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【伊坂幸太郎】『アイネクライネナハトムジーク』についての解説と感想

本記事では伊坂幸太郎さんの小説『アイネクライネナハトムジーク』を紹介します。

アイネクライネナハトムジーク

アイネクライネナハトムジーク

著者:伊坂幸太郎

出版社:幻冬舎

ページ数:341ページ

読了日:2023年5月20日

 

伊坂幸太郎さんの『アイネクライネナハトムジーク』。

六篇の連作短編集になっている。

三浦春馬さん主演で映画化されている。

漫画化もされている。

 

あとがきによると「アイネクライネ」はミュージシャンの斉藤和義さんから

「恋愛をテーマにしたアルバムを作るので、

『出会い』にあたる曲の歌詞を書いてくれないか」との依頼をもらったのがはじまり。

伊坂さんが「作詞はできないので小説を書くことならば」ということで

「アイネクライネ」が出来上がり、

これから斉藤和義さんの『ベリーベリーストロング~アイネクライネ』という曲が

出来上がる。

「ライトヘビー」は『ベリーベリーストロング~アイネクライネ』の

初回限定版の付録用に書き下ろされた作品。

他の作品は上記二作から膨らんできた作品になっている。

 

・アイネクライネ

あらすじ

ネット経由で集めたデータを先輩の藤間が作業中に机を蹴飛ばしてしまったため、

データが飛んでしまった。

幸いにもバックアップデータから九割方のデータは復旧できるが、

責任を取るということで、課長から街頭アンケートを命じられた佐藤だったが。

 

ネタバレありの感想

斉藤さんの曲を知ってるので基本そのままではあるんだけれど、

小説の方は佐藤と大学の同級生だった織田夫婦の話があるので、

世界観は広がっている。

この織田夫婦絡みの話は新鮮さがあって楽しめたけれど、

それ以外は当たり前だけど曲の歌詞そのままになっている。

ラストで佐藤と彼女が再会して終わるという形になっている。

 

・ライトヘビー

あらすじ

美容師の美奈子は客である板橋香澄から、

弟に美奈子の携帯電話の番号を教えていいかと聞かれる。

遠慮したはずが、ある日の夜香澄の弟から携帯に電話があり。

 

ネタバレありの感想

ネタバレありなので書くけれど「アイネクライネ」に登場したボクサーの話。

ミステリーというか読んでいて違和感を感じる部分が、

オチを読んだ瞬間にそういうことかと納得する感じも含めてかなり好きな話。

 

ドクメンタ

あらすじ

妻と娘に出て行かれた藤間は五年ぶりの運転免許更新の手続きで、

十年前の免許更新の時に初めて会った女性と今回も会えるかと想像していたが。

 

ネタバレありの感想

「アイネクライネ」で奥さんと娘に出て行かれた藤間さんの話。

藤間のその後を免許更新のたびに出会う女性との話を絡めて書いているけど、

こういう話を生み出せるのが凄いと素直に感心してしまう。

藤間と女性の会話とか女性の雰囲気とか含めて良い話。

 

・ルックスライク

あらすじ

高校生の久留米和人は

同じクラスの織田美緒に相談されて、

駐輪シールを横取りしてる犯人を捜すために駐輪場に向かう。

 

一方、ファミレスでバイトをする笹塚朱美は

ある出来事がきっかけで知り合った邦彦と付き合うことになるが。

 

ネタバレありの感想

これは完全にやられた。

叙述トリックで、

(ミステリーではないのでトリックという表現が正しいかはわからないけど)

「高校生」と「男女の話」が時間軸が違っているというオチ。

完全に不意をつかれたかな。

 

・メイクアップ

あらすじ

化粧品会社で働く窪田結衣は

高校時代にいじめられてた経験がある。

新商品のプロモーションをする際に、

広告会社の社員として窪田をいじめてた小久保亜希と再会することになったが。

 

ネタバレありの感想

「ライトヘビー」に出てきた山田さんは登場するとはいえ、

他の話との関係性はほぼない。

ラストで結衣の夫はどっちか失敗してほしいと言うけれど、

私は性格悪いので両方失敗してほしいんだよな。

 

・ナハトムジー

あらすじ

美奈子は観覧席に座り、

スタジオ中央で大きな体をすぼめている夫の小野学を眺めていた。

小野が十九年前に世界チャンピオンになったシーンの映像が流れ、

美奈子は十九年前の美奈子の高校時代の友人、織田由美の夫の話を思い出す。

 

ネタバレありの感想

十九年前(アイネクライネの直後)、九年前、現在の時間軸で

ボクサーの小野を中心に物語が描かれている。

結局小野がオーエンに負けるわけだけど、読後感は素晴らしい。

耳が悪い少年がラウンドボーイで登場して、ボードを真っ二つに割るのと、

番組の司会者が久留米和人たちの同級生ていう、

ここらへんの使い方がうまいのかな。

 

主な登場人物

・佐藤:マーケットリサーチ会社勤務。

   「アイネクライネ」「ドクメンタ」「ナハトムジーク」に登場。

・織田一真:佐藤の大学時代の友人。居酒屋の店長。「アイネクライネ」

・織田由美:一真の妻。佐藤の大学時代の友人。「アイネクライネ」

・織田美緒:一真と由美の長女。

     「アイネクライネ」「ルックスライク」「ナハトムジーク」に登場。

・藤間:マーケットリサーチ会社勤務。佐藤の先輩社員。

   「アイネクライネ」「ドクメンタ

・美奈子:美容師。由美とは高校時代の同級生で地元の友人。

    「ライトヘビー」「ナハトムジーク」に登場。

・板橋香澄:美奈子が勤務する美容院の客。

     「ライトヘビー」「ナハトムジーク」に登場する。

小野学:香澄の弟。「ライトヘビー」「ナハトムジーク」に登場。

・山田寛子:美奈子の友人。化粧品メーカー勤務。

     「ライトヘビー」「メイクアップ」に登場。

日高亮一:美奈子の友人。「ライトヘビー」に登場。

・久留米和人:高校生。美緒とはクラスメイトで席が隣。「ルックスライク」。

・笹塚朱美:大学生。教育学部に在籍。「ルックスライク」に登場。

・藤間亜美子:美緒の親友。「ドクメンタ」「ナハトムジーク」に登場。

・窪田結衣:化粧品メーカー勤務。「メイクアップ」に登場。

・小久保亜紀:広告会社の社員。結衣の高校時代の同級生。「メイクアップ」に登場。

・斉藤さん:路上で歌を売っている。

     斉藤なにがしというミュージシャンの曲を流している。

     「ライトヘビー」「ナハトムジーク」に登場。

 

総評

斉藤和義さんの『ベリーベリーストロング~アイネクライネ』は知っていて、

詞も含めて好きな曲ではあるんだけれど、小説になった場合はどうなんだろうか?と

不安だったんですけど、読んでみたらものすごく面白かった。

そもそも小説をもとに歌詞を書いてるので杞憂ではあったんだけど。

ネタバレになるけれど、すべての物語が繋がっていて、

それを好むかどうかは作品の評価を左右するかもしれない。

 

ドクメンタ」に「一度目の偶然は許されるが、二度目の偶然は許されない」と

あるけれど、本作ではアリかなと思う。

これが推理小説であればまた別ですけど。

 

大きな出来事が起きるわけでもないので、

それを認識したうえで読もうとするならおすすめの一冊です。