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【佐々木譲】『制服捜査』についての解説と感想

本記事では佐々木譲さんの小説『制服捜査』を紹介します。

制服捜査

制服捜査

著者:佐々木譲

出版社:新潮社

ページ数:444ページ

読了日:2023年3月31日

 

佐々木譲さんの『制服捜査』。

駐在警官・川久保篤シリーズ。

北海道十勝平野の志茂別町駐在所に単身赴任してきた川久保篤が主人公の連作短編集。

『このミステリーが凄い!2007年版』国内編2位の作品。

内藤剛志さん主演でテレビドラマ化されている。

 

・逸脱

あらすじ

札幌で刑事として実績を積んできた川久保篤。

道警不祥事による大異動で志茂別駐在所に単身赴任してきた。

山岸明子から息子の三津夫が昨日から帰ってきてないと電話があった。

川久保は行方不明の三津夫を探すが。

 

登場人物

・川久保篤:北海道警察本部釧路方面、広尾警察署志茂別町駐在所勤務。

      階級は巡査部長。妻と二人の娘がいる。単身赴任。

・川久保美奈子:川久保篤の長女。高校三年生。

・片桐義夫:二年前に郵便局を退職。町のデータベースのような人物。

・吉倉忠:防犯協会の会長。

・山岸明子:三十代。Aコープ・ストアのレジ係。

・山岸三津夫:高校三年生。明子の子供。おとなしく引っ込み思案な性格。

・田代敬子:三津夫の幼なじみ。

・上杉昌治:高校三年生。

・宮越:広尾署の交通係係長。

 

ネタバレありの感想

当初はこの作品のみの予定だったらしい。

それもあってかなりの要素が詰め込まれている。

田舎の駐在所なので防犯協会の会長などとの付き合いや、

閉鎖的空間の人間関係などが描かれている。

川久保が駐在所の警官になって大異動の要素も山岸三津夫の件に絡んできている。

山岸三津夫だけじゃなくて田代敬子の件も含めて救いはない。

救いはないからこそ、ラストの川久保が宮越に言う台詞が際立つことになる。

 

・遺恨

あらすじ

酪農家の大西から自分の犬が撃たれた、と通報があった。

散弾銃で撃たれた犬。

川久保は犬の死骸があった現場に近い猟友会のメンバーから話を聞こうとするが。

 

登場人物

・川久保篤:志茂別駐在所勤務の警察官。

・片桐義夫:地域のありとあらゆる情報に通じた男。

・篠崎征男:篠崎牧場の主。六十歳ぐらい。

・篠崎章一:三十歳ぐらい。征男の息子。

・篠崎菊江:故人。二十四年前に死亡。征男の前妻。章一の母親。

・大西:酪農家。十五年前からの新規就農者。

・白石善三:七十五歳。離農者。

・池畑:広尾署の刑事係の刑事。

 

ネタバレありの感想

話の本筋とは直接関係ないけれど、

十五年以上前に外国人研修生の待遇の話を書いてるのに驚く。

こういう部分も含めて社会派的な要素が色濃く感じる。

ラストの篠崎菊江が死んだ時の駐在警察官への川久保の語りは重い。

 

・割れガラス

あらすじ

子どもが恐喝されているとの連絡を受けてバス待合室に駆け付けた川久保。

バス待合室には恐喝されている少年も、恐喝している少年も見当たらない。

待合室には職人風の男が一人。

通報してきた売り子によれば、

職人風の男が恐喝されていた少年を助けたというが。

 

登場人物

・川久保篤:志茂別駐在所の警察官。

・片桐義夫:元郵便局員

・吉倉忠:防犯協会会長。

・大城克夫:大工。普段は旭川工務店に勤務している。前科一犯。

・山内浩也:十六歳。無職。

・栗本由香里:三十代半ば。浩也の実母。「定食・ラーメン吉田屋」で働いている。

・栗本:由香里の再婚相手。トラック運転手。

・玉木徹三:玉木工務店の経営者。

・田辺勝政:広域指定暴力団の構成員。

・畑野:田辺の弟分。

・東山美紀:東山運送の社長夫人。

・工藤:広尾署の刑事。警部補。

 

