【東野圭吾】『学生街の殺人』についての解説と感想

本記事では東野圭吾さんの小説『学生街の殺人』を紹介します。

学生街の殺人

学生街の殺人

著者:東野圭吾

出版社:講談社

ページ数:482ページ

読了日:2025年3月22日

満足度:★★★☆☆

 

あらすじ

大学の正門の位置が変わったためにさびれてしまった旧学生街。

津村光平は大学を卒業後も自分の進む道が見つからないため、

旧学生街のビリヤード場でアルバイトをしていた。

光平の同僚の松木元晴が何者かに殺されてしまう。

松木は「俺はこの街が嫌いなんだと」と数日前に不思議なメッセージを残していた。

松木は自分のことは何ひとつ話さず、松木の素性を光平は一切知らなかった。

その後第二の殺人が密室状態で起こり、事件は思いがけない方向に展開してゆく。

 

登場人物

・津村光平:『青木』でアルバイトをしている。大学の機械工学科を卒業している。

・有村広美:津村光平の恋人。『モルグ』の共同経営者。

・有村悦子:有村広美の妹。短大の二年生。

・日野純子:『モルグ』のママ。有村広美とは高校時代の同級生。

松木元晴:事件の被害者。『青木』のビリヤードのフロアを任されている。

      松木元晴は偽名で、本名は『杉本潤也』。

      以前はセントラル電子に勤めていた。

・沙緒里:『青木』でアルバイトをしている。

・マスター:『青木』のマスターで経営者。

・武宮:大学院生。大学では津村光平と機械工学を一緒に学んでいた。

・井原良一:通称『ハスラー紳士』。東和電機株式会社開発企画室室長。

・太田:通称『助教授』。大学の電気工学科の助教授。

・時田:本屋の経営者。

・島本:菓子屋の店主。自治会長。

・斎藤:総合病院の医者。

・上村:所轄署の刑事。

・香月:捜査一課の刑事。

・田所:香月の後輩刑事。

・堀江:『あじさい』の園長。

・田辺澄子:『あじさい』の職員。

・佐伯良江:保険会社『友愛生命』の外交員。

・相沢高顕:日本セントラル電子株式会社の技術本部システム開発部設計課の社員。

 

ネタバレなしの感想

物語の舞台となるのは、大学の正門の位置が変わり、

学生たちの足が一気に遠のいたためにさびれてしまった旧学生街。

そして主人公は大学を卒業したが何をすべきか分からない青年・津村光平。

津村光平の周囲で連続殺人事件が発生して、

事件の真相を解き明かそうとしていくことになる。

 

本作のキーワードは間違いなく「成長」で、

事件の被害者たちが隠そうとしていた秘密が露わになっていき、

特に恋人が隠していた真実を受け止めることによってモラトリアムから

脱却しようとする主人公・津村光平の成長物語になっている。

 

初期の作品で文庫本で500ページ近い大作ながら、

東野さんの作品の中ではあまり語られることも少ないけれど、

私は雰囲気も含めてかなり好きな作品

さびれた旧学生街、モラトリアムな主人公、被害者たちの抱えていたドラマなど、

大きな物語や物凄く感動すること、斬新なトリックなどはないけれど、

かなり完成度の高い作品になっている。

 

初期の東野さんの作品ということで

いわゆる本格ミステリーの密室要素もあるけれど、

あまりトリックなどには期待せず、

津村光平の成長物語として読むことをおすすめする。

ただ時代設定的に今の若い人たちが読んで津村光平に共感できるのかどうかは、

個人的には分からない。

 

 

ネタバレありの感想

1987年発売の本ながら人工知能(AI)が出てくるのは理系の東野さんらしいけれど、

全体的にはあまり東野さんらしさを感じない不思議な作品

おそらくモラトリアムの青年・津村光平の成長物語であることがその理由で、

謎解きに対するアプローチも犯人探しというよりも、

光平の恋人・有村広美が抱えていた秘密に対しての印象が強かった。

 

ミステリー小説としてはどんでん返しの要素もしっかりあって、

井原良一が連続殺人事件の犯人と思わせておいて、

堀江園長殺しに関しては日野純子が犯人で、時田が共犯者になっている。

あとは井原の行動の裏には純子が絡んでいて、真犯人は言い過ぎかもしれないけれど、

井原をかなりコントロールしていたというのはミステリー小説としても面白い。

あとは序盤から出てくる広美がピアノをやめたこと

事件の真相にかなり密接に関わっているのも印象的

 

広美のピアノに限らず本書に関しては、

日野純子の「なんでもかんでも知ろうとしないこと。」(30P)や、

時田の「もういいじゃねえか。やめようや」(342P)と伏線が見事

 

私は広美が抱えていた秘密の真相の方に興味をひかれて、

純子が真犯人であったことはそれほど驚きを感じなかった。

これは光平の事件に対するアプローチや物語の書き方、

それと純子が明らかに怪しい部分があったためだろう。

 

序盤から意味深な登場の仕方をする科学雑誌だけれど、

問題は科学雑誌の内容ではなく雑誌に挟んでいた念書というのが真相。

渡す相手が有村広美だろうが日野純子だろうが、

そんな大事なものを他人に渡すのだけは納得できなかった。

 

基本的には人間ドラマ重視で

話の整合性もしっかりしているので悪くはないと思うけれど、

淡々と進むので盛り上がる要素が希薄なのは気になった。

 

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