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【佐々木譲】『暴雪圏』についての解説と感想

本記事では佐々木譲さんの小説『暴雪圏』を紹介します。

川久保篤巡査部長シリーズの第二弾です。

暴雪圏

暴雪圏

著者:佐々木譲

出版社:新潮社

ページ数:513ページ

読了日:2023年4月2日

 

佐々木譲さんの『暴雪圏』。

『制服捜査』の続編にあたる作品で

北海道警察釧路方面広尾署・志茂別駐在所に勤務する川久保篤巡査部長の

活躍を描くシリーズの第二弾であり今作は長編になっている。

川久保篤巡査が志茂別駐在所に来てから二年目の冬の話である。

 

あらすじ

三月の彼岸ごろに襲来する嵐は彼岸荒れと呼ばれる。

川久保は駐在所への通報から一部が白骨化した変死体を見つける。

笹原史郎と佐藤章の二人は帯広市暴力団組長徳丸屋敷に強盗に入り、

組長の妻をはずみで殺してしまった。

出会い系サイトで知り合った菅原信也と別れたい坂口明美

母親が入院中に義父にレイプされたので家出をする佐野美幸。

胃がんを患っていると考え人生に悲観する西田康夫は

会社の金庫にある二千万円に目をつける。

ペンション「グリーンルーフ」を経営する増田夫妻。

北海道東部を彼岸荒れが襲い、午後からの暴風雪で町が閉ざされることになるが。

 

登場人物

・川久保篤:北海道警察釧路方面広尾署・志茂別駐在所勤務。

・片桐義夫:地元の情報通。元郵便局員

・西田康男:志茂別開発株式会社の会社員。総務係。五十代。

      胃がんを患っていると思っている。妻とは死別している。

・横井博子:志茂別開発株式会社の事務員。四十歳ぐらい。西田を軽んじている。

・坂口明美:二十九歳。既婚者。

      出会い系サイトで知り合った菅原信也と関係を清算しようとしている。

・坂口祐介:明美の夫。食品メーカー勤務。

・菅原信也:三十二歳。出会い系で知り合った明美に執拗に付きまとっている。

・足立兼男:徳丸組の構成員。

・徳丸徹二:徳丸組組長。現在は上京中。

:徳丸浩美:徳丸徹二の内儀。三十八歳。

・伊藤克人:広尾署地域課課長。

・薬師泰子:川久保が発見した変死体。

・薬師宏和:泰子の夫。志茂別畜産の運転手。

・笹原史郎:闇サイトで出会った佐藤章と供に徳丸邸に強盗に入った。メガネの中年。

・佐藤章:闇サイトで出会った笹原史郎と供に徳丸邸に強盗に入った。若い男。

・増田直哉:ペンション兼レストランの「グリーンルーフ」のオーナー。三十五歳。

・増田紀子:直哉の妻。三十四歳。

・甲谷雄二:北海道警察帯広署組織犯罪対策班。警部補。

・新村和樹:甲谷の部下。巡査。

・佐野美幸:高校を卒業したばかり。

・山口誠:トラックの運転手。

・佐野幸枝:美幸の母親。三十九歳。現在は帯広市立病院に入院中。

・笠井伸二:美幸の義父。四十四歳。農業機械センター勤務。

・平田邦幸:「グリーンルーフ」の予約客。六十歳ぐらい。

・平田久美子:邦幸の妻。予約客。六十歳ぐらい。

 

ネタバレなしの感想

私はとにかく面白く読めました。

もし本作を読む気があるのなら事前情報を入れずに読むことをおすすめします。

 

前作は短編集だったけれど、今作は長編になっていてかなり雰囲気は変わっている。

また主人公の川久保篤だけではなく、

複数の登場人物たちの視点でも物語は進んでいく群像劇になっている。

舞台は前作と変わらず北海道なんだけれど、

今作は彼岸荒れと呼ばれる暴風と暴雪が組み合わさった暴風雪が

北海道東部を襲った一日を描いている。

なので北海道という地域の特徴がかなり出ている話になっている。

 

群像劇ということで最初は繋がりがなさそうなものが

予想外に繋がっていたりと読み進めていく楽しさを味わえる。

 

暴力団の組長の妻をはずみで殺してしまった強盗や不倫関係の清算を願う人妻、

義父に襲われた女性に事務所から大金を持ち逃げした会社員と

かなり重く暗い事情を抱えた登場人物が多いので

ここは好き嫌いは分かれるかもしれない。

ちなみに私は好きです。

前作の『制服捜査』も社会性はあったけれど今作もそこは共通している。

 

警察小説や群像劇が好きならおすすめです。

 

 

ネタバレありの感想

群像劇が好きというのもあるけれど、基本的には文句のつけようがない。

西田が同僚の携帯を持っていたのは伏線として活かされているし、

甲谷が笹原と五十嵐の関係から徳丸の屋敷の強盗事件の真相や

足立から薬師泰子の事件の真相を聞いたりと、

周辺の話もちゃんと書いてるのも含めて文句のつけようがない。

 

難点というか、いまいちなところがあるとすれば登場人物が多すぎるところかな。

登場人物が多すぎるのでなかなか感情移入はしにくくなっている。

佐野美幸は背景としては義父との関係があって、

それが暴風雪の中で家出する理由にはなってるけれど、

それだけといえばそれだけかな。

美幸視点は家出の時と山口のトラックに乗ってる時だけですらかね。

 

amazonのレビューでラストに対する不満があったけれど、

私はラストにはそれほど不満はなかったかな。

川久保が佐藤を撃ったのはあっさりしてるけれど良かった。

日本の駐在警察官が派手なアクションをしてもリアリティはないですからね。

坂口明美は増田紀子との最後の会話を読めば、これもいい終わり方といえるでしょう。

増田夫婦も紀子の母親を引き取ろうとして、先に進む感じ。

佐野美幸も山口に対しての感情で幸福感と書かれているので、

問題そのものが完全に解決してわけではないけれど、前向きと言えば前向きである。

唯一気になるのは西田が事務所に間に合ったのかどうかですよね。

ただ、これに関しては明確には書かないのもアリといえばアリな気がするんですよね。

なので私はラストには不満はないです。

 

ひとつ気になったのは笹原がショッピングセンターで車を盗んでから、

十五分も経たずに甲谷たちが来てるのは早すぎなんじゃないかな。

あとそのぐらいの時間でも靴跡は残ってるものなんでしょうか。

たいしたことではないけれど、ちょっと気になりました。