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【横山秀夫】『第三の時効』についての解説と感想

 本記事では横山秀夫さんの小説『第三の時効』を紹介します。

第三の時効

第三の時効

著者:横山秀夫

出版社:集英社

ページ数:424ページ

読了日:2023年3月27日

 

横山秀夫さんの『第三の時効』。

F県警の強行班を描いた連作短編集。

このミステリーがすごい!2004年版』4位の作品。

TBSで2002年から2005年にテレビドラマ化されていた。

また2020年からテレビ東京でドラマ化されている。

 

・沈黙のアリバイ

あらすじ

F県警強行犯捜査一係、通称「一班」の班長・朽木泰正。

一班が捜査した現金集配車襲撃事件の被告・湯本直也。

その湯本が初公判で無罪を主張し、アリバイがあると言い出すが。

 

主な登場人物

・朽木泰正:捜査第一課強行班捜査一係の班長

・森:強行班捜査一係。刑事歴十五年。

・島津:強行班捜査一係。三月前まで捜査第二課の知能犯捜査係所属。

    田畑の部下だった。

・湯本直也:三十二歳。強盗殺人事件の被告。

・大熊悟:湯本と強盗事件を起こした人物。湯本を「パシリ」にしていた。

・ソム・シィー:タイ人。大熊の愛人。ホステス。

・ジョナリン:フィリピン人。大熊の愛人。ホステス。

 

ネタバレありの感想

警察小説ではあるけれど、いきなりの変化球的な話。

強盗事件の犯人を逮捕する話ではなく、

逮捕された犯人が裁判で供述を一転して無罪を主張する話。

実際に湯本みたいな主張をし始めたら面倒は面倒だろうなと。

明確な物的証拠なんかないだろうし、自白テープも使えないからな。

悪党の湯本の計算高さとハッタリの強さが光るけれど、

それを完全に粉砕する朽木がかっこよすぎる。

 

第三の時効

あらすじ

「タクシー運転手殺害事件」の時効が完成。

しかし、犯人の武内は海外に七日間滞在していたので、

この七日後を「第二時効」と名付け捜査にあたることになるが、

班長の楠見は「七日で終わらなかったらどうする?」と言うが。

 

主な登場人物

・楠見:強行班捜査二係の班長。元公安刑事。異名は「冷血」。

・森隆弘:強行班捜査一係。

・宮嶋:強行班捜査二係。「ゆき絵」担当。

・植草:主任。

・武内利晴:本間敦志殺害後逃亡。

・本間ゆき絵:本間敦志の妻。武内とは幼なじみ。

・本間ありさ:ゆき絵の娘。十四歳。

・本間敦志:故人。「タクシー運転手殺害事件」の被害者。

 

ネタバレありの感想

これは楠見のキャラクターも相まってかなり面白い話になっている。

楠見が仄めかした第三の時効で武内が逮捕されるわけではなく、

まさかの真犯人は本間ゆき絵という展開。

楠見が森に与えた仕事が判事の立ち回り先であったことや、

三年前の情報漏洩騒ぎ、

森の女性関係も含めて最後に収斂していくのは凄いの一言。

 

囚人のジレンマ

あらすじ

F県警捜査第一課長の田畑昭信。

課長になって二年、三件の殺人事件が発生。

三つの所轄に設置した捜査本部を飛び歩くことになる。

 

主な登場人物

・田畑昭信:F県警捜査第一課長。

・伴内:三班の取調官。間もなく退官する。

・相沢:強行犯所属の若手刑事。捜一課長の運転手。

・永井貴代美:調理師永井克也の妻。

掛川守:主婦(坂田留美)殺し事件の被疑者。

 

ネタバレありの感想

捜査本部の課長という

物語の主人公には向いてないんじゃないかと思われる田畑明彦が主人公。

なので現場で犯人探しや事件解決に直接関わる話ではない。

現場を管理したり、マスコミ対応の話が主になってくる。

早い段階でタイトルの「囚人のジレンマ」というワードが出てきて、

アレっと思うけれど、もう一回、さらにもう一回と出てきて綺麗にまとまっている。

連作短編集ならではの話。

 

