【高村薫】『照柿』についての解説と感想

照柿

本記事では高村薫さんの小説『照柿』を紹介します。
合田雄一郎シリーズの第二弾です。

照柿

著者:高村薫

出版社:講談社(単行本)

ページ数::498ページ

読了日:2025年10月1日

満足度::★☆☆☆☆

 

高村薫さんの『照柿』

合田雄一郎シリーズの第二作目。

「このミステリーがすごい!1995年版」3位。

三浦友和さん主演でドラマ化されている。

 

あらすじ

警視庁捜査一課の刑事・合田雄一郎は、

八王子で起きたホステス殺人事件の捜査中に、

拝島駅で女性の飛び込み現場を目撃する。

その時に現場から立ち去ろうとしていた佐野美保子に惹かれる。

後日、ホステス殺人事件の捜査で大阪に向かう合田雄一郎は、

佐野美保子と一緒にいる幼なじみの野田達夫に出会う。

 

主な登場人物

・合田雄一郎:警視庁捜査一課第三強行犯捜査班七係の刑事。主任。警部補。

       三十四歳。加納祐介の双子の妹・加納貴代子と離婚している。

 

・野田達夫:合田雄一郎の幼馴染み。太陽精工の羽村工場の工員。

      熱処理を担当。美術教室に通っている。

 

・佐野美保子:野田達夫の元恋人。佐野敏明の妻。信用金庫で働いている。

 

・野田律子:野田達夫の妻。中学校の教師。

・野田誠一:野田達夫の息子。十歳。

・野田泰三:野田達夫の父親。画家。芸大出身。

・野田良子:野田泰三の妻。以前は野田不動産の経営者だった。

・江口尚子:野田達夫の妹。

・江口良浩:江口尚子の夫。

・野田卓郎:野田達夫の叔父。

・野田栄子:野田卓郎の妻。

 

・岡村源太:太陽精工の羽村工場の工員。

・小木明彦:太陽精工の羽村工場の工員。

・佐野敏明:佐野美保子の夫。メーカーに勤めている。

・笹井京介:野田泰三の芸大時代の同級生。ササヰ画廊の経営者。

 

・吾妻哲郎:警視庁捜査一課第三強行犯捜査班七係の刑事。主任。

      あだ名は「ペコ」か「ポルフィーリィ」

      (ドストエフスキーの小説『罪と罰』から)。警部補。

・広田義則:警視庁捜査一課第三強行犯捜査班七係の刑事。

      あだ名は「雪之丞」。巡査部長。

・森義孝:警視庁捜査一課第三強行犯捜査班七係の刑事。

     あだ名は森蘭丸から「お蘭」と呼ばれている。巡査部長。

・肥後和己:警視庁捜査一課第三強行犯捜査班七係の刑事。

・有沢三郎:警視庁捜査一課第三強行犯捜査班七係の刑事。

      あだ名は「又三郎」。

・松岡譲:警視庁捜査一課第三強行犯捜査班七係の刑事。あだ名は「十姉妹」。

・林省三:警視庁捜査一課第三強行犯捜査班七係の係長。警部。

 

・加納祐介:東京地検の検事。加納貴代子の双子の兄。

 

・土井幸吉:ホステス殺人事件の重要参考人だが、姿を消している。建設労働者。 

・堀田卓美:ホステス殺人事件を自供した連続窃盗犯。元暴力団員。

・秦野耕三:秦野組六代目組長。

 

ネタバレなしの感想

本作『照柿』は、警視庁捜査一課の刑事・合田雄一郎は、

ある事件の犯人の妻・佐野美保子に出逢うが、

彼女と付き合っていたのは、合田雄一郎の幼なじみの野田達夫だった。

二人の男と一人の女の暑い夏の愛憎劇になっている。

 

本作は刑事の合田雄一郎の視点と工員の野田達夫の視点が交互に描かれながら、

物語は展開していく。

この二人の男性がある事件の犯人の妻・佐野美保子を巡って、

複雑に絡み合っていくことになる。

しかも合田雄一郎と野田達夫は、幼なじみで、

彼らの過去と執着、嫉妬など負の感情を徹底的に描かれている作品

 

ということで合田雄一郎シリーズの二作目である本作は、

ミステリー的な要素は多少はあるけれど、

謎自体が弱いのもあって、

真相が明らかになったとしてもそこまでのカタルシスは得られない。

とにかく合田雄一郎と野田達夫の感情や思考などが

腑分けするように描写されているのが特徴

 

本作は昔に一度読もうとしたことがあったんだけれど、途中で断念した作品

今回も、おそらく前回断念したところで、再び断念しそうになってしまったので、

正直それほど読むのが大変だった。

(ちなみに前回断念したのは、20Pから30Pあたりなので、物語の冒頭も冒頭)

野田達夫が働いている工場での場面で、

心の機微や工場の熱処理の工程など描写が徹底して描かれているんだけれど、

野田達夫が肉体と精神が追い込まれた人物ということもあって、

読んでいて隠隠滅滅としてくる。

しかも小説としては何か大きな謎が提示されて、

先が気になって読むというわけでもないので、

読んでいてかなり苦労するものになっている。

 

普段はディテールがどうだと感想に書いているけれど、

ここまで微に入り細に入り克明に描写されると、

読むのが辛いことをはじめて実感できたという意味では貴重ではあった。

最期まで読むと、ある種の爽快感や達成感は得られるけれど、

それは物語そのものなのか難解な文章を読んだからなのかは、

私には分からなかった

 

本作に関しては、ミステリー小説、警察小説、エンターテインメント小説というものを

期待して読むのはおすすめしない。

高村薫さんの熱烈なファンや合田雄一郎シリーズの熱烈な

ファンの方向けの作品で、

軽いライト感覚の読者の方には絶対におすすめできない一冊

 

照柿

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ネタバレありの感想

まず合田雄一郎は、佐野美保子のどこに惹かれたのか分からないし、

当然ながら野田達夫に対する嫉妬というのも理解できなかった。

佐野美保子に会ったのも一瞬なのに、野田達夫に嫉妬して、

地方に飛ばそうとするなど中々の壊れっぷりで、ゾッとする。

 

野田達夫に関しては、まだ佐野美保子に対する感情は理解できるけれど、

序盤の工場での描写の時点で「壊れてる」としか思え無かった

しかも最終的には人を殺すにしても、ほとんど無関係の笹井京介

殺意があったのかどうかわからない行為によって、

佐野美保子を植物状態にしてしまうというものなので、

どう解釈すればいいのか分からなかった

しかも野田達夫は父親・泰三が付き合っていた女性が電車に飛び込んだこと

子供の頃に合田雄一郎に「未来の人殺しだ」と言われたことに執着していること。

さらには四十三時間勤務していたことを考えると、

精神的にも肉体的にも追い詰められているわけで、人を殺したとしても、

そこにどういう意味を見出せばいいのかが分からなかった。

これが現実的なんだと言われたら、何も反論できないけれど。

 

ちなみに土井幸吉も「子供のころ、農薬を飲んで自殺した実父の死体を発見した」

(429P)とあるし、一瞬会っただけの佐野美保子に執着する合田雄一郎も含めて、

壊れてるとしか思えない登場人物が多いのもあって、

個人的にはとにかく合わなかったし、何が伝えたいのかもよく分からなかった。

 

一応、合田雄一郎シリーズとして重要なのは、

合田雄一郎と森義孝は本庁を離れるというラストになっている。

 

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