本記事では荻原浩さんの小説『押入れのちよ』を紹介します。
押入れのちよ
著者:荻原浩
出版社:新潮社
ページ数:377ページ
読了日:2023年3月10日
荻原浩さんの『押入れのちよ』。
表題作である「押入れのちよ」を含む九作からなる短編集。
・お母様のロシアのスープ
あらすじ
双子のターニャとソーニャは母親と一緒に中国で暮らしている。
ある日家に車がやってきて、
母親からベッドの下にもぐって耳をふさいでいるよう言われるが。
登場人物
ターニャ:双子の姉。
ソーニャ:双子の妹。
お母さま:ターニャとソーニャの母親。ロシア生まれ。
マァさん:中国人。
感想
まず最初の話ということで本作がどういう傾向の話なのかわからないこともあって、
かなり驚いた。
途中まではメルヘンぽい感じなのかと思ったら全然違う。
私が思い出したのはベトちゃんドクちゃんで、
枯葉剤の影響とか言われていて、本作でも枯葉薬と出てくる。
そして、何より最後のスープの中の肉ってソビエト兵のでしょう?
ゾッとしますね。
・コール
あらすじ
岳、雄二、美雪は大学の同じサークルの仲間。
超常研究会・通称「ミステリーサークルズ」。
岳と雄二は美雪のことを好きになってしまい、
どちらが先に美雪に告白するかをポーカーで決めようとするが。
登場人物
・美雪:短大からの編入生。
・雄二:大学卒業後は商社勤務。
・岳:大学卒業後は広告代理店の営業マン。
感想
これは巻末の解説を参照にするなら「優霊物語」。
途中まではどういう物語かよくわからなかったけれど、
途中で話が分かってからは非常に良かった。
後悔を抱えたまま死んでしまった人の物語、かなりせつない話。
・押入れのちよ
あらすじ
失業中の恵太。
不動産屋に家賃三万六千円のお得なマンションを紹介されて引っ越しをするが、
引っ越し先の部屋におかっぱ頭の女の子があらわれて・・・
登場人物
・恵太:二十八歳。失業中。
・永嶋純子:恵太の彼女。潔癖症。
・川上ちよ:十四歳。
感想
これは最高。
とにかくちよがかわいい。
生きてた時のちよは不遇なんだけれど、それを感じさせないのが良い。
それに対して怒れという恵太も良い。
オチも最高で、
隣の部屋にも幽霊がいてそっちは胡散臭い霊媒師に除霊されるっていう。
しかし、ちよは押入れに隠れてて助かったというね。
とにかく最高です。
・老猫
あらすじ
叔父の秀雄が亡くなり、家を相続した川島道夫。
相続した家に引っ越すことになった川島一家。
家には多くの油絵と一匹の猫がいて。
登場人物
・川島道夫:印刷会社勤務。
・川島典子:道夫の妻。
・川島美紀:道夫の娘。十二歳。中学生。
・川島秀雄:故人。道夫の叔父。画家。
感想
これはかなり怖い話。
私の場合動物全般が苦手というのもあるけれど、
やっぱり猫苦手だと再認識しましたねw
最後のオチも救いがないですからね、
道夫が猫を倒して家族を救うのではなく、
道夫も猫に魅入られていくという。
・殺意のレシピ
あらすじ
安田文彦と久仁子の夫婦。
文彦は離婚の話に首を縦に振らない久仁子を殺そうとするが。
登場人物
安田文彦:釣りが趣味。
安田久仁子:山歩きが趣味。
感想
タイトルは物騒だけれど、笑える話。
お互いがお互いを殺そうとするんだけれど、
コメディータッチで描写されてるし、オチもオチだから気楽に読める。
・介護の鬼
あらすじ
三か月前に倒れて、寝たきりとなってしまった舅の善三。
今は完全にぼけてしまっている。
苑子は善三の介護をしているのだが。
登場人物
・苑子:四十歳。
・剛士:節子の夫。
・善三:苑子の舅。
・節子:故人。節子の姑。
・矢島:善三の柔道仲間。
感想
これもコメディータッチ。
ブラックユーモアっていうのかな。
・予期せぬ訪問者
あらすじ
愛人のサトミを殺してしまった平岩隆三。
サトミのマンションで死体をどうするか考えていると、玄関のチャイムが鳴って。
登場人物
・平岩隆三:不動産経営者。
・塚本里見:隆三の愛人。
感想
ブラックユーモア。
清掃会社の人間を部屋の中に入れてからのやりとりも笑えるけれど、
それが実は空き巣というのも良かった。
さらにオチが最高。
・木下闇
あらすじ
十五年前、かくれんぼをしてる最中に行方不明になった妹の弥生。
姉の五月は妹が行方不明になった三上家を再び訪れる。
三上家に泊まった五月が見たものとは。
登場人物
・山崎五月:設計事務所勤務。
・山崎弥生:五月の妹。十五年前に行方不明に。
・三上雄一:三上家の長男。
感想
ブラックユーモア三連発のあとだからか余計にゾッとした話。
何かファンタジー的な話かと思ったら、まったく違ったのもあるけれど。
これ一作だけだとどうかはわからないけれど、
流れで読んだらかなり印象には残る。
・しんちゃんの自転車
あらすじ
午後十一時すぎ、窓を叩く小さな音がする。
窓を開けたら、そこにはしんちゃんがいて。
登場人物
・しんちゃん:小学三年生
感想
不思議な話。
回想形式で語られる子ども時代の話。
しんちゃんの良さだったり臭いとか妙なリアルさとか、せつなさもある。
本のラストには相応しいんじゃないかな。
総評
個人的にはかなりのお気に入りの作品。
まず良いのはバラエティに富んでること。
「コール」や「しんちゃんの自転車」のような優霊物から
「殺意のレシピ」「介護の鬼」「予期せぬ訪問者」のようなブラックユーモアなど
幅広く楽しめるのが良い。
また不思議な話だけではなく「木下闇」もあるのもいい。
特にお気に入りは表題作の「押入れのちよ」かな。
これはちよもかわいいし、主人公の恵太も良い人で文句のつけようがない。
「老猫」は好きではないけれど、間違いなく記憶に残る話。
読んでて寒気を感じるというかね。
色々な話を読みたい方にはおすすめの一冊。