【司馬遼太郎】『燃えよ剣』についての解説と感想

本記事では司馬遼太郎さんの小説『燃えよ剣』を紹介します。

燃えよ剣

燃えよ剣

著者:司馬遼太郎

出版社:新潮社

ページ数:上巻:592ページ

     下巻:560ページ

読了日:上巻:2025年4月12日

    下巻:2025年4月15日

満足度:★★★★☆

 

司馬遼太郎さんの『燃えよ剣』

岡田准一さん主演で映画化されている。

またそれ以外にも映画化やドラマ化がされている。

 

あらすじ

武州石田村の百姓の子・土方歳三は、喧嘩と女遊びに明け暮れる日々を送り、

バラガキ(乱暴者)と 呼ばれていた。

京都では攘夷党の志士たちの横行、暴虐に幕府は手を焼いていた。

これに対して幕府は、浪士達による「浪士組」を結成することになり、

土方歳三も近藤勇たちと試衛館の門人とともに徴募に応じて京へ上ることになった。

そして、京の西郊の壬生郷に宿営するや

清河八郎が浪士組を幕府の支配から脱することを宣言する。

勤皇家である清河八郎の目的は攘夷の先駆けをすることにあった。

これに反発した土方や近藤たちは清河八郎と袂を分かち、

元水戸藩士・芹沢鴨と組み、京都守護職会津中将様御預浪士「新選組」が

結成されることになった。 

 

主な登場人物

・土方歳三:新選組副長。

・近藤勇:新選組局長。天然理心流の近藤道場の道場主。

・沖田総司:新選組一番隊隊長。

・芹沢鴨:水戸脱藩浪士。神道無念流の免許皆伝。新選組局長。

・伊東甲子太郎:新選組参謀。北辰一刀流。

 

・七里研之助:比留間半造の甲源一刀流道場の師範代。

       土方歳三が六車宗伯を殺したために土方歳三を執拗に追い回すことに。

・猿渡佐絵:猿渡佐渡守の妹。前関白九条久忠に仕えている。

・お雪:元は加田進次郎の妻で、加田進次郎は病死している。

 

ネタバレなしの感想

幕末最強の人斬り集団・新選組の副長・土方歳三の峻烈な生涯を描いた

司馬遼太郎さんの『燃えよ剣』。

 

本書は、多くの人がイメージするであろう新選組や土方歳三、それに沖田総司などの

元ネタ的な本なので、寡黙な仕事人の土方歳三、土方に懐く沖田総司、

新選組のトップでありながらどこか存在感が希薄な近藤勇となっている。

 

新選組の有名な隊士や事件などは描かれているけれど、

正直それほど事件の背景や人物などが詳細に描かれているわけではない。

また時代背景も本作だけだと、

幕末の政治の二転三転というものを理解するのは難しいかもしれない。

主人公の土方歳三の生涯に重点を置いた小説になっているので、

土方歳三の剣に生きた様や、鳥羽伏見や戊辰戦争での劣勢の状況の中での

戦いぶりなどが本書の魅力になっている。

 

何度目になるのか分からないほどの再読だけれど、やはり『燃えよ剣』は面白い。

土方歳三は立身出世を望むわけでもなく、政治に興味があるわけでもない。

ただ単に新選組を強くして新選組を節義にのみ生きる武人集団にしようとする

その中で土方歳三という存在がより輝きを増すのは新選組瓦解後。

例えば近藤勇との対比として描き、

それによって土方歳三というキャラクターがより鮮明に描かれていて、

土方歳三が節義を守り、男の美学を貫くという物語になっている。

 

司馬遼太郎さんの作品は久しぶりに読んだけれど、

文章はかなり読みやすかったので、読書初心者でもかなり読みやすいはず。

また司馬遼太郎さんの作品の中では上下巻で比較的短くまとまっているので、

おすすめの一冊

 

 

ネタバレありの感想

久しぶりの再読だけれど、正直上巻は面白い!と唸るほどでもなくて、

新選組結成前の七里研之助たちとの戦いは命のやりとりがあるとはいえ

喧嘩師・土方歳三のデビュー戦的位置づけで、そこまで派手さもない。

また新選組結成直後の芹沢鴨一派の粛清もかなりあっさりしたものになっている。

新選組の名を挙げた有名な池田屋事件は、

土方歳三は別動隊なのでそこまでの活躍はしていない。

 

それが俄然面白くなってきたのは上巻の終盤で、伊東甲子太郎たちが登場したあたり。

伊東甲子太郎という学問ができて、

尊王攘夷という思想を持っている人物が出てくると、

それの対比としての土方歳三がより活き活きとしてくる。

さらに新選組瓦解後では、「時勢に乗ってはじめて英雄になれる」近藤勇との

比較としての土方歳三の強さが描かれているので分かりやすいものになっている。

 

また節義に生きるという滅びの美学的な要素もありつつ、

土方歳三自体は洋服を着たり、まげを切ってオール・バックにしたりと、

ただの古い人間ではないというのも魅力のひとつになっている。

 

ラストは函館政府が降伏するのを察しながらも、

土方歳三は戦いというかを死ぬことを選択する。

この時に死んだ近藤勇や沖田総司などを登場させて

さらには新選組の生き残り隊士も登場させるという心憎い演出をしている。

 

歴史小説ということで、

人によっては史実がどうだこうだと言う人もいるのかもしれないけれど、

個人的にはそんなこと関係なくとにかく面白い

また本書の土方歳三の生き様を読めば、前向きな気持ちになれるので、

その点でも私にとっては非常に素晴らしい小説

 

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