【乾くるみ】『イニシエーション・ラブ』についての解説と感想

本記事では乾くるみさんの小説『イニシエーション・ラブ』を紹介します。

イニシエーション・ラブ

イニシエーション・ラブ

著者:乾くるみ

出版社:文藝春秋

ページ数:272ページ

読了日:2024年9月5日

満足度:★★★☆☆

 

乾くるみさんの『イニシエーション・ラブ』。

タロットシリーズの「The Lovers(恋人)」。

「2005本格ミステリ・ベスト10」の6位、

このミステリーがすごい!2005年版」12位。

2015年に松田翔太さん主演で映画化されている。

 

あらすじ

鈴木夕樹は、大学の友人の望月大輔から、

代打で呼ばれて参加した合コンで出会った成岡繭子に惹かれるが、

奥手な性格もあり、それ以上の言葉を交わすこともできなかった。

しかしその後同じメンバーで海に行くことになり、

成岡と再会した鈴木は、ふとしたきっかけから電話番号を教えてもらう。

一週間後、鈴木は意を決して電話をかけたところ、

成岡も鈴木に対して好意を持っていたため、デートの約束をすることに成功する。

毎週デートを重ねるうちに二人は「たっくん」「マユちゃん」と

呼び合う仲になっていく。

 

登場人物

・鈴木夕樹:静岡大学の数学科の四年生。趣味は読書で主に推理小説を読む。

      家庭教師のアルバイトをしている。

・成岡繭子:歯科衛生士。松本優子たちとは高校の同級生。

      趣味は読書で、古典文学を好んでいる。

・望月大輔:鈴木の大学の同級生。合コンの幹事。

・大石:鈴木の大学の同級生。渾名はがっちゃん。

・北原:鈴木の大学の同級生。特技は手品。

・松本優子:望月大輔の恋人。静岡大学の教養部の二年生。

・青島ナツコ:静岡大学の教養部の二年生。

・渡辺和美:薬大生。

 

・海藤:鈴木と同期の新入社員。名古屋大学卒業。

・石丸美弥子:鈴木と同じ課の新入社員。慶応大学卒業。

       大学では劇団「北斗七星」に所属していた。

       姉は蓬莱美由紀。

・永瀬:鈴木の先輩社員。鈴木の教育係。

・梵:鈴木と同期の新入社員。海藤と同じ課。

・松島ジュンコ:石丸美弥子の後輩。慶応大学の学生。劇団「北斗七星」所属。

・日比まどか:石丸美弥子の後輩。慶応大学の学生。劇団「北斗七星」所属。

・天童:石丸美弥子の元恋人。慶応大学の物理学科卒。

    『アインシュタインかく語りき』の脚本を書いた。

 

ネタバレなしの感想

イニシエーション・ラブ』に関しては、以前一度読んだことがあって、

世間で話題になる前だったから、比較的早い段階で読んだと思う。

といっても単行本発売時から各種ランキングに入っていたようなので、

ミステリー好きには知られた本だったんじゃないかな。

私は2008年ぐらいに当時見ていた個人の読書感想のサイトで本書を知ったのが

きっかけで読んだはず。

 

基本的には恋愛小説なので、殺人事件が起きるわけでもなく、

大きな謎が提示されるわけでもないので、読んでいて面白いとはいいにくい。

時代設定が80年代なので、若い人が理解できるのかどうか。

(正直、私も何となく知ってる程度でしかないのが多い。)

セックスシーンの描写が何回かあり、

結構しっかり描かれているので、おすすめするのに躊躇する。

以上を気にしないのであれば、

270ページちょっとなので、事前情報を入れずに、

さらには余計なことを考えずに読んだ方が良い。

正直、私としては手放しにはおすすめはしにくい。

 

 

ネタバレありの感想

今回、改めて読む前に文庫の裏表紙を読んだけれど、

ここにハッキリと「最後から二行目(絶対に先に読まないで!)で

本書は全く違った物語に変貌する」とあるので、

正直結構なネタバレ要素だよなとは思ってしまった。

もっともこの売り文句がないと読んでもらうのも、

色々難しいのも事実かもしれないので、仕方ないのかな。

 

私は一回目は読む前に叙述トリックものだということは知らなかったけれど、

何かあるというのは知ってはいたので、

sideBを読んでる途中に薄々気づいた記憶がある。

今回改めて読むと、sideBの途中から鈴木の暴力性や酒癖の悪さが出てくるけれど、

これを違和感とするか、鈴木の本性と解釈するかは、

どっちともとれるのが一回目の読んでる途中だと難しい。

 

最後の二ページで「ん?」となって、

最後の二行でハッキリおかしいと気づく構成は、やはりうまい。

sideAの「たっくん」が大学四年生、

sideBの「たっくん」が入社一年目の社会人ということで素直に読めば一年後だけれど、

実際には同時進行していたということで、

これによって途中までは読者が成岡繭子に同情していたのが、

成岡繭子の印象も一変してしまうと。

これは非常に巧いし、印象に残ることは間違いない。

 

時系列のまとめは、ネット探せばあるんだろうけど、

ネット見るより自分で二回目を読んだ方が楽しい気がする。

考察とは違うのでそこまで難しくはないだろうし。

叙述ものだと結構代表的な作品として挙げられるけれど、

内容は恋愛小説ということもあり、珍しいのもあって読んでおいて損はないかな。

 

ただ賛否両論というか否定的な意見も、

それなりの数あるのは分かるといえば分かる一冊。

本書を読むと何でミステリーで最初に殺人事件が起きるのかがよくわかるのも事実で、

最初に大きな謎を提示して物語にひきこませたり、

次がどうなるのか?と読者の興味をひくのが欠けてるので、

どうしても評価は辛くなってしまう。