・密室の抜け穴

あらすじ

東出浩文は強行犯捜査三係、通称「三班」の班長代理。

県北の国有林内から白骨死体が発見された。

被害者は三村多佳子。

捜査の結果、早野誠一が浮上し取り調べのため早野の身柄を引っ張ろうとし、

早野のマンションを張り込む。

早朝、早野を引っ張るために部屋に踏み込むが、早野は忽然と消えていた。

 

主な登場人物

・村瀬:捜査第一課強行犯捜査三係の班長

・東出裕文:四十三歳。捜査第一課強行犯捜査三係。班長代理。警部補。

・石上:強行犯捜査三係。東出と同期。

・湯浅:暴力団対策課課長。

・小浜:暴力団対策課特捜班長。警部。

・氏家忠弘:暴力団対策課特捜班。小浜の直属の部下。東出の同期。

・早野誠一:三十歳。「鷺下組」

 

ネタバレありの感想

これは完全に予想外でやられた。

密室ってマンションの方だと思うじゃないですか?

それが会議室でのやりとりでどう展開するのかよくわからなかったけれど、

氏家の携帯電話のところでそういうことだったのかと膝を打った。

同期の東出と石上の関係性、強行犯と暴対課の関係性、そして村瀬の天才性と

かなり色んな要素が描かれている。

 

・ペルソナの微笑

あらすじ

十三年前に青酸カリが盗まれ、その青酸カリのよる殺人事件が起きた。

隣のV県で青酸カリによってホームレスが殺される事件が発生。

「一班」の朽木が田中と矢代をV県警の偵察に向かわせる。

 

主な登場人物

・矢代勲:捜査第一課強行犯捜査一係。

・阿部研太郎:十三年前の青酸カリ事件の被害者。

・阿部光子:研太郎の妻。

阿部勇樹:研太郎の子供。

 

ネタバレありの感想

これはちょっと他の話と比べると雰囲気が違うかな。

過去に本人の意思とは無関係に身代金目的誘拐事件に

関与させられた過去を持っている刑事の矢代の物語。

十三年前の事件の真相も驚きだけれど、

ホームレスの事件に子供を利用してたところを

問い詰めるところで感情を爆発させる矢代が最大の見どころかな。

「姿の見えない猫」が伏線とか全く分からないよな。

 

モノクロームの反転

あらすじ

W市深見町で一家三人刺殺事件が発生。

この事件に田畑は強行犯係の「一班」と「三班」を捜査にあたらせる。

 

主な登場人物

・朽木泰正:捜査第一課強行班捜査一係の班長

・村瀬:捜査第一課強行犯捜査三係の班長

・弓岡雄三:事件の被害者。三十六歳。

・弓岡洋子:事件の被害者。雄三の妻。三十二歳。

・弓岡悟:事件の被害者。雄三の子供。五歳。

・安田明久:写真専門学校生。弓岡家の向かいの家の長男。

 

ネタバレありの感想

ある意味では王道的な警察小説。

警察小説で他の県警と仲悪いとか結構見るけれど、

同じ県警でも相変わらず仲悪い「一班と「三班」。

朽木が村瀬に協力した理由の葬式でちっちゃな棺桶を見ちまったからってのは、

朽木だからこそ余計胸に来るものがある。

白の車が実は黒の車だったという認知心理学の話は面白かった。

総評

総評

『陰の季節』や『動機』のように管理部門の人間たちが主役ではなく、

強行犯という殺人事件を扱う人間たちが主役の話。

この強行犯の三つの係の班長達がとにかく個性が強くて、

最初読んだ時は癖が強すぎると思ったけれど、

読み進めていくと好きになっていってしまう。

濃い人間関係に謎に物語性にととにかく一遍一遍が非常に素晴らしい。

とにかくおすすめです。