ネタバレありの感想

これはとにかくやるせない。

児童虐待を受けている浩也と前科一犯の大城が

一緒に働いてるとこまでは希望に溢れていたのだが。

「逸脱」の経験もあったから川久保は積極的に動いた結果だから、

余計にきついものがある。

工藤や東山美紀への川久保の一撃だけが救いかな。

かなり好きな話。

 

・感知器

あらすじ

連続不審火事件が発生。

浮浪者が増えているという情報を受けて川久保は公園を見回ることになるが、

またも火事が発生してしまう。

 

登場人物

・川久保篤:志茂別駐在所の警察官。

・片桐義夫:元郵便局員

・吉倉忠:防犯協会会長。

・佐久間:町議会議長。

・河合:簡易郵便局長。

・大路:大路開発の社長。防犯協会のメンバー。

高橋和雄:六十五歳。河畔公園の駐車場で母親と一緒に車上生活をしている。

長峰:広尾署の刑事。巡査部長。背は低く肥満体。

・小関:広尾署の刑事。若く長身。

 

ネタバレありの感想

これは日雇い労働者や町の合併問題などが絡んでくるけれど、

比較的普通の警察小説と言えるかもしれない。

今まではどうしようもなかった広尾署の刑事たちだけれど、

今作の長峰は優秀だし人間的にも良い人。

 

・仮装祭り

あらすじ

八月の夏祭りで仮装盆踊り大会が行われることに。

十三年前の夏祭りでは仮装盆踊り大会に参加した少女が失踪する事件が起きていた。

夏祭りには十三年前の駐在の竹内や失踪した少女の母親も姿を見せるなか、

女の子が行方不明になってしまう。

 

登場人物

・川久保篤:志茂別駐在所の警察官。

・片桐義夫:元郵便局員

・大月亜矢香:十三年前の失踪事件の被害者。事件当時七歳。別荘族の子供。

       失踪当時バレエ着を着てティアラをつけていた。

・大月啓子:亜矢香の母親。

・藤本沙織:小学校二年生。

・吉倉忠:防犯協会の会長。

・米山:夏祭りの事務局の人間。運送会社の専務。

・渡辺:消防団長。

・服部昭彦:前教育長。

・菅原芳雄:四十歳前後。服部昭彦の子供。

・竹内勇三:川久保の四代前の駐在警官。現在は定年退職している。

・前川:応援の警察官。

・高野:応援の警察官。

 

ネタバレありの感想

これは他の短編よりは長くて中編ぐらい。

十三年前の亜矢香ちゃん失踪事件と同じような失踪事件が実際に起きて、

十三年前の当事者たちも絡んでくるという事件。

誘拐事件なので切迫感があって川久保の決断力や洞察力が冴えまくってかっこいい。

前教育委員長の服部昭彦のしたことを知った時の

竹内が言った「仮想大会の一等賞」って台詞でタイトルがダブルミーニング

あることがわかる。

今までの話でも吉倉防犯委員長は酷かったから

吉倉が川久保と竹内に詰められてるシーンはかなり胸がスカッとする。

ラストに相応しい話。

 

総評

総評

人口六千人の町の志茂別駐在所に異動してきた川久保篤が主人公の物語。

あまり物語の主人公には相応しくない役職かと思われるが、

これが意外や意外、かなり面白い話になっている。

田舎特有の濃い人間関係だけではなく、

外国人の研修生の問題やネグレクトなど社会派的な要素も絡んでくる。

謎解きミステリーというよりはドラマ性重視の話になっている。

駐在だから事件が地味かと言えば必ずしもそうではなくて、

殺人や放火、誘拐なので結構重大事件が発生している。

もっとも事件そのものを担当するのとは違うので

誘拐事件以外は派手な活躍をしてる感じではない。

ちょっと毛色が違った警察小説が読みたい方にはおすすめです。