本記事では米澤穂信さんの小説『いまさら翼といわれても』を紹介します。
古典部シリーズの六作目である。

いまさら翼といわれても
著者:米澤穂信
出版社:KADOKAWA
ページ数:384ページ
読了日:2024年6月22日
満足度:★★★☆☆
米澤穂信さんの『いまさら翼といわれても』。
古典部シリーズの第六弾であり、六編収録の連作短編集になっている。
・箱の中の欠落
あらすじ
任期満了に伴う神山高校の生徒会長選挙の投票が行われたが、
開票時に票が水増しされていたことが発覚した。
総務委員会副委員長として選挙の開票作業に立会い人として参加していた福部里志は、
自分で推理するが行き詰まり、折木奉太郎に相談する。
ネタバレありの感想
ミステリー要素が強い作品。
奉太郎の姉のクラスが伏線になっていて、
どのクラスのものでもない投票箱が使われているというのが事件の真相だけど、
かなり分かりやすかった。
・鏡には映らない
あらすじ
ある日、伊原摩耶花は中学で同級生だった池平と出会い、卒業制作の話になった。
鏑矢中学では卒業制作として大きな鏡のフレームを作ることになり、
各班が分担されたパーツを作り、
最後にパーツを組み合わせて完成というものであった。
他の班がパーツを完成させていく中、奉太郎の班は、
デザイン画を無視した明らかに手を抜いたパーツを提出し、
多くの生徒の恨みを買ってしまっていた。
伊原は、このことを疑問に思い調べようとする。
ネタバレありの感想
伊原奉太郎の中学三年生の時の話で、伊原摩耶花視点で描かれていて、
探偵役も伊原というかなり珍しい話。
奉太郎の推理方法と違って、伊原は足を使って直接人に話を聞いたり、
鏑矢中学に出向いたりというスタイルになっている。
「箱の中の欠落」との比較もあって、違った楽しみ方ができる。
こちらは伊原の目を通しての奉太郎が描かれていて、
古典部での奉太郎を伊原が見ているからこその話になっている。
・連峰は晴れているか
あらすじ
ある日の放課後、奉太郎は鏑木中学校の英語教師・小木正清が
「ヘリが好きなんだ」と言っていたことを思い出す。
しかし、奉太郎は、小木がその一件以外に同じことを言っていた記憶がなかった。
里志から小木が生涯で三回、雷を食らっている話を聞いた奉太郎は、
ある嫌な予感がし、その予感を確かめるために、千反田と一緒に図書館へと向かう。
ネタバレありの感想
奉太郎がどういう人間であるかが描かれていて、
「無神経というか、人の気も知らないでって感じか。」(145ページ)というのが
奉太郎の考え方で、
「いまさら翼といわれても」とも関連している感じになっている。
・わたしたちの伝説の一冊
あらすじ
漫画研究会は、去年の文化祭以降変わってしまっていた。
漫画を描いてみたい派と読むだけ派に分かれていて、
読むだけ派の事実上のリーダーになっていた河内亜矢子先輩が、
一足早く退部したことにより状況はさらに悪化していた。
そんなある日、伊原は描いてみたい派である浅沼から、
部費から費用を出して神山高校漫画研究会名義で
「漫研」をテーマにした同人誌を描きたいから手伝って欲しいと頼まれる。
ネタバレありの感想
途中までは、読むだけ派と描いてみたい派の争いに関して
感情移入することができなかったけれど、
最後の伊原と河内亜矢子の話し合いのところで評価がガラッと変わった。
伊原は退部を選択するわけだけど、むしろ前向きな選択としての退部であるので
青春小説としての意味合いが強い。
ミステリーとしては奉太郎の読書感想文が絡んで来てたりと、
凝ってはいるけれど、そこまで特筆すべきものはないかな。
・長い休日
あらすじ
奉太郎は、散歩がてら本を読むために荒楠神社へと向かう。
すると、偶然十文字かほと会い「えるきてる」と言われ、
詰所内の十文字の部屋に連れて行かれる。
そして、千反田と一緒に神社の清掃を手伝うことになった奉太郎は、
