【今村翔吾】『イクサガミ 神』についての解説と感想

イクサガミ 神

本記事では今村翔吾さんの小説『イクサガミ 神』を紹介します。

イクサガミシリーズの第四巻。

イクサガミ 神

著者:今村翔吾

出版社:講談社

ページ数:480ページ

読了日:2025年9月27日

満足度:★★★☆☆

 

今村翔吾さんの『イクサガミ 神』。

イクサガミシリーズの第四巻。

 

あらすじ

京都・天龍寺に集められた強者たち二九二人が参加する東海道を舞台にした『蟲毒』。

東京に辿り着いた九人の最終決戦がいよいよ開幕する。

果たして生き残るのは誰か。

 

主な登場人物

・嵯峨愁二郎:京八流の継承者の一人。奥義『武曲』と、

       赤池一貫の持っていた奥義『北辰』と蹴上甚六から奥義『貪狼』を継承  

       している。「刻舟」とも呼ばれていた。

・香月双葉:母親が虎狼痢(コレラ)に感染したため、

      お金が必要になり、『蟲毒』に参加することになった。

      天道流を父親から習っている。十二歳。

 

・化野四蔵:嵯峨愁二郎の義弟。京八流の継承者で、奥義『破軍』の持ち主。

      烏丸七弥から『廉貞』を、壬生風五郎から『巨門』を受け継いでいる。

・衣笠彩八:嵯峨愁二郎の義妹。京八流の継承者で、奥義『文曲』の持ち主。

      祇園三助から奥義『禄存』を受け継いでいる。

 

・柘植響陣:元伊賀同心。嵯峨愁二郎たちと組むことに。

・岡部幻刀斎:朧流の継承者。京八流の継承者たちを追っている。

・カムイコチャ:アイヌ人。本名は「イソンノアシ」。弓の使い手。

・ギルバート・カペル・コールマン:元英国陸軍の第十三竜騎兵隊。

・天明刀弥:仏生寺弥助の息子。『蟲毒』の参加者で、東京に辿り着いた一人。

 

・狭山進次郎:元は御家人の跡取り。二十三歳。

・前島密:駅逓局長。

・川路利良:『蟲毒』の主宰者。警視庁の初代大警視。

 

・槐:天龍寺で『蟲毒』の掟を説明をした人物。

   正体は甲賀組与力の多羅尾家当主の多羅尾千景。

・橡:『蟲毒』で嵯峨愁二郎と香月双葉を担当する人物。

・柙:柘植響陣の二人目の看視者。正体は多羅尾千景の弟の譲二。

 

ネタバレなしの感想

イクサガミシリーズの最終巻である『イクサガミ 神』のストーリーは、

前巻のラストで東京に辿り着いた『蟲毒』の参加者の九人。

その残った九人が、それぞれ東京の各地に連れていかれ、

各地から上野寛永寺黒門を目指す、というものになっている。

 

ということで、いよいよイクサガミシリーズの最終巻は、

東京を舞台に仕切り直す形で『蟲毒』続行で、新しい掟により最終決戦が開幕する。

新しい掟は、それぞれが離れた場所から上野寛永寺黒門を目指すというもの。

しかも東京府内に「豊国新聞」が再びばら撒かれていて、

『蟲毒』参加者を捕まえれば賞金が与えられるとのこと。

さらには警察も九人を極悪犯として東京府下全域に緊急警報を発したために、

九人は東京の人々や警察に追われながら『蟲毒』の最終決戦を行うことになっている。

 

今までのシリーズ読んだ方なら想像できる通り、

岡部幻刀斎と天明刀弥がいるために、

ただ単に人々や警察から逃げるだけにはなっていない。

岡部幻刀斎と京八流継承者・嵯峨愁二郎、化野四蔵、衣笠彩八との戦い

前巻で強さの片鱗が描かれた天明刀弥の強さの全貌が描かれている

さらには『蟲毒』が開催された目的も明らかになっていて、

イクサガミシリーズのファンの方は必見の一冊になっている。

 

 

ネタバレありの感想

まず東京に着いて何をするのかと思ったら、

結局は全員バラバラに配置されて、上野寛永寺黒門を目指すということで、

若干拍子抜けしてしまった。

 

確かに手配されているので参加者は移動に制限があるとはいえ、

香月双葉以外はそれほど影響があるとは思えなかった。

結局は東海道で東京を目指す時に

嵯峨愁二郎と香月双葉と組んだり、

組む可能性が高い人たちが生き残ってしまったので、

参加者をバラバラにしておかないとバランスがとれないからかなと邪推してしまう。

一応、川路利良が『蟲毒』を開催する狙いで

東京で騒ぎが起きる必要性があるのは分かるけれど、

これもちょっと狙い(真相)としては弱いかなぁと。

 

柘植響陣の裏切りというか、陽奈を人質に取られて、

嵯峨愁二郎と戦うというのは個人的には受け入れにくかった。

ただその中でも柘植響陣の秘技・天之常立神が見られたり、

最終的には多羅尾兄弟を圧倒するのと

狭山進次郎が活躍する場面が見られたのは良かった

 

あと、これは前巻を読んでいた時から思っていたけれど、天明刀弥はやはり微妙。

岡部幻刀斎は大昔からの因縁もあり、

さらに嵯峨愁二郎の義兄弟たちを倒していて、

お互いに奥義があるので読んでいて面白い。

天明刀弥の場合はそういう背景を持たないのと、

ただ単に戦うことによって強くなる(戦った相手の技を習得する)

というタイプなので、強さ自体は頭で理解できても中々実感しづらい。

奥義自体が漫画的なんだけれど、戦っている最中に強くなるってモロに漫画的かなと。

 

意味深な橡は思ったほどのドラマは無かったし、

実は生き残っていた桐野利秋(中村半次郎)も

特別役割があったわけでもないのは拍子抜け。

 

この巻まで含めると四巻あって、登場人物に思い入れが生まれていたので、

『蟲毒』参加者の生き残りにそれぞれ見せ場があったのは良かった

特に化野四蔵は殺された兄妹たちの思いや奥義を背負って、

岡部幻刀斎を倒したり、

ボロボロになりがらも香月双葉を守って天明刀弥を戦うのは熱くなる展開だった。

最終的には主人公の嵯峨愁二郎が全ての奥義を継承し、「戦神」になって、

天明刀弥を倒すのも心が震えた

その時に想いを託された嵯峨愁二郎

勝てる戦いが好きなだけの天明刀弥という対比も悪くなかった

 

最終的には勝ち残ったのは香月双葉で、終ノ章で

香月双葉と狭山進次郎によって、『蟲毒』後のことが語られているので、

物語の余韻が残るのも素晴らしい

嵯峨愁二郎が川路利良を殺した(襲った)かも?というラストになっている。

 

シリーズの全てを読んだ感想としては面白いし、盛り上がる場面の描き方は流石

岡部幻刀斎と京八流継承者たちの戦いや、

貫地谷無骨と嵯峨愁二郎との戦いなどは手に汗握る戦いだったし、

脇役の狭山進次郎の使い方も巧かった。

香月双葉が出会った人々に影響を与えているというのも良かった。

この巻に関して若干評価が辛くなってしまったけれど、

それはあくまで期待しすぎたからで、

シリーズ自体は読んで良かったし、非常に面白かった

 

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