【司馬遼太郎】『新史 太閤記』についての解説と感想

新史 太閤記

本記事では司馬遼太郎さんの小説『新史 太閤記』を紹介します。

新史 太閤記

著者:司馬遼太郎

出版社:新潮社

ページ数:上巻:560ページ

     下巻:544ページ

読了日:上巻:2025年6月19日

    下巻:2025年6月22日

満足度:★★★★☆

 

司馬遼太郎さんの『新史 太閤記』

 

あらすじ

尾張国愛知郡中村の農家に生まれた藤吉郎は、銭を生んで歩く商人に憧れていた。

萱津村に十人の商人隊である高野聖がやって来た時に、

誘われて商人になろうとするも、高野聖が本願寺門徒に討ち殺されてしまう。

藤吉郎は尾張、美濃などを転々として奴隷や小物になり食いつないでいたが、

十五の時に駿河の今川家の被官・松下嘉兵衛に拾われる。

しかし朋輩から嫌われた藤吉郎は、尾張に帰り織田家に仕えたいとある決意をする。

 

主な登場人物

・羽柴秀吉:本作の主人公。木下藤吉郎→羽柴秀吉→豊臣秀吉。

      織田信長にその才能を見出されて、立身出世を遂げる。

・寧々:羽柴秀吉の正妻。浅野又右エ門の養女。

・織田信長:尾張の大名。

・前田利家:織田家の武将。

・柴田勝家:織田家の家老。

・丹羽長秀:織田家の家老。

・羽柴秀長:羽柴秀吉の異父弟。

・蜂須賀小六:羽柴秀吉の重臣。

・竹中半兵衛:羽柴秀吉の軍師。元は美濃の斎藤家の家臣。

・黒田官兵衛:羽柴秀吉の軍師。元は播磨の小寺家の家老。

・徳川家康:三河・駿河の大名。織田信長の同盟相手。    

 

ネタバレなしの感想

本書『新史 太閤記』は、タイトルから分かるように太閤・豊臣秀吉が主人公の物語

物語は秀吉の少年時代からはじまり、天下を獲るまでを描いている

 

本書のストーリーは、

尾張国愛知郡中村の農家に生まれた秀吉は、継父との関係もあり寺に入れられる。

そんな藤吉郎だったが、村を訪れた商人と出会ったことにより、

そこから商売の世界に魅了されて、

寺を出て商人の道を歩むことを決意するというもの。

 

ということで、少年時代の秀吉が商人を志すところから物語は始まる

もっとも当然ながら秀吉は、その後織田信長に出会い、

運命を大きく変えていくことになるんだけれど、

この「商人」であるとか「商売」というのが

本書の秀吉を語るうえで、外せないキーワードの一つ

秀吉は信長から領地を加増された時には、

それ以上のものを稼ぎとらねばならないという考え方をする人間で、

人間を道具と思っている信長と、

信長の道具であろうとする秀吉という関係。

ここらへんはかなり実利的な考え方になっている。

 

さらに秀吉の特徴のひとつは天性の人たらしで、

この人たらしを諜報調略に活かしたり

さらには気難しい主君である信長や織田家の重臣たち相手に巧く立ち回っていく

ここらへんは上記の「商人」や「商売」的な思想と相まって

サラリーマンの会社での出世競争を彷彿とさせるものになっている

 

本書の秀吉はとにかく陽気な人物魅力に溢れている

諜報調略というのは見ようによっては陰を感じさせることもあるけれど、

秀吉の場合は陽気さと誠実さでそう感じさせないので、

読んでいて嫌な気分になることがない。

それどころから読んでいると、

秀吉という人物の魅力にどんどん惹かれていくことになる。

豊臣秀吉を知っている方も知らない方も読んで損はしない作品になっている。

 

 

ネタバレありの感想

まず大雑把に区分けすると、上巻は織田信長に仕える前と仕えた後、

下巻は主に織田信長が死んだ後になっている。

仕える前の話は秀吉の幼少時で商人を志すも、

それが叶わずに奴隷や物乞いをしたり、

今川家の松下嘉兵衛に仕えるも同僚に疎まれるという苦難の時代になっている。

この時代の経験が後の秀吉に影響を与えているのと、

織田家以外の環境などを知ることができるので結構面白い

 

その後の織田信長に仕えた後の話になると、いよいよ秀吉の本領発揮で、

大きいところとしては、有名な墨俣の築城や岐阜攻略

小さいところでは薪炭奉行など読んでいて飽きさせないものになっている。

また秀吉自身は「武」に秀でているわけではないけれど、

岐阜城攻略においては秀吉自身も命を賭けているので

ここらへんも秀吉を好きになるところ

 

そして下巻の織田信長が本能寺の変で死んだ後に関しては、

織田信長というくびきから解放された秀吉が、

自身の天下取りのために策を縦横無尽にめぐらすというのが

非常に魅力的に描かれている。

中国大返しはまさに一世一代の大勝負だし、

その時でも毛利家に対しては一定の配慮をして手紙を出しているのが心憎い。

その後の柴田勝家を相手にしている時の秀吉は神がかっているし、

読んでいて興奮するものになっている。

本書の最後になる徳川家康に関しては局地戦に置いては家康に巧くやられるも、

大局的には織田信雄を調略して、

さらには秀吉の異父妹や実母を家康への事実上の人質に差し出すという形で、

家康を調略することになる。

しかも、これだけだとどうしても陰のイメージになるけれど、

秀吉の場合は家康の宿舎に単身で訪れるという大胆不敵な面があるので

物語のハイライトに相応しいものになっている

 

本書に関しては天下を獲った後の話がないのは残念だけれど、

それ以外はかなり満足することができた。

 

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