【今野敏】『隠蔽捜査』についての解説と感想

本記事では今野敏さんの小説『隠蔽捜査』を紹介します。

隠蔽捜査シリーズの一作目です。

隠蔽捜査

隠蔽捜査

著者:今野敏

出版社:新潮社

ページ数:409ページ

読了日:2023年4月25日

 

今野敏さんの『隠蔽捜査』。

吉川英治文学新人賞受賞作である。

警察官僚の竜崎伸也の活躍を描いている、隠蔽捜査シリーズの一作目。

テレビ朝日とTBSでテレビドラマ化された。

 

あらすじ

警察庁長官官房でマスコミ対策を担っている竜崎伸也。

竜崎は妻の冴子や同じキャリアの伊丹俊太郎からも変人扱いされている。

 

綾瀬署管内で起きた殺人事件に続いて、さいたま市内でも殺人事件が発生する。

事件の被害者は1980年代に足立区で起きた少年犯罪の実行犯だった。

さらに大森署管内でも殺人事件が起きて、

事件の被害者は

過去にホームレス殺人という重大な少年犯罪で逮捕された経歴があった。

竜崎は事件の犯行日からある規則性を見つけるが。

 

登場人物

・竜崎伸也:警察庁長官官房総務課課長。東大卒。四十六歳。              

・竜崎冴子:伸也の妻。四十七歳。

・竜崎美紀:伸也の娘。上智大学生。就職活動中。

・竜崎邦彦:伸也の息子。浪人生。

 

・伊丹俊太郎:警視庁の刑事部長。竜崎の小学校時代の同級生で警察でも同期。

       私大卒。

・谷岡裕也:警察庁長官官房広報室長兼課長補佐。東大卒。四期後輩。警視正

・牛島陽介:警察庁長官官房参事官。警視監。竜崎の五期上。

坂上栄太郎:警察庁刑事局捜査第一課課長。京大卒。竜崎の二期上。

・阿久根伸篤:警察庁刑事局長。警視監。鹿児島県出身。

・戸高義信:大森署の刑事課。巡査部長。三十八歳。

 

・福本多吉:東日新聞の社会部部長。

・保志野俊一:足立区で起きた殺人事件の被害者。旭仁会の構成員。

       1980年代の終わりに足立区で起きた事件の実行犯の一人。

・水戸信介:さいたま市内で起きた殺人事件の被害者。運送会社勤務。

      1980年代に足立区で起きた事件の共犯者の一人。

宇部隆夫:平和島公園で起きた殺人事件の被害者。大手流通センターの職員。

      過去にホームレスへの傷害と殺人事件を起こしている。

 

感想

主人公の竜崎伸也は警察庁の長官官房の総務課長。

現場で捜査に当たる仕事ではないので、

必然的に警察内部の話がメインになっている。

一応連続殺人事件は起きるけど、謎みたいなものは期待しない方がいい。

ただしこの連続殺人事件も物語的にはかなり重要な要素にはなっていて、

警察の対処の仕方について竜崎が関与していくという話。

 

もう一つは竜崎の家族関係で、

息子の邦彦に関わることで竜崎が父親としてどういう対処をするかの話。

上記の警察の話と子供の話が関連して竜崎という人間を描いている。

 

基本的な話の構想としては面白そうなんだけれど、

実際に読んでみると正直そこまでの面白さは無かったかなと。

理由としては細かい部分はネタバレありの感想に書くけれど、

主人公の竜崎のキャラクター。

これが私には合わなかったので評価としては辛くなってしまう。

本の評価は竜崎というキャラクターを好きになれるかどうかが大きい気がします。

 

 

ネタバレありの感想

個人的にどうしても気になったのが長ったらしい説明。

例えば竜崎の息子の邦彦がヘロインを使用してたことを知った後に、

竜崎自身がどういう処分をされるのか?みたいなことを考える時に、

警察法何条とか国家公務員法何条みたいなことを

持ち出して細かく説明し始めるんですけど、

正直そんなことを細かく書く必要あるんだろうか?と読んでて疑問だった。

しかも、懲戒免職にはならないだろうけど、

職員たちから冷たい目を向けられ続けるだろうっていう至って普通の結論。

これを7ページぐらいかけて書いてあると。

 

上記に関連してるけど、

学歴であるとかキャリアやマスコミについて竜崎が色々語るのも、

語りすぎることによって竜崎というキャラクターの魅力になるのではなく、

どちらかというと薄っぺらさみたいなものを感じてしまった。

読者側が想像する余地が無くなってしまっている。

 

で、肝心の話なんだけれど、これも好意的に見れば色んな要素が詰め込まれている。

一方で否定的に見るとかなり散漫な印象になってしまう。

少年犯罪の加害者だった人が連続で殺されるという事件が起きるわけだけど、

竜崎が現場の刑事ではないのもあって、そこまで詳しくは描かれていない。

かと言って警察上層部の人間関係が濃く描かれているかといえば、

そこまで描かれている印象はない。

 

連続殺人事件の犯人は現役の警官で事件に使った拳銃は

警察のものを使用したみたいだけど、

これだとすぐ発覚しないのが不自然なんじゃないかと。

現実のニュースでもたまにあるけど

拳銃と弾丸はかなり厳重に保管されているみたいだから。

 

竜崎と幼なじみの伊丹は対照的なキャラクターとして描かれているのはいいんだけど、

何でもかんでも幼なじみ設定で押し通そうとするのはどうなのかと。

一緒にいたらおかしい場所でも幼なじみだから問題ないってのは

いまいち納得できなかった。

 

一応オチはしっかりしているし、読後感は悪くはないのが救いかな。