【永井紗耶子】『木挽町のあだ討ち』についての解説と感想

本記事では永井紗耶子さんの小説『木挽町のあだ討ち』を紹介します。

木挽町のあだ討ち

著者:永井紗耶子

出版社:新潮社

ページ数:272ページ

読了日:2025年2月13日

満足度:★★★☆☆

 

永井紗耶子さんの『木挽町のあだ討ち』。

第169回直木賞受賞作品。

第36回山本周五郎賞受賞作品。

このミステリーがすごい!2024年版」6位。

 

あらすじ

雪の降る中、木挽町芝居小屋の裏手にて、

傘を差した一人の若衆・菊之助による仇討ちがみごとに成し遂げられた。

父・清左衛門を殺めた博徒・作兵衛を斬り、

返り血で白装束を真っ赤に染め、

作兵衛の首級を上げた快挙はたくさんの人々から賞賛された。

その二年後、

初の江戸番になった菊之助の縁者だというひとりの侍が仇討ちの経緯を知りたいと、

芝居小屋を訪れるが。

 

主な登場人物

・一八:「第一幕 芝居茶屋の場」の語り手。二十八歳。

    木戸芸者。母親は女郎で、吉原で生まれた。以前は幇間をしていた。

・与三郎:「第二幕 稽古場の場」の語り手。

     立(殺陣)師。御徒士の三男。お三津という妻がいる。

・芳澤ほたる:「第三幕 衣裳部屋の場」の語り手。四十路。

       衣装の支度や繕いをしている衣装係。

       時々女形として舞台にも上がっている。

・お与根:「第四幕 長屋の場」の語り手。政吉という息子がいた。

・久蔵:お与根の夫。小道具師。あだ名は「阿吽の久蔵」。

・篠田金治:「第五幕 枡席の場」の語り手。戯作者。劇評や落語も嗜んでいる。

      元は野々山正二という名前の旗本の次男。五十歳。

菊之助:「終幕 国元屋敷の場」の語り手。

     「木挽町の仇討ち」で父親の仇・作兵衛を討った。

・作兵衛:故人。菊之助に討たれた。博徒

・総一郎:江戸番。十八歳。

 

ネタバレなしの感想

直木賞山本周五郎賞をダブルで受賞した時代ミステリー小説。

本作『木挽町の仇討ち』は、

二年前に菊之助が父親の仇を討った「木挽町の仇討ち」。

菊之助の縁者が、

その関係者に聞きまわる中で仇討ちの真相が明らかになる

時代ミステリー小説になっている。

 

仇討ちの目撃者や関係者として、

木戸芸者、立(殺陣)師、女形兼衣装係、小道具師の妻、戯作者という

菊之助と交流のあった人物たちが、彼らの言葉で武士に伝えていくことになる。

そして話を聞く過程に置いて「木挽町の仇討ち」だけではなく、

彼らの半生を聞くことにより、芝居に関わる彼らの喜びや哀しみが鮮明になり、

それが最後に明らかになる「木挽町の仇討ち」の真相をより鮮やかなものにしている。

 

終幕も含めて六幕全て登場人物の台詞のみになっているかなり珍しい形式の小説。

時代小説で全て語りということもあり、正直私には結構読みづらかったので、

そこまで分量はないにも関わらず読むのに結構時間がかかった。

 

私が本作を読むきっかけはミステリー小説として知ったからなんだけれど、

ミステリー小説として読んだ場合はかなり期待外れになっている。

話の聞き手である人物が「木挽町の仇討ち」の

どこに興味を持って話を聞いているのか?どこに謎があるのか?が

明らかにされているわけではないので、

読者としては謎そのものを具体的に考えることができない。

それでいてミステリー慣れしている方なら、

読み進めれば何となく分かるような真相なので特に驚きもなかった。

 

ミステリー以外では語り手たちは芝居に関わる人間たちで、

吉原で生まれた木戸芸者だったり飢饉で親を亡くした衣装係だったりと

彼らの半生が語られることになる。

これが「木挽町の仇討ち」の真相に関わってくることになるので、

読後感は素晴らしいものになっている。

 

ただ一方的な語り(台詞のみ)であったり、物語の構成を考えると

個人的には小説として特に秀でているとは思えないので、

積極的にはおすすめしにくい。

 

 

ネタバレありの感想

ミステリーとしてはあまりにも平凡で、私は「第二幕 稽古場の場」の語り手が

立(殺陣)師の時点で、仇討ち自体がおそらく演技なのかな?という予想は

できてしまった。

しかも衣装係や小道具師(の妻)、そして戯作者と続けばある程度勘が良い方なら

真相は分かりやすいはず。

ついでに言うと本作のタイトルが『木挽町のあだ討ち』なのは、

実際には仇討ちをしていない「徒討ち」だからというオチ。

 

一方で語り手たちの生まれた境遇であったり半生に関しては

読んでいて面白い面もあるし、

それが菊之助に協力する動機になっているのも含めて良かった。

個人的には「第五幕 枡席の場」の戯作者の篠田金治の話が好きで、

花魁の葛葉との出会いと別れ、そして並木五瓶や許嫁の妙の存在であったりと、

読んでいて飽きさせないものになっている。

また自ら戯作者の道を選ぶというのも共感はしやすかった。

 

反面、木戸芸者の一八や衣装係の芳澤ほたるは生まれが関わってくる話ということで、

どうしても暗さや重さがあるので、結構読むのに苦労してしまった。

 

そこまで悪くはないけれど、

直木賞山本周五郎賞のW受賞作品ということで、

私の中では若干ハードルが上がりすぎてしまっていたかな。

 

直木賞山田風太郎賞のW受賞作品の感想はこちら。

readover5.hatenablog.com

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