【荻原浩】『サニーサイドエッグ』についての解説と感想

本記事では荻原浩さんの小説『サニーサイドエッグ』を紹介します。

最上俊平シリーズの二作目です。

サニーサイドエッグ

サニーサイドエッグ 

著者:荻原浩

出版社:東京創元社

ページ数:448ページ

読了日:2024年12月29日

満足度:★★☆☆☆

 

荻原浩さんの『サニーサイドエッグ』。

最上俊平シリーズの第二弾。

 

あらすじ

フィリップ・マーロウに憧れ、

ハードボイルド小説を愛する、私立探偵の「私」こと最上俊平。

しかし、探偵事務所に持ち込まれるのは、ペットの捜索依頼ばかり。

ある日、若く美人な着物姿の女性が事務所を訪れて、

逃げ出したロシアンブルーを探して欲しいという依頼を受ける。

なりゆきで雇うことになったブロンドで青い目の若い女性と共に、

捜査は順調に進むはずだったが、

ヤクザの組長から同じくロシアンブルーを探して欲しいという依頼がやってきて。

 

登場人物

・最上俊平:最上探偵事務所の所長。フィリップ・マーロウを信奉している。

      以前は英会話教材のセールスをしていた。三十三歳。

・村島茜:最上俊平の助手になった女性。十六歳。

・長尾千春:ロシアンブルーの「リュウ」探しの依頼人

      小料理屋「あすなろ」の経営者。

・J:「J」のオーナー。本名は治作。

・ビビアン小原:ブルテリアの「リック」探しの依頼人

        ビビアン小原ビューティクリニックの経営者。本名は小原勝子。

・三上正道:「チョコピー」探しの依頼人。表向きは東亜開発の社長で、

      実際は横浜青龍会の組長。五十二歳。

添田和美:表向きは東亜開発の社員で、

      実際は横浜青龍会の下部組織「添田組」の組長。

斎藤隆司:表向きは東亜開発の社員で、横浜青龍会の組員。

・高木:表向きは東亜開発の社員で、横浜青龍会の組員。ボクサー鼻。

・須藤:県警の捜査一課の課長補佐。レイモンド・チャンドラーの愛読者。

 

ネタバレなしの感想

フィリップ・マーロウに憧れる私立探偵・最上俊平が主人公の

『ハードボイルド・エッグ』の続編になる『サニーサイドエッグ』。

タフな事件を捜査したいと思いながらも、

事務所に持ち込まれる失踪したペット探しばかりの

動物専門の探偵になってしまった最上俊平。

 

前作でもペット探しが描かれていたけれど、

今作でもペット探しの話がメインになっている。

小料理屋の美人女将とヤクザの組長から相次いで失踪した猫探しの依頼が来るが、

その猫には共通点があることから物語が展開していくことになる。

さらにはそこに最上俊平の新しい助手になるブロンドで青い目をしている

村島茜が絡んでくる。

 

ハードボイルド気取りの最上俊平と周囲の人間たちの会話は、

相変わらずクスリと笑えるものになっているし、

滑稽さがありながらも、最終的には信念を貫き、

他者に優しいかっこいい人間になっている。

 

ただストーリーそのものは正直特筆すべきものがないのと、

何より猫探しの描写の割合があまりにも多すぎてかなり退屈になっている。

よく言えばリアリティがあるとも言えるけれど、

猫探しのリアリティをここまで追求されても物語的な面白さにはなっていない。

 

シリーズもので今作から読んでも問題はないけれど、

今作から読むことはおすすめしない。

読むとするなら前作の方がまだおすすめはしやすい。

 

 

ネタバレありの感想

ストーリのメインともいえる、二匹の猫探しは特に捻りもなく、

同じ猫でリュウの首には物語冒頭に登場したビビアン小原ビューティクリニックの

二重帳簿の情報が入っている。

そのため長尾千春の恋人である斎藤隆司と横浜青龍会はリュウ探しを

していたというオチになっている。

 

ここに最上俊平の秘書になった少女・村島茜が関わってくることになるけれど、

茜は解離性同一性障害(多重人格)で葵という人格が存在している。

動物殺傷事件の犯人が村島茜か?と思わせておいて、

こちらは物語冒頭に登場していた駐車場で出会った犬を抱いていた男性。

 

これだけ見れば二匹の猫探しと動物殺傷事件、それに秘書の村島茜の謎と伏線の数々で

それなりに面白く感じてもおかしくないけれど、

やはりとにかく猫探しの描写が多すぎてあまり面白い印象は持てなかった。

正直何で猫探しの描写をここまで詳細に書こうと思ったのか結構不思議である。

 

最上俊平のキャラクターは前作同様で、

相変わらずの間の抜けた感じが好きだし、会話は面白いものになっていた。

最上俊平がラストでは長尾千春と村島茜に対してはシリアスな感じになるのも、

普段はちょっと間が抜けているので、そのギャップもあって結構かっこいいし、

描き方もやはり巧い。

 

今作から登場した村島茜と最上俊平のコンビ自体は決して悪くはないし、

二人の掛け合いも結構良かった。

(ただ正直言うと前作の最上俊平と片桐綾のコンビと比べるとかなり落ちる印象)

解離性同一性障害(多重人格)の伏線も確かに張られているけれど、

二人の描写が少なめなのが不満点。

 

続編がありそうなラストになっているけれど、今のところ特に続編は出ていない。

 

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