本記事では奥田英朗さんの小説『コロナと潜水服』を紹介します。
コロナと潜水服
著者:奥田英朗
出版社:光文社
ページ数:256ページ(単行本)
読了日:2023年3月25日
奥田英朗さんの『コロナと潜水服』。
表題作の「コロナと潜水服」を含め五篇収録の短編集。
・海の家
あらすじ
小説家の村上浩二は妻の不貞が原因で家を出ることになる。
避難先に選んだのは神奈川県の葉山町、一色海岸から歩いて一分の静かな一軒家。
一軒家で過ごしてると誰かの視線を感じたり、廊下を誰かが走る音が聞こえるが。
登場人物
・村上浩二:小説家。四十九歳。
・村上洋子:広告会社の営業職。
・村上結花:大学三年生。
・川崎:担当編集者。
ネタバレありの感想
事前情報なく読んだのもあるだろうけれどかなり良かった。
子供の幽霊ものは良い話が多い気がする。
避難した浩二とタケシの関係や浩二と結花の会話が見どころかな。
・ファイトクラブ
あらすじ
三宅邦彦は早期退職の勧告に抵抗し続けて
総務部危機管理課という新設部署に異動させられた。
実質的な追い出し部屋である。
そこで与えられた仕事は警備の仕事。
仕事終わりに管理課の同僚たちとトレーニングをしていたら、
嘱託のオッサンがボクシングのコーチをし始めて。
登場人物
・三宅邦彦:家電メーカーの会社員。総務部危機管理課
・三宅晴美:邦彦の妻。
・沢井:邦彦の同僚。元営業部。
・岩田:邦彦の同僚。元エンジニア。
・酒井:邦彦の同僚。元資材部。
・高橋:邦彦の同僚。元事業部。
・藤田:商品開発部。邦彦の同期。
・石原:本社人事部。
ネタバレありの感想
追い出し部屋に集められた社員たちがボクシングの練習をして変わっていく話。
軽妙なタッチなので悲壮感はない。
コーチが言う「一回殴り合うと怖さが半減する」とか笑ってごまかさないとか
読んでると結構響く部分がある。
外国人窃盗団を捕まえるも、
会社の対応そのものは変わらないだろうという現実的な部分も見せてはいる。
もっとも邦彦自体が以前と変わっているので明るいラストにはなっている。
・占い師
あらすじ
恋人のプロ野球選手が怪我から復帰して活躍し始める。
恋人がブレイクしたのは嬉しいけれど、
恋人が注目されることで自分は乗り換えられるかもと不安になっていたら、
事務所の社長から占い師を紹介されて行ってみたら。
登場人物
・田村勇樹:プロ野球選手。ドラフト一位で東京メイツに入団した三年目。
・加奈:麻衣子と同じ事務所。
・内藤:麻衣子の事務所の社長。
・鏡子:占い師。
ネタバレありの感想
この内容を嫌味なく書けるのは凄い。
現実的とも言えるかもしれないけど、
この現実的なのを軽妙なタッチで書くのが難しいんだろう。
鏡子という名前とため口の占い師である時点で察することはできる。
麻衣子は確かに鏡子との出会いで変わるんだけど、
最後の玉の輿も諦めないがいいんだよな、
ここが変わってしまうと麻衣子ではなくなるというか。
・コロナと潜水服
あらすじ
康彦の子供・海彦には新型コロナウイルスを感知する能力がある?
祖母と康彦を新型コロナウイルスから守った海彦。
康彦がソフトウェアの講習から帰ってきたら・・・。
登場人物
・渡辺康彦:家電メーカーの商品企画部勤務。。三十五歳。
・渡辺真理子:康彦の妻。区役所の福祉課勤務。妊娠六か月。
・海彦:康彦の息子。五歳。
ネタバレありの感想
私的には一番笑えて幸せになれた話。
今となっては懐かしさすら感じる2020年のコロナ流行初期とか、
緊急事態宣言時の話を不思議な現象と軽妙なタッチで書いている。
コロナ禍の最初は確かにこんな感じだったとかを思い出した。
真理子も防護服や雨合羽ないからって古道具屋で潜水服買ってくるからな、
ぶっ飛んでるよな。
潜水服来て外歩くとか海外ならありそうだけど、
日本だとなかなかないだろうからな、それを大真面目にやるのが良い。
基本的にはツッコミ役だった真理子が最後の最後に喋ることもいいんですよ。
・パンダに乗って
あらすじ
小林直樹は子供が就職したのを機に若い頃欲しかった、
初代ファイアット・パンダを買おうとする。
ネットで調べた結果、新潟の中古車屋から買うことに決める。
パンダを受け取った後にカーナビの指示に従って運転していたら。
登場人物
・小林直樹:広告会社の社長。五十五歳。
ネタバレありの感想
車の元の持ち主である富田雄一の所縁の場所にカーナビの指示に従って訪れる話。
富田という人間の人生を追体験するわけだけど、
そこまで大きなドラマがあるわけではない。
でも不思議と優しい気持ちになれます。
総評
とにかく面白かった。
五篇に共通してるのは不思議な現象が起きること、
それと毒後は明るく前向きな気持ちになれること。
置かれた状況としては妻の不倫だったり、追い出し部屋だったり、
きつい状況なんだけどそれを軽妙なタッチで暗く重く感じさせないのは流石。
癖がないし難しい話ではないので気楽に読書を楽しみたいならおすすめです。