そこで千反田になぜ奉太郎のが
「やらなくていいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に」
となったのか理由を聞かれる。
奉太郎は、きっかけとなった小学校の時の出来事を話し始める。
ネタバレありの感想
奉太郎の小学生時代の話で、省エネ主義者になったきっかけが描かれている。
正直、ミステリーとしては弱いけれど、話としては面白かった。
田中が係を奉太郎に押し付けていたのもだけれど、
その後の担任の表情から奉太郎が感じ取ったもの、
嘘をつかれたというよりも、
善意につけ込まれるというより現実的なことを知った少年の話。
中学生で「あんたはこれから、長い休日に入るのね。」という折木供恵は、
普通ではない。
・いまさら翼といわれても
あらすじ
夏休みの初日、伊原から千反田の行きそうなところを知らないか?という電話が
掛かってくる。
市が主催する合唱祭でソロパートを歌うはずだった千反田が、
出番が近づいても会場に現われないというのだ。
会場に向かった奉太郎は、僅かな手がかりから居場所と来ない理由を推理していく。
ネタバレありの感想
表題作。
千反田が家の跡取りの話が無くなって、自由に生きろと言われた話。
心にもないことは言いにくいというのは、分かるし、
特に若い頃はよりその傾向が強いかなと思うので、
やはり青春小説の趣が強いかな。
伏線はしっかりしているとは思うけれど、ミステリーとしては普通。
登場人物
・折木奉太郎:神山高校二年A組。「やらなくてもいいことなら、やらない。
やらなければいけないことなら手短に」の省エネ主義者。
鏑矢中学校出身。古典部員。
・千反田える:神山高校二年H組。古典部部長。印地中学校出身。
・福部里志:神山高校一年。奉太郎の旧友。手芸部兼古典部員。総務委員会。
鏑矢中学校出身。総務委員会では副委員長。
・伊原摩耶花:神山高校二年C組。古典部と図書委員会。漫画研究会。
鏑矢中学校出身。
奉太郎とは小学生以来の付き合いで、九年間クラスが一緒だった。
・折木供恵:折木奉太郎の姉。大学生。
箱の中の欠落に登場
・小幡春人:神山高校二年D組。
・常光清一郎:神山高校二年E組。
鏡には映らない
・池平:鏑矢中学出身で、折木奉太郎たちと同じ三年五組だった。
・細島:鏑矢中学出身で、折木奉太郎たちと同じ三年五組の学級委員だった。
・鷹栖亜美:鏑矢中学出身で、三年二組だった。卒業制作のデザインを担当した。
・芝野めぐみ:神山高校二年E組。
鏑矢中学出身で、折木奉太郎たちと同じ三年五組だった。
・鳥羽麻美:神山高校二年生。写真部。鏑矢中学出身。
連峰は晴れているか
・小木:鏑矢中学の英語教師。
・小木高広:神山高校二年D組。
わたしたちの伝説の一冊
・花島:折木奉太郎が鏑矢中学一年生の時の国語の担任の先生。
・河内亜矢子:神山高校三年生。元漫画研究会。
読むだけ派の事実上のリーダーだった。
・浅沼:神山高校二年生。漫画研究会。描いてみたい派。
・湯浅:神山高校三年生。漫画研究会部長。
・羽仁真紀:神山高校二年C組。漫画研究会。読むだけ派。
・篠原:神山高校二年生。漫画研究会。
河内亜矢子が退部した後の読むだけ派のリーダー。
長い休日に登場
・十文字かほ:神山高校二年生。荒楠神社の宮司の娘。
いまさら翼といわれても
・段林:神山混声合唱団の仕切り役。
総評
古典部シリーズ第六弾で、
二〇二四年時点では古典部シリーズの最新作ということになっている。
古典部のメンバーのそれぞれの内面を描いているのが特徴になっている。
ミステリーとしては、正直あまり印象に強く残るような作品は少なく、
私の印象としては、青春小説の面が強く出ていると思う。
おそらく本作から読む方はあまりいないとは思うけれど、
本作から読むのはお薦めしない。
完全に古典部シリーズを知っている方向けの作品になっている。
