
仮に目撃証言があれば靖子が嘘をついてたことになるので、
53ページの矛盾点をつかれた途端に破綻が生じ、
ついにはあっさりと真実を吐露してしまうだろうという石神の予想通りになるのかな。

 

顔や指紋を潰されてるので

被害者に近い人物として靖子が疑われるのも分かるといえば分かるけど、

いまいち納得できないかな。

まあ、靖子以外に怪しい人物が一切いないんだと言われたらそれまでだけど、
富樫は会社の金を横領するような人物なわけだしな。
これはこれで偏見かな。
 
これ厳密には3月9日に富樫が靖子に会ったことを警察が知っても
事件そのものは3月10日だからどういう意味を持つのかは難しいけど、
小説的には意味合いが変わるからな。
だからこそちょっと都合良すぎに感じるんだよな。
 
・石神の天才性と論理性について
370ページで湯川は『技師』殺しは、
一真相が破られそうになったら自らが身代わりになって自首する、という
石神の決意を揺るぎないものにするものだと推理を披露してる。
 
一方で387ページで石神が色々理由を語り
運良く隠せても花岡母娘の心が安らぐことはないと考えていたことがわかる。
 
美里の自殺未遂の動機は正確には分からないけど、
石神の目論見通りには進んでないからな。
靖子は事件後に工藤と食事するぐらいだからあまり気にならないけど、
普通アクシデントでも人殺したら何かしら感じるだろうし、
石神が身代わりで罪を認めた場合も同様。
石神の天才性や論理性の中には美里の心情をどう考えてたのかが謎かな。

石神は花岡母娘に安らぎを与えたかったらしいけど、

そんなのは元から無理なんじゃないかな。

 
・花岡靖子に一切感情移入できないこと
これは何回読んでも変わらないことで、
石神が花岡母娘に対して特別な感情を持っているのは分かるけど、
私としては靖子はあまりに魅力を感じない。
感じないどころか、
娘の美里が自殺未遂してる時点でどうしようもない母親に思えるんだよな。
 
・湯川と石神の関係性
理学部は三年生から専攻が分かれて、
進路が分かれたことによってあまり顔を合わさなくなったということだけど、
そうすると最大で二年ぐらいしか濃い人間関係は無かったということになる。
しかも石神視点だと湯川とは特に友達付き合いをしたわけではなかったとある。
(顔を合せた時には必ずといっていいほど言葉を交わしたらしいが)
これが友人関係か分からないのと湯川って結構思い入れ強いよなと。
あとこれだけの関係性で石神のことをよくわかるよなと思う。