【真保裕一】『ホワイトアウト』についての解説と感想

本記事では真保裕一さんの小説『ホワイトアウト』を紹介します。

ホワイトアウト

ホワイトアウト

著者:真保裕一

出版社:新潮社

ページ数:637ページ

読了日:2024年10月31日

満足度:★★★★☆

 

真保裕一さんの『ホワイトアウト』。

このミステリーがすごい!1996年版」1位。

第十七回吉川英治文学新人賞受賞作品。

 

あらすじ

十一月のある日、奥遠和発電所の運転員・富樫輝男は、

同僚であり親友の吉岡和志と共に、猛吹雪のなかを遭難者を救助することになった。

しかし、ホワイトアウトに見舞われて救助要請が大幅に遅れてしまったことから、

遭難者と共に残っていた吉岡和志を亡くしてしまう。

そして二月、吉岡の婚約者であった平川千晶が、奥遠和発電所を訪れる。

だが迎えの職員はテロリストによって射殺され、

千晶は人質になってしまい、奥遠和発電所に続く唯一のトンネルは爆破されてしまう。

偶然テロリストから逃れられた富樫は、人質となっている奥遠和発電所の職員、

そして人質にされた平川千晶を救出すべく行動を開始する。

 

登場人物

・富樫輝男:奥遠和発電所の運転員。

・平川千晶:会社員。

      婚約者だった吉岡和志が生前勤めていた奥遠和発電所を訪れる。

・吉岡和志:故人。平川千晶の婚約者。奥遠和発電所の運転員だった。

・石坂昌弘:奥遠和発電所の運転長。

・岩崎吉光:電気課の課長。

・村瀬勇治:事業部の保安係長。リフト監視係の責任者。

 

『赤い月』のメンバー

・宇津木弘貴:メンバーの中では一番の年長者で、頭髪が薄い男。部隊長。

・戸塚:眉のかすれた男。

・笠原:長身の男。

・須山:髪を結んだ男。

・金子:筋肉質の男。

・皆川正道:角刈りの男。

・坂下:小太りの男。

 

・奥田勲:長見署の副署長。

・福井一正:長見署の警邏課の係長。警部。

・中西均:長見署の交通課。警部補。

     次男が奥遠和のスキー場でリフトの保守点検のアルバイトをしている。

・望月:新潟県警本部の刑事部長。

・塚越:新潟県警本部の警備部の公安担当管理官。警視。

・吉兼:新潟県警本部の特殊班。警部。

・藤巻:警察庁の刑事。

 

・木内:長見電力所の所長。

・佐々木友之:平川千晶の上司。

 

ネタバレなしの感想

日本最大の貯水量を誇る奥遠和ダムが銃器を装備したテロリストたちに襲撃され、

テロリストたちは街とダムを結ぶ唯一のトンネル・シルバーラインを爆破し、

豪雪に埋まったダムと発電所は完全な孤立状態になってしまう。

テロリストたちは人質とダムの放流による大洪水を交渉材料にして、

政府に対し莫大な金を要求するが、そのテロリストたちと

ただ一人酷寒の中で対峙する発電所の所員・富樫輝男の活躍を描いているのが

本書『ホワイトアウト』である。

 

孤立状態のダムと発電所を舞台にしていることから、

発売当時は雪山版『ダイ・ハード』ともいわれた作品であるが、

ダイ・ハード』の主人公・ジョン・マクレーンが刑事であるのに対して、

本書の主人公である富樫輝男はただの発電所の所員。

しかし主人公の富樫輝男は、かつて親友を自分のミスで亡くした過去があり、

強い自責の念を抱えていて、偶然人質になった亡き親友の婚約者と同僚を

救うという強い動機があるので、

独りでテロリストに立ち向かうという行動にも納得できるものになっている。

また富樫は発電所の運転員ということで

発電所やダムの構造、周辺の地理関係に詳しい点を活かして対処していることから、

ある程度はリアリティあるものになっている。

 

このミステリーがすごい!1996年版」1位ではあるが、

ミステリー要素も多少あるが、基本的にはアクション小説や冒険小説になっていて、

圧倒的なスピード感と物語の冒頭から終幕まで緊迫感が続く作品になっている。

冒険小説を読みたい方にはおすすめの一冊になっている。

 

 

ネタバレありの感想

主人公の富樫輝男が親友・吉岡和志の死に責任を感じていて、

それが吉岡の婚約者・平川千晶や同僚たちを救出するというのが強い動機に

なっているのがかなり丁寧に描かれているのが特徴になっている。

また富樫の方が発電所やダムについて熟知しているので、

それを利用しながらテロリストと戦ったり、

放水管の中から脱出するなど読者の想像もしない方法を使うのは良かった。

 

一方で笠原(小柴拓也)に関しては正直消化不良で、

早い段階で笠原が「十二月御殿場」の語り手であるのは予想できるけれど、

特に何かが語られるわけでもなく笠原のラストになって断片的に語られるので、

あまり納得はできなかった。

 

宇津木弘貴の裏切りにも関しても同様でかなり唐突な感が強かった。

(一応の伏線やテロリストたちの要求が不可解というのは

刑事たちが推測してはいるけれど。)

もっともテロリストたちの分裂というのがなければ、

流石に富樫でも一致結束したテロリストたちを倒せるとは思えないので、

仕方ないといえば仕方ないのかもしれない。

 

笠原と宇津木についてもう少し丁寧に描いてあるともっと良かったけれど、

あくまで富樫を主人公とした冒険小説であると考えれば決して悪くはなかった。

実際最後の最後に物語冒頭同様に「ホワイトアウト」に遭い、

今度は平川千晶をしっかりと助けるというラストは素晴らしかった。

 

専門用語もありダムの構造が文章を読んでいるだけでは分かりにくいのと、

主人公の富樫があまりにも肉体的に超人すぎるのは気になったけれど、

それを除けば十分すぎるほど楽しむことができた。