本記事では越谷オサムさんの小説『階段途中のビッグ・ノイズ』を紹介します。
階段途中のビッグ・ノイズ
出版社:幻冬舎
ページ数:341ページ
読了日:2025年7月16日
満足度:★★★★☆
越谷オサムさんの『階段途中のビッグ・ノイズ』。
漫画化されている。
あらすじ
県立大宮本田高校の軽音楽部の部員が大麻所持で逮捕され退学処分となったため、
軽音楽部にも廃部宣告がだされてしまう。
部員である二年生の神山啓人が部の存続を諦めて、
「部段」の片づけをしていると、 幽霊部員の九十九伸太郎が現われる。
廃部の話を聞いた伸太郎が校長に直談判した結果、
部の存続を認めさせることに成功するが、条件が課されることになった。
その条件とは、半年以内に何らかの成果をあげることなどであった。
啓人と伸太郎は文化祭の
「田高マニア」でライブを成功させることを目標に活動を再開する。
登場人物
・神山敬人:県立大宮本田高校二年六組。軽音楽部。ボーカル兼サイド・ギター。
・九十九伸太郎:県立大宮本田高校二年六組。
軽音楽部だったが、一年時は幽霊部員だった。ベース担当。
・嶋本勇作:県立大宮本田高校二年生。神山敬人たちに誘われて軽音楽部に入部する。
リード・ギター担当。
・岡崎徹:県立大宮本田高校二年生。吹奏楽部だったが、
顧問の林原のやり方に嫌気がさし退部し、軽音楽部に入部する。
・大野亜季:県立大宮本田高校二年六組。水泳部。
・長谷川里美:県立大宮本田高校二年生。吹奏楽部。
・加藤:県立大宮本田高校の国語の教師。
神山敬人たちにお願いされて、軽音楽部の顧問になる。
・森淑美:県立大宮本田高校の体育教師。水泳部の顧問。
・校長:県立大宮本田高校の校長。つきたての餅のような顔立ちをしている。
・神山剛:神山敬人の兄。大学生。県立大宮本田高校の軽音楽部のOB。
ネタバレなしの感想
本書『階段途中のビッグ・ノイズ』は、
上級生の部員たちの不祥事により廃部寸前の軽音楽部を舞台に、
文化祭「田高マニア」に挑む姿が描かれている。
県立大宮本田高校はダンス・ミュージックが隆盛を極めていて、
洋楽ロックを中心とする軽音楽部の人気も停滞中なのに部員の不祥事で廃部寸前。
この状況で唯一の部員・神山敬人と幽霊部員の九十九伸太郎の二人が、
新しい部員を集めたり、国語教師の加藤に顧問をお願いすることになる。
本格的な活動がはじまっても部員同士の衝突があり、
騒音問題や夏場の暑さ、さらには生徒を押さえつけようとする
体育教師の森淑美の存在もあり一筋縄ではいかない。
そして高校生ということで恋愛模様も描かれている。
語り手も誰か一人ではなく、軽音楽部の四人の部員達になっているので
それぞれの心情を読むことができる青春群像劇としても楽しめるようになっている。
今回再読で、以前読んだ時も面白かった記憶はあったんだけれど、
今回も十分すぎるぐらい楽しむことができた。
正直驚くぐらいの王道的な青春小説で、癖のようなものは全くない。
ただ意外に多くの要素を抑えた青春小説というのはあるようで、
ないんじゃないかと思うので個人的には非常に評価が高い小説。
私は正直音楽には詳しくないので作中に登場する曲やバンドは
何となく聞いたことがあるぐらいだけれど、それでも十分楽しめることができた。
(今の時代は気になった曲はYouTubeで聞くこともできるので、
聞きながら小説を読んでいた)
あと文章も癖がなく、かなり読みやすいので、
読書経験があまりない若い方にもおすすめの一冊。
ネタバレありの感想
軽音楽部の四人のキャラクターは、
気弱な主人公・神山敬人、猪突猛進で我が強い・九十九伸太郎、
演奏に関しては天才的で女性にもモテる・嶋本勇作、
おっとりしている岡崎徹。
そして大人側も、とらえどころがない加藤先生、
生徒たちを抑えようとする・森淑美、理解力がある校長と
分かりやすいキャラクターたちなので、
読者としては非常に読みやすいものになっていた。
ストーリー面に関しても、
当然ながら全てが順調にいくわけではなくて、
騒音問題や夏場の暑さなど軽音楽部らしい問題が描かれていたけれど、
音楽に詳しくなくても理解できるのも良い。
嶋本勇作が周りと衝突しながらも成長していったり、
体育教師の森淑美がルールに厳しいのにもしっかりと背景があったり、
そして最後には森も成長(変化)していたりとベタではあるけれど、
このベタさこそが本書の持ち味。
「田高マニア」の本番前に嶋本勇作が怪我しながらもスケッチブック芸をしたり、
勇作の代わりに加藤先生がギターを披露するのは物語のハイライトに相応しい。
ついでに言うと、
加藤先生が音楽をやっていたことはしっかりと伏線が張られているのも良かった。
「田高マニア」に限らず、
軽音楽部の影響で洋楽が流れたりと周囲に影響を与えているのも良い。
また基本的には良い人揃いの登場人物たちの中で、
沼尻のような足を引っ張るようなキャラクターもいるので、
ある程度リアリティーがあるのも悪くなかった。