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【米澤穂信】『本と鍵の季節』についての解説と感想

本記事では米澤穂信さんの小説『本と鍵の季節』を紹介します。

図書委員シリーズの一作目にあたる作品です。

本と鍵の季節

本と鍵の季節

著者:米澤穂信

出版社:集英社

ページ数:304ページ(単行本)

読了日:2022年2月3日

 

米澤穂信さんの『本と鍵の季節』。

本作は連作短編小説になっている。

2022年11月に続編である『栞と嘘の季節』が発売されている。

高校生の図書委員の男子二人組が謎解きに挑む。

通称(図書委員シリーズ)である。

 

 

・913

 あらすじ

図書委員の堀川次郎と松倉詩門の二人。

図書室で委員の仕事をしていると、図書委員を引退した三年の浦上先輩が入ってきた。

二人は浦上先輩から死んだお爺さんの金庫の番号を当ててくれるように頼まれる。

浦上先輩の口車に乗せられた二人は「開かずの金庫」に立ち向かうことになった。

死んだおじいさんが言った『大人になったらわかる』という言葉から

番号にあたりをつけるが、松倉が不自然な点に疑問を持つ。

 

感想

本のタイトルの『本と鍵の季節』に一番ふさわしい話。

本の分類番号が鍵になっているという図書委員という設定が活かされている。

というか最初の話なので、

謎解きが先にあって図書委員設定があとからできたのかもしれないけど。

この話だけだと探偵役は松倉なのかと思わせるんだけどね。

 

・ロックオンロッカー

あらすじ

夏の始め、松倉の行きつけの床屋が店を閉めて困っていることから、

友人を紹介すると割引されるという割引券を持っていた

堀川と松倉で美容院に行くことに。

堀川が店長の接客態度や何気ない一言に疑問を持つが。

 

感想

日常的なミステリーで、かなり軽い話になっている。

作中序盤にあるように、他の話のように巻き込まれていくわけではなく、

完全な傍観者的立場の話。

些細な一言からの謎解きで、

こう書いたら失礼だけど、謎そのものも別にたいした話でもないけど、

それで話を成立させる、読ませるのが凄い。

→追記

作中で美容院での堀川と松倉の会話に瀬野さんが登場する。

瀬野さんは『栞と嘘の季節』に登場する女性。

 

・金曜に彼は何をしたのか

あらすじ

テスト直前の金曜日に職員室の窓が割られる事件が発生。

テストを盗もうとしたと疑いをかけられた植田昇。

弟の登が図書委員の先輩である堀川と松倉に、

昇の無実の証拠を探してほしいと頼む。

頼みを聞き入れた二人は植田の家で、無実の証拠を探すことになったが。

 

感想

学生らしい話かな。

謎そのものももちろん面白いんだけど、

注目は終盤の堀川と松倉のやり取りじゃないかな。

植田登がなんで堀川に助けを求めたのか、

これが松倉の推理通りなら本書の紹介にある通りビターすぎる。

そして松倉がなんでこの件に協力したのかを推理する堀川。

→作中に出てくる横瀬と植田登は『栞と嘘の季節』にも登場。

 

・ない本

あらすじ

同じ高校の三年生が自殺をした。

自殺をした生徒のクラスメイトの長谷川が図書室を訪れ、

堀川と松倉にある本を探してくれと頼む。

自殺をした三年生が図書室から借りていた最後の本。

その理由は自殺をした生徒が、

その本に遺書を書いた便箋を挟んでいたのではないかということ。

 

感想

これが一番ビターすぎる。

本を探すのは図書委員らしいんだけど、

そもそもその理由が自殺した生徒が最後に読んでた本だからね。

本探しそのものは楽しく読めるし、理詰め理詰めで進むのも面白い。

しかし、遺書の捏造の話から一転暗く重くなっていく。

若さゆえのストレートさなのかもしれないけど、読んでてもきついもんがあるよね。

 

・昔話を聞かせておくれよ

あらすじ

冬が近いある日、図書室で委員会仕事をする二人。

松倉が昔話をしようと言い出す。

松倉の昔話から松倉の父親が残したお宝を探すことになるが。

 

感想

 堀川が性善説で、松倉が性悪説というのが松倉によって語られている。

この話は読んでて明らかにツッコミどころがあるとしか思わなかったんだよね。

米澤さんの作品て論理的で理詰めで矛盾とかツッコミどころがないのが

特徴のはずなのに、これはそうでもないなーって。

それは駐車場の料金だよね。

これが気になって気になって仕方なかった。

で、これが見事に次の話でやられるわけですよ。

 

・友よ知るなかれ

あらすじ

土曜日の朝、堀川が駅前の図書館へ。

目的はあることを調べること。

 

感想

「昔話を聞かせておくれよ」の続編。

というか「友よ知るなかれ」とセットの話。

これで駐車場の料金の謎を解き明かしている。

これ完全にやられたよね。

 

総評

総評

最初は松倉が探偵役、堀川が助手役なのかなと思ったけど、

必ずしもそうでもなかった。

作中にあるように松倉が性悪説的見方、堀川が性善説的見方なのか、

要はアプローチの仕方の違いですかね。

 

本書の紹介にもあったけど、確かに読後にはほろ苦さはある。

でもあくまで物語的なものだから、それはそれで良い。

ミステリーとしてはやっぱうまいです。

謎解きをして、でもそれだけじゃなくてそっちも伏線だったの?みたいなのがあって、

とにかく読んでて面白い。

 

登場人物

・堀川次郎:高校二年生。図書委員。次男。

・松倉詩門:高校二年生。図書委員。

・浦上麻里:高校三年生。

・近藤:美容院のスタッフ。

・前野:美容師。

・船下:美容院の店長。

・植田登:高校一年生。図書委員。

・植田昇:高校二年生。登の兄。

横瀬:先生。生徒指導部。

・香田:故人。三年生。一週間前に自殺した生徒。

・長谷川:三年生。

・松倉礼門:松倉詩門の弟。